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魔法の世界 終末編

 まずはこの国を壊す事にした。この国は俺を牢に閉じ込め、母を殺し、父を狂わせた忌むべき国だ。ぶっ壊してやる。



「《コメルティア》」



 普段最大威力で使う事など無い、最強にして最大の破壊魔法、《コメルティア》。この国は国土面積が異常に広い。その全てを消し去るには、最大威力の《コメルティア》を使う必要があるだろう。



 しかし、この《コメルティア》は威力が高過ぎる故に、自身さえ滅ぼしてしまう魔法だ。恐らく、《ルシファー》でも防げまい。

 だが、今の俺には父様から教えて貰った《ウリエル》がある。《ウリエル》と《ルシファー》による二重のバリアを張れば、どんな攻撃でさえ跳ね返す事が出来るだろう。



「ははは、ははははは!!」



 見えた。



 青い空の上を包むような、巨大な黒。あれこそが《コメルティア》の魔法、重力操作によって落とされる隕石だ。

 しかし、思ったより巨大に見える。あの大きさなら、この星ごと壊してくれるのではないだろうか。なら、それはそれで好都合だ。一撃で世界を壊せるのなら手間が省けて良いというもの。



「壊れろ! 壊れてしまえ!」



 荒野で一人、俺は空に向かって叫ぶ。遠い何処かにある明るい火を全て消し去るために。



「ん?」



 あれはなんだ? 空を埋め尽くす黒の中に見える、幾つかの小さな光。それは段々と数を増して行き、まるで煌めく星々のようにも見えた。



「あれは......隕石を、《コメルティア》を破壊しようとしているのか? あんなちっぽけな光で?」



 それでもこの世界であの黒を見る人々にとっては、希望の光なのだろう。俺にとっては矮小な抵抗にしか見えないが。



「後三十秒......止められるかな?」



 無理だと確信していながら、俺はそう呟いた。でないと、心の何処かで燻る不安を消し去れなかったからだ。



「二十」



 空は明るい。



「十」



 空は眩い。



「五」



 空に光の柱が伸びる。



「三」



 空から光が消えて行く。



「二」



 ――空は青かった。



「い............嘘、だろ?」



 飛び散った隕石の破片が、世界各地に降り注ぐのが見える。流星はきっと、その各地に居る魔術師によって消し去られる事だろう。

 俺の復讐は失敗したのだ。



「あぁ、はは......そうだよな......俺だけが特別な訳じゃ、ないんだよな......」



 何故だろう。笑いが込み上げる。それに涙もだ。



 俺は、母を殺し、父を狂わせた世界に絶望した。しかし、世界はそんな絶望に満ちていたのでは無かった。

 世界にはこんな希望があるのだと言うことを、示してくれた。



 多分それが嬉しくて笑いが出て、もうそんな世界で生きられないから涙が出るのだろう。



「《ウリエル》」



 空より降る流星の一つが、迷い無く俺目掛けて飛んで来る。俺は世界への贖罪と、祝福の為に《ウリエル》を発動させた。



 途端、キィィィィという甲高い音を立てて流星が止まる。《ウリエル》が防いでくれているのだ。



「あ、がァァァァ!?!?」



 瞬間、俺の身を襲う絶望的なまでの痛み。

 そう、《ウリエル》は攻防一体反射魔法。俺が発動させた《コメルティア》を《ウリエル》で防げば、その反射が俺に帰って来るのは当然だったのだ。



 あまりの痛みに、俺は反射的に《ウリエル》を解除してしまう。だが......



「がッ............」



 《ウリエル》が解除され、次に流星の防御を行うのは《ルシファー》だ。俺に罪を与え、罰を与えた魔法。

 罪を憎んだ事もあったが、今は俺に罰を与えてくれた事に感謝しよう、《ルシファー》。



 そうだ。俺が最大威力の《コメルティア》を発動させた時点で、俺に助かる術など無かった。知っていたさ。

 分かっていた上で、《コメルティア》を使った。世界を壊して自分も死ねるなら、それで良かった。

 元々、助かる気なんて無かったんだ。



 でも、世界は俺に希望を見せてくれた。



 ――すまなかった、母様。ありがとう、父様。頑張ってくれ、世界へ。



 心臓を破壊された俺は、ただそれだけを考えてから、死亡した。


 ◇ ◇ ◇


「かッはァ! はぁ、はぁ......」



「お帰りなさい、トリプ。今回は随分と早かったですね」



 笑顔で微笑む女神様。もう十五年も会っていなかったのに、女神様と最後に会ったのが昨日の事のように思えるから不思議だ。



「あぁ。そうだな......ふぅ......ただいま、女神様」



 そんな女神様に、俺は息を整えてから微笑み返す。

 今回のは前のように引き攣った笑みでは無く、心の底からの笑みだ。



「自分の魔法で自滅だって言うのに、随分と嬉しそうですね」



「あぁ、嬉しいさ。少し残念な気持ちもあるけど、それ以上に嬉しい。こんな気持ちになったのは久し振りだよ」



「へぇ......何があったんです?」



「聞くなよ、知ってるクセに............まぁ、教えるけど」



「是非是非!」



 女神様は随分と嬉しそうな顔をしている。何がそんなに嬉しいのだろうか......



「世界の希望を見たんだ。とても美しかった、世界は」



「ふーん、そうだったんですねぇ......因みに、私は?」



「え?」



「ふぇ?」



 この女神様はいきなり何を言い出すんだ!? 



「い、いや、うん。綺麗......なんじゃないかな、多分」



 女神様の事は俺も確かに好きだけど......でもやっぱ、心の準備ってものがあるだろ? 

 沢山の時を生きてきた俺だけど、最後に多分と付けちゃう位には女々しいのだ。恥ずかしいし。



「『多分』~?」



 今度はいたずらっ子のような笑みを見せて俺に詰め寄る女神様。

 しかし、今回は前のようなドキドキは無い。女神様を見下げる形になっていたからだ。

 あの魔法の世界では、俺の身体はかなり長身だったのだ。その為、あの世界の体が適応されている今の状態では俺は女神様より身長が高い。それのおかげで、前のような暴走に陥りかけるような事もないのだ。



 ――しかしなんというか、これはこれで......可愛い。前のは魅惑的な可愛さだったけど、今回のは小悪魔的な可愛さだ。女神様が浮かべるいたずらっ子のような笑みがその感じを引き立てているような気がする。



「いやいや、間違い無く綺麗だよ」



「そうですか! 嬉しいです!」



 訂正して上げると、女神様は満面の笑みで飛び上がりそうな位喜んだ。こうやって素直な反応をされると、褒めたこっちもなんだか嬉しいな。



 ......しかし、どうしてこんなに今日の(この世界に日という概念は無いが)女神様は機嫌がいいのだろう。先ほどからも気になっていた疑問を、俺は聞いてみる事にした。



「なぁ、女神様」



「なんですか、トリプ?」



「どうしてそんなに嬉しそうなんだ?」



「トリプに褒められたからですよ?」



「あぁいや、そうじゃなくて、どうして俺が戻って来た時から機嫌がいいのかなって」



「それは......トリプが......」



 急に顔を俯け、ゴニョゴニョと呟き始める女神様。なんて言っているのか良く聞こえない。この場合は身長が高い事が災いしたかな。



「なんて言ったんだ?」



「......やく......から......」



「分かんないって。ちゃんと言ってくれよ」



「トリプが早く戻って来てくれたからです!」



 目を瞑ったまま、顔真っ赤。そして見上げられる体制。そしてこの台詞。マズイ。可愛過ぎる。萌え死ぬ。



「お、おう。そっか......それにしても女神様。俺が早く戻って来て、どうしてそこまで喜ぶんだ?」



 余りに可愛過ぎる物は却って目の毒となる。そう、俺は目を侵す猛毒である女神様を視界に入れない為に、目を逸らしたのだ。

 そうする事でしか、平常心を保ちつつ女神様と会話する方法を思い付かなかった。



「むう、トリプはいっつもそうやって目を逸らして......もしかして私の事、嫌い......なんですか......?」



 かと思えば、次は泣き出しそうになる女神様。すっごい繊細な感情をしているんだな、女神様は。流石に俺も焦ってしまう。いや流石にって言える程慣れてる訳じゃないんだけどさ。



「嫌いな訳無いさ! お、俺は大事に思ってるよ、女神様の事は......」



「ほん......とに?」



「もちろん!」



「良かっ......だっ......わだじ......トリプが早く帰ってきでくれて......ぐすっ......うれじかったから......一人は寂しいからっ......」



 そっか。そうだよな......考えてみれば、女神様はこんな何も無い場所で、ずっと孤独に過ごしてるんだもんな。俺が転生している間、ずっと。



 なら俺は......



「それじゃあさ、女神様。俺ずっとここに居る。ずっと一緒に居るからさ、泣かないでくれよ」



「それは駄目ですっ!」



 赤く泣き腫らした目を真っ直ぐ俺に向け、女神様は真剣な顔で俺に言った。それに俺は少しながら動揺してしまう。

 その女神様の碧眼は未だかつて無い程に真っ直ぐだったからだ。



「どうして? だって俺は女神様の為に......」



「私はトリプが生きてくれる事を願っています。だから、生きて下さい。私は、生きようとするトリプに惹かれたんですから......」



「でもそれじゃあ女神様が......」



「私の事なんかいいんです。トリプはただ自分の為に生きて下さい」



 違うんだ、女神様。俺は確かに、最初はもっと生きたいと願っていた。その為にこの《ワールドトリッパー》の力を使っていた。でも、今は違う。

 俺は女神様の為になりたい。もう他の世界で生きたいとかそんなんじゃなくて、ただ女神様のためだけに、女神様の隣でずっと彼女を支えられたら、それでいいんだ。いや、そうしたいんだ。



 だけど、言えなかった。違うって、言えなかった。だって、本当に女神様の為になりたいなら、彼女が俺に望む事をしなければならないのだから。

 そして、彼女は俺に生きてもらう事を望んでいる。それをしなくて彼女の隣に居たいと言うのは、俺のわがままだ。彼女が望んだ事じゃない。



 だから言えない。笑って受け入れるしか無かった。



「そう......か......分かった、女神様。俺は生きるよ。これからもずっと。もっと色んな世界を生きて見せる。だけどさ、今はせめて......」



「と、トリプ!?」



 このままではあまりにも可哀想だったから。俺も、彼女も。だから、抱き締める。一度旅立ってしまえば、もう何十年も会えなくなるのだから。



「――もう少し、傍に居させてくれ」



「仕方ありませんね、トリプは。いつまでもこんな場所でぐうたらしてちゃいけないんですよ? でも、今だけ、少しだけなら許します......」



 女神様は、そう言って抱き返してくれた。



「「ありがとう」」



「なんで女神様が言うんだよ......」



「トリプこそ......」



 そう言って、俺は笑い出す。女神様もクスクスと笑い出した。あぁ、幸せだ。



 ――次はどんな世界が俺を待っているのだろう。今回のように美しい世界だといいな......あ、でももう牢屋には入りたく無いな......今度の世界では目立たないように生きよう......



 そんな事を考えながらも、せめて今はひとときの幸せに浸ろう。願わくば、少しでも長くこの幸せが続く事を、俺は――

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