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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
66/188

66.胸の奥でうごめくもの

 ホテルに戻ったカナは、真っ先にベッドへと向かう。


 そして、後ろ向きになると、両手を広げながら、天井を仰ぎ見た。



 ここで、頭を後ろに動かす。


 すると、体がゆっくり後ろへ倒れていく。



 この時に感じる、後ろ向きに落下するような感覚。


 それは、若干の不安はよぎるものの、自由落下に似て、ドキドキする。



 後頭部と背中に感じる衝撃。


 スプリングが硬めのベッドの上で弾む上体。


 同時に、腰も足までも浮く。



「あらあら、大股を広げた大胆なカナ、はっけーん」



 ミニスカートから伸びた両足が、大きく開脚しているところを、部屋に入ってきたミナに目撃されてしまった。



 だが、カナは、足をだらんとさせて、スカートの中を見せたまま。


 彼女の頭の中は、車中で起きた突然の鼓動のことで一杯だったのだ。



 なので、今どんな格好でいるかなどは、全く関心がなく、ミナたちが部屋に入ってきたことも気づいていない。


 これには、彼女の手荷物を抱えてきたマコトも、見かねて忠告する。



「カナ。いくら家族の前でも、そこまで見せない方がいいよ」


「マコトお姉様。カナお姉様は、疲れていらっしゃるのですわ。

 私たちが見ないようにしましょうよ」


「あらあら、紳士ぶっているマコト、はっけーん。

 いつもカナが風呂から上がって、着替えを探しに裸で走り回っている姿をみて、ニヤニヤしているのは誰かしら?」


「姉さん。それとこれとは別です」


「えええええぇ、別なのおおおおおぉ???」


「別ですって」


「ホントは、じっくり見たいんじゃないの?

 うり、うり」


「み、見たくありませんよ」


「裸でも??」



 そんな姉妹の会話も、カナの耳には届かない。


 彼女は、天井の模様の一点を見つめて、ジッと思いを巡らせる。



 なぜ、ドクンとなったのだろう。


 何をしたから、そうなったのだろう。



 彼女は、記憶を子細にたどっていく。


 一挙手一投足、発した言葉をも振り返る。



(あっ……、もしかして、この言葉を口にしたから?)



 鼓動が起こる直前に発した言葉が、記憶の中から鮮やかに蘇ってきた。


 それが、ふと、彼女の口から漏れ出る。



「そうね。もし見せられるなら、今ここで見せてあげ――」



 ドクン!



 胸の谷間辺りで再び起こった鼓動。


 心臓の何倍も響き、今度は、痛みを伴う強いもの。


 カナは、咄嗟に右手でそこを押さえる。



(やっぱり!)



「あらあら、今から脱ごうとしているカナ、はっけーん」


「ちょ、ちょ、ちょっと待った、カナ!

 ぼ、僕はカナの裸を見たいとは言っていないよ!」


 カナは、慌てふためくマコトの言葉で我に返り、寝転がったまま顔を上げた。


「あらあら、もう見飽きたとか?」


「姉さん!」


 ようやく、二人の姉が自分の方を向いていることに気づいたカナは、眼球が飛び出るほど驚く。


 そして、左手でミニスカートの上から股間を押さえ、急いで足を閉じた。


「カナ。その右手は?」


「マコトお姉様……。私……」


 カナは、胸に手を当てたまま、急いで上体を起こした。


「胸でも痛むのかい?」


「いいえ、ここに…………胸のこの奥に…………」


「胸の奥に?」


「……何かがいる」


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