バトルジャンキー
霧の中から出てきたのは、なぎなたを構えた少女だった。おそらくあれがクラフトだろう、刀身に複雑で精緻な模様が刻まれており、敵の血を溝へ流す役割と装飾を兼ねていると思われる。さらに軽装の鎧に身を包んでいた。一見地味だが随所に宝石があしらっており、あれだけで家が百軒は買えそうだ。
顔の造形は、いわゆる美人なのだろう。でも特に興味がない。どうせ死ねば腐って原形がなくなるのだから。
ドルヒの様子を見ると、緊張と歓喜で手が震え、口元が妙な感じにゆがみ、奇声が口から漏れている。
うん、わかるよその気持ち。
僕も剱田や清美を目にした時は、外見の反応は違うけどそんな気持ちになったしね。
でも今回の復讐は一筋縄ではいかなさそうだ。このはるかという女、今まであった誰よりもレベルが高い。
勝てるのか……
しかし彼女の強さを僕よりも知っているはずのドルヒにひるむ様子はない。
なら、戦おう。
「無論、そうだ。我々が殺した」
ドルヒは首肯した。口上なんて無視して跳びかかると思っていたから、意外だ。
「吾輩にしたことを考えれば、当然であろう」
「いじめられっ子の癖して、生意気じゃん」
「……クズ人間が大層な口を叩くものだな」
「というか、そこの男、誰? カレシ?」
「……協力者だ」
「へー。ぼっちのあんたに協力者じゃん? しかも男? あやしいじゃん、身体を売ったんじゃん」
こいつ、喋り方にも思考にも品が無いな。
会話を聞いてて呆れと嫌悪感しかわいてこない。
「ドルヒを侮辱するな、女」
はるかとかいう名前だったけど、名前を呼ぶことすら口が腐りそうだ。
「へー、怒るんじゃん。けっこう良い仲なんじゃん」
いらつくな。こういう頭がわるそうな女は、人間関係にだけはさとくてそこをついてねちねちと嫌味を言うからさらにむかつく。
ひょっとして僕がこいつを殺したくなるようにわざわざトークの時間を取ってくれたんだろうか。ドルヒは相変わらず優しい。
でも、そろそろ殺すか。
「でももう、どうでもいいじゃん。きりえとしぐれの仇、死ぬじゃん」
僕が跳びかかる前、はるかはなぎなたを振りかぶり向かってきた。
僕とドルヒは全力で地面を蹴って跳ぶ。
大上段から振り下ろされたなぎなたの一撃が地面をえぐり、飛び散った石や土が飛び道具となって僕たちを襲う。
「避けた? 生意気じゃん」
表情が一変した。獲物を前にした猫のように、限定スイーツを目の前にした女子高生の様にイカレた感じだ。この女、バトルジャンキーか。
「ひゃははー! 死ぬじゃん、死ぬじゃん!」
次は横薙ぎに振りまわしてきた。ドルヒは跳んで避け、僕は短剣でガードしてなぎなたを止める。遠心力を活かした一撃は、レベル差もあるだろうけど剱田のクラフトとは比べ物にならないくらいに重い。
短剣を両手で持って受けたのに、弾き飛ばされてしまった。
「持ち方が固いじゃん。もっと手の内を柔らかくしないと、受けれないじゃん」
どうやらただクラフトを振り回しているだけじゃなく、元々なぎなたをやっていたらしい。剱田と違って理にかなった動きというか、我流じゃない感じがする。
「ひゃっは―! 楽しい、楽しいじゃん! こんなにてこずった相手はお前らが初めてじゃん! もっと私を楽しませるじゃん、そして惨めに死ぬじゃん!」
女はさらに表情と会話がイカレてきた。




