65.炎竜の胎動
「おやぁ? 秘密にしていたところを、突いちゃいましたかねぇ?
でも、炎竜のことは、カトリーン・シュトラウスが知っているくらいだから、もう秘密じゃないですよね?」
「……」
「その炎竜とやらは、黒猫より強いのですか?
まあ、ドラゴンでしょうから、猫ごときよりは強いことくらい、なんとなくわかりますがね。
次の試合に、とっておきの使い魔として登場させるのですか?」
「……知りません」
「えーと、聞こえないんですが」
「炎竜のことなんか、知りません!」
「嘘は困りますよ。
知らないことないでしょう?」
「……」
「あれぇ? やだなぁ……。
あのねぇ、言いたかないんだが、こっちも、ガキ、おっと失礼、魔法少女の相手だけしているほど暇じゃないんで、さっさと本当のことを言ってくれないと――」
「知らないものは、知りません!!」
カナは、急いでガラス窓を閉める。
それが合図であったかのように、自動運転車がゆっくり発進し始め、立ち塞がる記者たちを横へ退けた。
前方に人がいなくなると、車は、遅れを取り戻そうと速力を上げた。
「姉さん、ナイス強制発進です」
「あらあら、こっそりボタンを押したの、バレバレねぇ」
「ミナお姉様。いつの間に操作できるようになったのですか?」
「それにしても、失礼な奴でしょう? あいつ。
ヤマト国のみならず、世界を相手に戦える、優れた魔法の持ち主を、ガキ呼ばわりですから」
「腹を立てちゃ駄目よ、あんな人の言うことなんかに。
右から左に聞き流しなさい。
心の声がポロリと出て、本心がわかっただけでも、ラッキーよ」
「カナお姉様は、ガキなんかじゃありません!
インタビューにキチンと答えた、立派な大人です!
イリヤも見習いたいです!」
とその時、カナが三人の会話に割り込んだ。
「ミナお姉様、マコトお姉様。
教えてください。
私が炎竜を宿しているって、何のことですか?」
「そんな話、知らないわよ」
「姉さん、僕もです」
「でも、カトリーン・シュトラウスさんが――」
「僕は、彼女が誤解していると思うけど。
家族が知らないことを、なぜ他人が知っている?」
「他人の方が知っている、ということもあるのではないかと」
「なんだか、いかにも炎竜を宿していることが事実であるかのような言い方だね?」
「もしかしてってこともありますし。
気になるのです」
「なら、それが事実だとして、カナはその事実にどう向き合う?」
「……」
「ゴメン。困らせちゃったね」
「マコトお姉様。私、自分が……怖いのです」
「ん? 急にどうしたのかな?」
「今日、マリアンヌ・ロパルツさんとの試合でドラゴンを倒した後で、自分の左手の力が恐ろしくなったのです。
もしかして、それが炎竜と関係があるのではないでしょうか?」
「考えすぎだよ。
理由付けを求めて、短絡的に新しい情報と結びつけたような無理があるね」
「どうしてですか?」
「だって、炎竜が体の中で活動していて、カナの魔力に手を貸しているなら、カナの体は耐えられないはずだよ。
だって、ドラゴンが丸々一匹、体の中にいるのだから。
それとも、手のひらサイズのドラゴンなのかい?」
「カナお姉様。手のひらサイズなら、イリヤも欲しいです。
見てみたいです」
ミナとマコトとイリヤは、大いに笑う。
カナは、少し遅れて微笑を浮かべた。
「そうね。もし見せられるなら、今ここで見せてあげ――」
とその時、カナの胸の谷間辺りに、ドクンという大きな鼓動に似た音が聞こえた。
心臓とは少しずれている位置なので、心臓の鼓動ではない。
驚いたカナは、思わず右手で、鼓動があった箇所を押さえた。
そして、心臓のある位置を左手で押さえ、これとは違う鼓動であったことを確かめた。
「カナお姉様。どうなさったのですか?」
「……ううん。別に」
幸い、大きな鼓動は一回のみだった。
体の中で、心臓以外の部分から、唐突に大きな音がする。
(まさか……私の体の中に、何かがいる?)
カナは、イリヤに笑顔を見せつつも、背筋に悪寒が走るのを感じていた。




