武道を始めた理由
「なにしてんの、あなたたち~? 何話してたのか結局イミフだったけど、結局見捨てられたね~。その程度の関係だったんじゃん」
「すぐには殺さないよ~。二人の仇、じっくりと嬲ってあげる~。まずは君から、その後でみなもの番~」
女がなぎなたで脛を払ってくる。僕はかかとで尻を蹴るようにして脚を上げ、かわす。
「ほいっ~」
なぎなたが空を切った次の瞬間、女が手首を返しなぎなたの軌道を百八十度変える。次に狙うのはもう片方の脛。
片足立ちになった僕はフットワークが鈍っている。短剣では脛まで届かない。転がるようにして脛が両断されることだけは避けたけど、なぎなたの鋭い切っ先が掠めた。
脛の骨の太いほう、「脛骨」が切られて出血した。痛みの神経は骨の表面、「骨膜」に集まっているから激痛が走る。
「まずは片足~」
女が相変わらず間延びした声を出す。余裕の表れか、なぎなたを肩に担いで構えすら取っていなかった。いらいらするな。
「とりあえず~、手足全部使えなくしてダルマみたいにしちゃお~」
女が再び斬りかかってきた。
数分後、僕は両手両足の腱や神経を全て切られて地面に転がっていた。
「あはは~。みじめ、みじめ~。人がみじめに転がって悔しそうな顔を見るのって、サイコーの快感だよね~。だから武道って大好きなんだ~」
人をいたぶるために武道を始めた口か。死ねばいいのに。
でも、僕にはもう攻撃手段が無かった。手の腱を切られたから短剣を持つことすらできず、武器は地面に転がり、輝いていた刀身は土で汚れ、柄はなぎなたで叩き切られ、へし折られていた。脚は既に感覚すらなく、立つどころか転がることさえできない。
「はい、はい、はい~」
女はもうなぎなたの刃すらもう使わず、柄で殴りかかってくる。
肩を打たれて肩甲骨が砕け、鳩尾を突かれて胃の物質が全て逆流する。食後時間が経ち、胃酸をたっぷりと含んだ胃液は喉が焼けそうに熱かった。
痛くて、辛くて、苦しくて、惨めだ。コカトリスに喰われかけた時を思い出す。
女はとうとう飽きた様子で、
「もう疲れちゃった~。 バイバイ~」
そう言いながらなぎなたの切っ先を僕の喉につけた。
でも感覚がおかしい。切っ先の冷たさも、傷口の熱さも残っているのに。
なにか違和感がある。まるで、自分の身体がそこにないかのような……
まさか。
僕は全身の血が冷たくなるのを感じた。唯一動く首を思いっきりねじり、地面に埋まっている石を咥えて口で引っ張り、身体を強引に回転させる。全身に激痛が走るけど知ったことじゃない。
何も見えない空間で、何かがぶつかったような感触がした。
女のなぎなたの切っ先が何もない空間にめり込むと、血が吹き出てきた。
お腹を貫かれたエデルトルートの身体が、横たわっていた。




