逃げ出した
それからは防戦一方だった。
バトルジャンキーなのに、元からなぎなたの使い方が上手いのかまったく隙がない。おまけにレベル差が相当あるのか、こちらの攻撃が当たってもダメージが無い。僕の短剣が鳩尾に入っても弾き返され、ドルヒの手刀が喉に決まっても傷一つ付かなかった。
でもドルヒが勝算なく戦いに入ったとは思えない。
女との間合いが開き、僕とドルヒがかなり近くに立ったので聞いてみることにした。
「ドルヒ、なんでこの状況ですぐに戦おうと思ったの? もっとレベルを上げてからの方が良かったと思うんだけど」
「では逆に聞くがな、相棒。貴様は復讐対象者がすぐ近くにいるのに待っていることができたか?」
「なるほどね……」
僕はそれで理解できた。どれだけ殺気を隠そうとしても、笑顔で近づいても、殺したいっていう純粋な気持ちを抑えることはできなかった。
「でもとても勝てそうにないんだけど」
二人がかりでも防戦一方だ。エデルトルートがいても結果は同じだっただろう。
「問題ない、策ならある」
ドルヒが自信たっぷりに言い切ったので僕は興味を持った。女も同じなのか、ドルヒの次の台詞をわざわざ待っている。
「相棒、吾輩を殺せ」
女が、呆然とした。何言ってんだコイツ? 的な目でドルヒを見ている。
嫌だな、こう言う反応。クラフト持ちなら常識が通じない思考があることくらいわかるはず。なのに人は人を常識で判断する。少し変なことを言ったらねちねちといじりまわすか、白い目で見るかする。人間のクソみたいな面の一つだろう。
「そうすれば相棒のレベルがかなり上がる。はるかに勝つにはそれしかない」
「何言ってるの、そんなことできるわけないだろ? それに、これは君の復讐だ。なら、キミが僕を殺すのが筋だろう」
ドルヒは僕の台詞を聞いて、口元を緩ませた。目には一筋の涙が光っている。
「そうだな、相棒。吾輩が間違っていた。最後の復讐相手と対峙できたのが嬉しくてヒロイックな感情に酔っておった。ならば当初の計画通りいくか。相棒はこいつの足止めを頼む」
ドルヒはそう言って、一目散に逃げ出した。脚力を活かし、地面を飛ぶように跳び、森の中に入るとあっという間に見えなくなる。
なぜ逃げたのかはわからない。でもドルヒが殺そう、といったのだから殺すための行動のはず。ならば僕はドルヒを信じて足止めするだけだ。




