64.暴露された炎竜
大会二日目は、主催者側にとって、いくつもの想定外があった。
まず、優勝候補筆頭の七身ユカリが敗退したこと。
彼女が消えた時点で、客が帰り始め、視聴率が1ポイント下がった。
次に、いずれの試合も早めに決着が付いて、興行としては面白みに欠けたこと。
終了時間が予定より2時間も短くなってしまったのだが、勝負は水物とはいえ、あまりにお粗末であった。
選手たちの間では、すでに、組み合わせの抽選が意図的であるという噂が広まっていたが、それが事実だとしても、実力差のありすぎる者同士を組み合わせたのは失敗である。
そして、準決勝に残った四人は、全員十四歳以下だったこと。
年齢制限が十五歳以上だった第一回には参加していないメンバー、つまり初顔だ。
魔法の実力は重ねた年齢と無関係、ということが実証されたことになる。
準決勝に勝ち進んだ四人は、報道陣に取り囲まれてもみくちゃになった。
ヒーローインタビューなどないので、ホテルに帰る選手を捕まえるしかないから、記者も必死だ。
だが、カナは姉妹に守られながら、一言も発することなく自動運転車に滑り込んだ。
「あらあら、すっかりヒーローねぇ」
「姉さん。あそこにいる記者、ひどく無礼な奴で、本当に頭にきました。
魔法で懲らしめていいですか?」
「マコトお姉様! イリヤは、あの人に足を思いいいいいっきり踏まれました!
マイクで、頭を叩かれました!」
「あらあら、進路妨害発生」
「うわっ! あいつ、今度は、車の前でとうせんぼ……。
自動運転車が止まることを知っていてやっているな!」
「ひどすぎます!」
「私が取材に応じます」
「カナ! それは止めた方が――」
「いいえ。マコトお姉様。
この状況では、どいてくれそうにありませんし」
カナはそう言って、自分の右側のガラス窓を開けた。
一斉に、記者がマイクを突っ込む。
「カナさん。準決勝進出おめでとうございます。今のお気持ちは?」
「ありがとうございます。これもファンの皆様の声援があってこそですから、皆様のおかげです。
感謝の気持ちで一杯です」
「次は、カトリーン・シュトラウスと対戦でしょう?
秘策はありますか?」
「組み合わせは聞いていません。
なぜ、その組み合わせだとわかるのですか?」
「次は、黒猫を使うのでしょう?」
「まだ決めていません。
それより、明日の組み合わせをなぜ――」
「聞いた話によると、カナさんは、炎竜を宿しているのだとか?」
「えっ? 誰がそんなことを――」
「君! でたらめもいい加減にしたまえ」
「あっ、マコトさん。本当にでたらめなのですか?
カトリーン・シュトラウスが言っていましたよ。
次の試合で、そいつを引きずり出すと。
困るなぁ、嘘をつかれると。
それとも彼女が嘘をついているのでしょうかねぇ」
車内では、無言が支配した。