表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浜山高校の問題児たち  作者: ayano
PR
30/30

予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -30-『それぞれの帰り道』




 九条と真琴がそれぞれ、少し遅れて店に戻ってきた。

 二人ともどこか、すっきりした顔をしている。俺は詳しい事情までは知らないが、なんとなく、いい話をしてきたんだろうということだけは伝わってきた。


「おかえり」


 俺がそう言うと、九条は小さく頷いた。真琴はいつも通りの調子で椅子にどかっと座り直す。


「よし、飲み直すか!」


 真琴の声に桐生先輩たちがまた盛り上がる。


「(おいおい、酒飲んでんじゃないんだぞ)」


 打ち上げはそのまま賑やかに続いていった。誰も彼も、勝負のこともこれまでの経緯も、ひとまず脇に置いて、ただこの時間を楽しんでいるようだった。

 やがて解散の時間になった。

 店の前でそれぞれが、それぞれの方向へ帰っていく。俺は皆と別れの挨拶を交わしながら、少し離れたところにいた綾音に気づいた。


「おい、綾音」


 俺は声をかけた。


「今日は来てくれてありがとな」

「別に、いいけど」


 綾音はそっぽを向きながら答えた。

 しばらく、二人とも何も言わなかった。


「……ねえ、健」


 やがて、綾音がぽつりと口を開いた。


「ん?」

「あんたさ」


 綾音は少し、言葉を選ぶように間を置いた。


「あたしのこと、これっぽっちも気づいてなかったでしょ」

「……は?」


 俺は思わず聞き返した。


「気づいてないって、何を」

「別に。何でもない」


 綾音はそう言うと、少し寂しそうに笑った。


「もういいわ。そういうとこも含めて、あんたなんだし」

「……いや、待てよ。何の話だよ」

「気にしなくていいって、言ってんの」


 綾音はそう言って、くるりと背を向けた。


「じゃあね、健。また学校で」

「お、おう……」


 俺はその背中を、しばらくぼんやりと見送った。

 結局、何を言われたのかよく分からなかった。ただなんとなく、聞いてはいけない何かにうっかり触れてしまったような、そんな気がした。


「――何、放心してんの」


 声をかけられて振り返ると、俊太がいつもの気だるげな顔で立っていた。


「いや、綾音になんか言われたんだけど、意味が分からなくてさ」

「へえ」


 俊太はそれだけ言って少し笑った。何か、知っているような笑い方だった。


「なんだよ、その顔」

「別に。健はそういうとこ、変わらないなって思っただけ」

「意味わかんねぇよ」


 俺がそう返すと、俊太は軽く肩をすくめた。


「まあ、いいや。それより」


 俊太は、話を変えるように続けた。


「今回の勝負、健がいなかったら多分、勝ててなかったよ」

「は? 俺、大した見せ場、何もなかったじゃん」


 俺は思わずそう返した。実際そうだった。真琴も、俊太も、神原も、九条も、それぞれ目に見える形で活躍した。だが俺は、ただ隙間を埋め続けただけだ。


「見せ場がないって、それが健の見せ場だったんだよ」


 俊太はそう言った。


「僕らがそれぞれ好き勝手やれたのはさ。健がいつも隙間を埋めてくれてたからだ。誰も気づかないところでね」

「……そんな大層なもんじゃねぇよ」


 俺は少し照れくさくなって、そう答えた。


「まあ、健はそう言うと思ったけどね」


 俊太はそう言って、また飄々と笑った。

 解散した後、俺は一人で夜道を歩いていた。

 今日一日、色んなことがあった。予算取り合い合戦の決着。打ち上げ。九条と楓先輩の話。真琴と神原の話。そして、綾音のよく分からない一言。

 全部がまだ、頭の中でうまく整理できていなかった。

 思えばこの一ヶ月半、俺は色んなことに巻き込まれた。真琴が生徒会に絡んでいくところから始まって、気づけば俺自身がその渦の真ん中にいた。

 もとはと言えば、俺には関係のない話だったはずだ。

 それでも——今振り返ってみると、悪くない一ヶ月半だったと思う。

 俺は夜空を見上げた。

 星はそんなに見えなかった。それでも今日という日が確かに、何かを終わらせて、何かを始めたんだということだけは分かる気がした。

 そもそも、俺は全然関係なかったのにな。

 そう思いながら、俺は寮への道を一人、歩いて帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ