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ケモノの世界 告白編

「付き合ってあげても......いいけど」



「はぁ?」



 ストップストップ。えーと、多分いきなりこんな事になって皆困惑してると思うけど、我慢してくれよな。

 俺も困惑してるんだからさ。



 まぁ困惑してるなりには解説するさ。ちょっと待ってくれよ、今頭落ち着かせてるから............よし、オケ。じゃあ解説始めます。



 ――色々あった訳でもなく、俺達は中学生になった。精々変化といえば家庭科のスキルが伸びた事(俺は元々あった部分が大半なのでさして変化は無いが)、身長が伸びた事、体毛がかなり生えてきた事......後はケモノ化が四肢に若干及んで来た事位、か。



 ケモノ化といってもそれは耳程ハッキリしたものでは無く、他の人も合わせて大抵が爪が鋭くなってきただとか、少し指が太くなった程度のものだ。

 俺は爪が鋭くなっただけ。太くなった訳じゃないので、むしろ前よりカッコいいかもしれない。あんま不便でも無いし、ちゃんと切ってれば危なくも無いし。



 さてさて、本題はここからだ。俺は幼なじみと共に進学した訳だが......まぁ当たり前といっちゃ当たり前なんだが、あいつグレやがった。



 グレたといっても、もろに規則違反をする訳じゃない。ただちょっとワルっぽい事をしてみたりだとか、この位の年頃にもなると皆よくやるような事だ。



 だけれども、俺はしっかりと記憶している。

 あいつが俺の事をとーくんとーくんと呼んで純粋に慕ってくれていた事を......あれを覚えている俺からすれば、この変化は非常に大きなもので、俺の心に小さながらも傷を残すに足る変化だったのだ......



 別のクラスになり、たまにすれ違っても顔を背けられ、話し掛けようとしてもどっか行っちゃうし......



 うっ、うっ......俺は悲しいよ......唯一俺が心を許せる相手だったというのに......俺の心はポッキリと逝ってしまったよ......



 え、トモダチ? ナニソレシラナイ。



 いやさ、俺浮いてるんだよね。まぁ中学とかになったらいつもの事なんだけどさ。

 成績優秀。何をやらせても全て完璧にこなし、かつ優れた判断力、観察力に行動力。

 しかも言動は年の割に大人びていると来ている。いや中身はバカみたいな時間を生きた化け物なんだけど。



 こんな人間に、誰が近付く? 俺だったら近寄らないね。怖いよ、正直言って。

 誰も手出し出来ない、学校のトップに君臨する男、それが俺だったのさ。



 どうやら一部には俺の熱狂的ファンが存在するらしいが......俺は握手を求められた事も無い。孤高のスター的な? 多分そんな感じに映ってるんじゃないかな、俺。



 だからまぁ、あいつが遠くなったのはかなりの痛手だったのだよ。両親は今でも常に素顔隠すからなんか話し辛いし。



 ――これが今日の昼休み十分前までの話です。ハイ。



 幼なじみに突然呼び出された(実際はあいつの友達が俺に伝えに来たのだが。その女の子もだいぶ緊張してたけど)俺は、久し振りにウキウキな感じで屋上に出た。『ふっ、風が気持ちいいぜ』......とか言いながら。



 そんで、校庭をジーっと眺めてて俺に気付いてない幼なじみの犬耳を引っ張ってやったんだよな、俺。

 流石に調子乗りすぎたな、と自分でも反省してる。ホントに。



 まぁ当然口喧嘩っぽい話になる訳で。でも正直楽しかった。喧嘩とは言え、こいつとちゃんと話すのは久し振りだったし。こいつもそんな怒って無さそうだったし。



 そこから突然、だった。お互いさっきの喧嘩がバカらしくなって笑い始めた時、突然ポツリ、とこいつは言ったんだ。流石に俺も突然過ぎて変な声出ちゃったよ。



「だから、付き合ってやってもいいって、言ってる......のよ......」



 掴み掛かる勢いで俺に詰め寄った彼女は、途中で顔を真っ赤にして目を背ける。



「え、でもお前......俺の事嫌いになったんじゃ......?」



 しかし俺は未だ困惑したままだ。嫌いだったハズなのに付き合う? え? いや意味分からない。もちろん嬉しいけど、やっぱ気持ちってのは大事だと思うんですけどね、俺。



「そんな訳無いじゃない! ずっと、ずっと好きだった......小学校......いや、幼稚園の時からずっと! ......って何言わせてるのよバカ! は、恥ずかしい......」



 あの、え、はい? それじゃ、中学入ってから俺を避け続けてたのって......照れ隠し? 

 そんな......それじゃ俺は今までずっと、嫌われたって勘違いしてただけって事? なんだよ、それ......俺、最低じゃないか......



 とにかく謝らないと。まだ状況を全て飲み込めた訳じゃないけど、俺が今やらなきゃいけない事は謝罪だ。

 俺の身勝手な勘違いで、こいつは今まで苦しい思いをしてきたのかもしれない......そう考えたら、謝らずにはいられなかった。



「ご、ごめん!」



「え......?」



 彼女は悲壮な面持ちで顔を上げた............なんで? 俺は謝っただけ......って、あの言葉の後に謝ったらまるでフったみたいじゃないか! バカか俺は! 言葉すら正しく理解出来てないなんて......!

 何が今やらなきゃいけない事は、だ。今やっちゃいけない事の間違いだろーが! 



「私の事なんか、嫌い? そ、そうだよね、アハハ......私、私なんか......うっ......ずっととーくんに付きまとってばっかで......うっ......迷惑、だったよね。私なんか......」



「違う違う! 違うんだ! ただ俺はずっとお前に嫌われたって勘違いしてて、その事を謝ろうって思って......! そしたら焦ってなんか言葉間違えちゃって......あぁ何言ってんだろ俺......と、とにかく、俺はお前が嫌いとか、迷惑とか、そういうのは全然思ってなくて......!」



 なんか自分でも何言ってんのか分かんなくなって来た......大抵の事は経験して来た俺だけど、やっぱこういうのは全然駄目だ。



「うっ、うっ......」



「な、なんでまだ泣いてるんだよ!?」



「だって、だって......嫌いだった訳じゃないって、嬉しくて......うっ......うぅ......」



 そんなに嬉しそうに泣かれたらさ......なんか......変な気持ちになってくるからさ......泣くなよ......

 だって、段々可愛く見えてくるじゃんか......今までの可愛いじゃなくて、もっと恋愛的な方で、さ......



「返事......聞かせて......よ。とーくん。」



 彼女は涙をを袖で拭うと、いつもより少し和らいだ目で俺を見つめる。俺だけを。しかし、俺は......



「俺、俺は......」



 二人、見えていた。犬耳の幼なじみと、今ここにはいない、何処かで俺を見ている女神様。

 断言出来る。どっちも好きだ。今まで彼女にはそう思わなかったけど、それはあくまで今までは、の話だ。今では断言出来る。



 選ばなければならないのだろうか。どちらかを。でも、どちらを選んでも、俺はきっと後悔するだろう。

 彼女を選んだ場合は、死ぬ時彼女だけをこの世界に置いていく後悔。俺はこの世界で、彼女と共に死ねないのだから。

 また女神様を選んだ場合も、今度は縮まらない距離で俺は後悔する。直ぐ他の世界に転生し、長い間会えなくなる女神様。ただ女神様から力を貰っているだけの俺と、与えた女神様。

 距離とはこういう事だ。俺は彼女と一緒になる事を許せない。選んだとしても、俺は自分を許す事が出来ないだろう。それに、女神様が俺を好きかどうかも知らないのだ。俺は女神様の事を未だに、何も知らない。



 でもしかしそれは、全て自分本位の考え方だ。

 女神様は俺とずっと一緒になる事を望んでいるのかも知れないし、俺が転生する事を伝えなければ、幼なじみは俺と一緒に生き、一緒の世界で死んだ事になる。彼女は幸せだ。

 俺は自分勝手な堂々巡りの考えで、彼女の幸せを奪おうとしているのだろうか。

 もし彼女を選んだとして、死んだ後、俺は女神様とどう接すればいいのだろうか。



 駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ。頭がごちゃごちゃになってる。整理しよう。じゃないと選べない。


 俺が彼女を選ぶ。そうすると、彼女は幸せ。俺も途中まで幸せ。でも死んだ後、女神様と一緒にいられない。言葉のまま、永遠に。

 俺が女神様を選ぶ。そうすると、彼女は悲しむ。俺も悲しい。でも死んだ後......も、悲しいし、女神様と一緒になる事は当分無い......が、一緒になれたらずっと幸せ。

 どちらも選ばない。そうすると、彼女は悲しむ。俺も悲しい。死んだ後、女神様と一緒にもなれない。

 どっちも選ぶ。彼女は幸せ。俺は悩み続ける。死んだ後、当分女神様と一緒になる事は無い......が、一緒になれたら俺は幸せ。彼女の事を悩む事になるが。でもその内、忘れてしまうのだろう。無限に等しい時の中で。



 全てを統合して......俺を含めない皆が幸せなのは、なんだろう。

 やっぱどっちも選ぶ、かな。俺が最低なのは分かってるけど。でも、幸せだ。少なくとも、彼女は。

 女神様は許してくれるだろうか。もしかしたらこれに怒って、《ワールドトリッパー》の力を取り上げるのでは無いだろうか。

 でも、それでもいい。俺は充分過ぎる程生きたし、最後の世界がケモっ娘の世界というのも、悪く無い。

 なにより、俺は女神様に心酔しているんだ。女神様が決めた事なら、最初から俺に拒否権なんか無いのだから。



 或いは、彼女に全てを打ち明けてしまう、というのはどうだろう。別に誰かにこの力を話してはいけない、なんて言われていない。言ってしまって、彼女がそれを許してくれるなら......というのはどうだろうか。



 信じてくれるとは思えない。けど、信じてくれないならそれでもいい気がする。よし、これで行こう。これで......



「――とーくん、今別の人の事考えてた」



「えっ?」



 何秒、いや、何十秒も黙っていた俺を見かねたのか、彼女は突然口を開いた。顔を俯けて、肩を震わせながら。



「知ってたんだ、私。だって私、ずっと見てたもん。でもとーくん、たまに私じゃない、他の人の事を考えてた」



「ちがっ、それは」



「もういいよ、とーくん。私今回の告白、絶対フラれると思ってた。でも、とーくんは私の事嫌いじゃないって言ってくれた。それだけで私は、幸せ」



「違うんだ! 俺には秘密があって、それで......」



「秘密の一つや二つ位、誰にでもあるよ。私だって、さっきまであったもん。とっても大きな秘密」



「お前の、秘密......?」



 今はそんな事を聞いてる余裕なんか無い、そう分かっていた。なのに何故、俺はその秘密を聞く事を止められなかったのだろうか。



 彼女は俯けていた顔を上げると、今度は涙を拭わずに、言った。



「ずっと、とーくんが好きだったって事。ずっとずっと......私の憧れで、大好きな人でした」



「待っ......」



 俺と同じ犬耳が跳ねる。体が後ろに遠退く。俺は手を伸ばす。届かない。遠退いて遠退いて遠退いて......俺は彼女を追う事も出来ずに、その場で立ち尽くした。ただ、呆然と。



 選べなかった。俺は、誰も。

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