70.魔女を狩る魔女
「さて、これで一般人には、この部屋の中は空っぽに見えるから、安心してお話が出来るわよ」
「姉さん。この床にも、当然、結界を張っていますよね?
奴らが、下の部屋から侵入してくることも考えられますから」
「あら、この間、お椀をかぶせたような結界を張ったマコトとは、違うわよ」
「はいはい。あれは、僕も間抜けでした……」
「みんな、もう少しバラバラに座って。
いざというときに動きやすいように。
…………そうそう、それでいいわ。
――ええと、何から話をすればいいかしら?」
「ミナお姉様。炎竜ってどんな竜なのでしょうか?」
「ゴジラのようなドラゴンよ」
「ゴジラ?」
「いや、ゴッズィーラね」
「姉さん。冗談は止めましょう。カナが本気にしますから。
カナ。本当は、姉さんも僕も、詳しくは知らないんだ。
体の中に宿る話も、初めて聞いたし」
「そうなんですか?」
「とてつもない巨大なドラゴンで、鉄をも溶かす炎を吐く。そういうのがいた、という言い伝えを小さいときに聞いたことがあるだけよ。
実物はもちろん、写真も絵も見たことがないの」
「僕も同じく」
「そうなんですか」
「マコトの言うとおり、体に宿る話も、今聞いたわ。
だから、ごめんなさい。
これ以上は、わからないわ」
「いいえ。
じゃあ、あのお方って誰ですか?」
「いよいよ、その質問に答えないといけないのね……」
「何か、聞いてはまずいことですか?」
「ええ。名前を口にするのも怖れ慎むべき人物です。
その名前は、……十一姫」
「くのつぎ、いつき?」
「その昔、ヤマト国に邪悪な魔法を操る一族がいて、それを一人で討伐した魔女よ。
眷属を入れて、百人余りをいっぺんに」
「へー」
「そう言うと女傑みたいに聞こえるかも知れないけれど、そのやり方が残虐なの。
恐ろしくて、とても口では言えないわ。
討伐後、有名になってからも、悪事を働く魔法使いを何人も手に掛ける」
「一応、正義の味方――なのですよね?」
「そうよ。人殺しが好きな正義の味方よ。
なんか、変に聞こえるかも知れないけれど。
それが、戦後――第二次世界大戦後に、少し大人しくなって、凶悪事件を引き起こした魔法使いだけを殺すようになって――」
「えっ? 戦後って、百年以上前の話ではないですか?」
「そうよ」
「えええっ!? いったい、おいくつなのですか?」
「たぶん、二百歳」
「うそっ……」
「会うとわかるけれど、二十代の顔にしか見えないわ」
「人間――ですよね?」
「人間……とは聞いているけれど、今は人間というか、魔物というべきか」
「……」
「さて、あのお方はこれくらいにして、次は何だったかしら?」
「ヴァルプルギスの魔宴のことです」