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アスタリア世界進出&国際経済戦争編  作者: IORI


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第1話:帝国の影と、新時代の盤面(チェス)

白銀の連峰に抱かれた『アスタリア魔導経済特区』。

かつては凍てつく死地と呼ばれたこの地は、いまや最新鋭の魔導熱インフラと幾重ものガラスドーム都市がそびえ立つ、大陸最高の経済・物流ハブへと変貌を遂げていた。


「――シェリィ代表。ガリア帝国より、特使の来訪を告げる親書が届きました」


アスタリア大商会タワーの最上階、広大な都市を一望する執務室。

黒銀の装飾が施された上衣を纏うレオンハルト大公が、重々しい封ろうが押された書状をデスクへ置いた。


対面に座るシェリィ・ヴァルモントは、耳元に大粒のダイヤモンドのイヤリングを揺らし、優雅に温かな紅茶を傾ける。


「ガリア帝国……大陸西方の半分を武力と資源で支配する、あの巨大帝国ですわね」


「ああ。これまで我がアルスター公国やヴァルモント王国の小競り合いには高見の見物を決め込んでいた巨鯨が、君の創り出した【魔導熱インフラ】と【魔導原石】の覇権を無視できなくなったということだ」


シェリィは扇を優雅に広げ、碧眼に冷徹な知性を宿らせた。


「ふふ、まあ当然ですわ。彼らが誇る従来の魔導鉱石は、我がアスタリアが供給する高純度原石の三分の一の熱効率しかありませんもの。エネルギーの覇権を握られるということは、軍事も物流もすべて我が手に握られるということ……帝国にとっては喉から手が出るほど欲しい宝でしょうね」


前世で欧州連合(EU)の高度な地政学リスク・資源アナリストとして、大国間の熾烈なパワーゲームを取り仕切っていたシェリィにとって、帝国の狙いは手取るように理解できた。


「親書の内容は?」


「『帝国のエネルギー安全保障のため、アスタリア大商会は採掘権の過半数を帝国へ譲渡せよ。さもなくば、西方の交易路を全面的に封鎖する』……相変わらずの、武力を背景にした高圧的な通告だな」


レオンハルトは苦笑混じりに肩をすくめるが、その瞳にはシェリィへの揺るぎない信頼が宿っていた。


「脅迫のつもりでしょうか? 契約と市場原理を理解できない大国ほど、扱いにくいものはありませんわね」


シェリィはクスリと可憐に笑うと、デスクの引き出しから大陸全土の流通網が記された羊皮紙の地図を取り出した。


「レオンハルト様。新国王となったジュリアン陛下、そして我が父様率いるヴァルモント公爵領との【三国関税同盟】の準備は整っておりますか?」


「完璧だ。ジュリアン陛下も『アスタリアの利益は王国の利益』と全面的にバックアップを約束して下さっている。いつでも帝国の経済ラインを包囲できるぞ」


「結構ですわ。……帝国が交易路を封鎖するというのなら、どうぞやっていただきましょう。その瞬間、帝国へ流れる南方の食料と北方のアスタリア熱源を全停止させ、帝国の国内インフレ率を三か月で二百%まで跳ね上げて差し上げますわ」


シェリィは不敵な笑みを浮かべ、不凍港にひしめく巨大な魔導商船群を見下ろした。


武力による威圧など、現代の高度なサプライチェーン(供給網)戦略の前には無力。

彼女が仕掛けるのは、流血なき「国際経済戦争」だ。


「さあ、帝国の特使様をお迎えいたしましょう。世界最高の『熱(リソース)』が誰の手の中にあるのか、身をもって教えて差し上げますわ」


かくして、アスタリアの知略と莫大な魔力が世界を揺るがす、第2部の新たな戦いが幕を開けた――。

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