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瘴気の樹海と冥脈の鬼族〜星の裏側を統べる誇り高き戦鬼を、圧倒の武と極上の『美酒』で酔い潰す〜




大陸の三大勢力を統合し、全生命が一つとなって並行世界からの侵略に備える「星の防衛同盟」。


万象国の本拠地で行われた『星の祝祭』の熱狂が冷めやらぬまま、星全体を覆う巨大結界【星系防衛システム(アストラル・イージス)】の建設は最終段階へと差し掛かっていた。


だが、ここで一つの大きな問題が浮上した。


「……計算上、アイテールの地脈から引き上げた莫大なマナを、鉄機帝国の相殺炉で全天に展開させた場合、炉のコア温度が星のコアすらも超える超高温に達してしまいます」


万象国の地下に建設された巨大な防衛管制室。

ホログラムモニターの前で、帝国の首席技術長が脂汗を流しながら報告する。


「現状の星鋼オリハルコンの冷却システムでは、数分でメルトダウンを起こし、防衛結界が自壊してしまう……。結界を恒久的に維持するためには、星の熱すらも吸収して相殺する、未知の冷却触媒が必要です」


「未知の冷却触媒、ねえ」


腕を組んでモニターを眺めていた俺の隣で、セレスティアが『天星の神杖』を静かに床に突いた。


「湊。それなら、大陸の最南端にある『瘴気の樹海』に眠る【冥氷石めいひょうせき】が必要だわ。私の一族の記憶によれば、あの石は星の裏側から漏れ出るマグマの熱を吸収し、完全に中和する性質を持っているの」


「最南端の樹海か。じゃあ、サクッと掘りに行けば解決だな」


俺が軽く言うと、情報統括のリリアが獣耳をピクリと震わせ、険しい顔で地図を指差した。


「湊様、そう簡単にはいきません。瘴気の樹海は、致死性の猛毒の霧に覆われた不可侵領域です。さらに、そこを縄張りとしているのが【冥脈めいみゃくの鬼族】と呼ばれる戦闘種族。彼らは極端な排他主義であり、武力でしか他者を認めない狂暴な一族です。過去に帝国が何度か討伐軍を出しましたが、全て返り討ちにされています」


「狂暴な戦闘種族か。なるほど、言葉の通じない相手なら、俺の一番得意な交渉術が使えるな」


俺はニヤリと笑い、背後に控えている大男を振り返った。


「おい、ボルガ。出番だぞ。お前みたいな脳筋にはうってつけの『労働』だ」


第四の魔王【狂乱の獣王】ボルガは、俺の魂の隷属印によって闘争本能を制御されているが、元々は暴れることが何より好きな戦闘狂だ。


「ガハハハハッ! 待ってましたぜ我がマスター! 最近は土木作業ばかりで体が鈍ってたところだ! その鬼族とやら、俺の拳で全員ミンチにして冥氷石を引っこ抜いてきやす!」


「ミンチにはするなよ。あくまで資源の採掘交渉だ。向こうの武力を完全にへし折って、従属させる」


俺はセレスティア、フレア、そしてボルガを引き連れ、魔導浮遊車で大陸の最南端へと飛んだ。


◆ ◆ ◆

数時間後。


眼下には、紫色の禍々しい霧が立ち込める、広大な【瘴気の樹海】が広がっていた。


通常の生物であれば、空気を一口吸っただけで肺が焼け爛れ、数秒で絶命するほどの高濃度の猛毒。


浮遊車から降り立った俺たちを、紫色の霧が生き物のように包み込もうと迫る。


「むむっ、嫌な臭いだ! 私の炎でこの霧ごと森を焼き払ってやろうか!」


フレアが『爆炎の籠手』を構えようとするが、俺はそれを手で制した。


「森を焼いたら、お目当ての鉱脈まで溶けちまうかもしれない。……こんな霧、払えば済む話だ」

俺は前に出ると、【空葬武人】としての理を静かに解放した。


黄金の闘気が俺の身体からオーラのように立ち上り、周囲の空間に干渉する。


「『解体』」


俺が右腕を軽く振るった瞬間、突風でも魔法でもなく、物理法則を書き換える「理」の波が樹海を駆け抜けた。


紫色の瘴気が、その毒性の概念ごと素粒子レベルで分解され、ただの無害な水蒸気へと変換されていく。


視界を覆っていた猛毒の霧が一瞬にして晴れ渡り、鬱蒼と生い茂る巨大な原生林が姿を現した。


「……チィッ。ただの人間かと思えば、妙な術を使いおる」


霧が晴れた原生林の奥から、地響きのような足音と共に、数十人の巨漢たちが姿を現した。

身の丈三メートル近い赤い肌、頭から生えた鋭い一本角、そして丸太のような太い腕には、鋼鉄の金棒が握られている。


彼らこそが、星の裏側を統べる戦闘種族【冥脈の鬼族】だ。


その集団を掻き分けて、一際巨大な鬼が前に出た。


黒い刺青が全身に刻まれた、身の丈四メートルを超える大鬼。彼が鬼族の長、朱天シュテンだ。


「俺の森の瘴気を、一瞬で無力化するとはな。だが、ここは冥脈の鬼族の絶対領域。いかなる人間だろうと、立ち入る者はこの金棒で肉塊に変える!」


朱天が巨大な金棒を肩に担ぎ、圧倒的な殺気を放つ。


「ガハハハッ! 威勢がいいじゃねえかデカブツ! 俺の準備体操の相手くらいにはなりそうだ!」


ボルガが歓喜の咆哮を上げ、獣の闘気を爆発させて前に出た。


「人間ごときに飼い慣らされた獣が、俺に挑むか! 砕け散れェッ!!」


朱天の金棒が、音速を超えてボルガに向かって振り下ろされる。


それに対し、ボルガは己の肉体——『不滅の闘獣』へと進化した両腕を交差させ、真っ向から受け止めた。


ドゴォォォォォォォンッ!!!


大地が爆発したかのように弾け飛び、衝撃波が周囲の巨木を次々と薙ぎ倒す。


「ほう、俺の全力の一撃を耐えるか。だが、重さが足りねえなァッ!」


朱天がさらに力を込め、ボルガの膝が僅かに地面に沈む。純粋な膂力と質量のぶつかり合い。

「待て、ボルガ。下がれ」


俺は黄金の闘気を静かに燻らせながら、二人の間に割って入った。


「なっ……我が主!?」


「人間が、俺の金棒の下敷きになりに来たか! まとめて潰してやる!」


朱天が標的を俺に変え、全力の金棒を俺の頭上へと振り下ろした。山すらも叩き割る極大の物理破壊力。


だが。俺は避けることも防御姿勢をとることもせず、ただ、ゆっくりと右手の人差し指を一本、頭上に掲げた。


ピタァッ……!!


「……は?」

朱天の顔が、驚愕に引き攣った。


彼の全力の金棒が、俺の掲げた人差し指の先端に触れた瞬間、岩にぶつかったどころか、まるで「空間そのものに固定された」かのように、ミリ単位も動かなくなったのだ。


「お前たちの言う『武』ってのは、ずいぶんと軽いな」


俺が指先に込めた闘気をわずかに弾いた。


パァンッ!!!


という乾いた音と共に、朱天の持つ何十トンもの鋼鉄の金棒が、俺の『空葬』の理によって、持ち手から先まで一瞬でサラサラの砂へと分解された。


「な……俺の剛鉄の金棒が、指一本で……!?」


驚愕して隙だらけになった朱天の鳩尾に、俺は軽く左の拳を沈めた。


ドォォォォォォォンッ!!!


「ガ、ハァァァァッ……!?」


朱天の巨体が、後方の木々を何十本もへし折りながら吹き飛び、地面に深々とめり込んだ。


手加減はしたが、それでも鬼族の長をたった一撃で完全に無力化したのだ。


「お、お頭ァッ!?」


「ば、化け物だ! この人間、次元が違いすぎる……ッ!」


戦意を喪失し、武器を取り落とす鬼族の戦士たち。


戦闘種族である彼らだからこそ、俺との間にある『絶対的な理の壁』を痛いほど理解してしまったのだ。


「……が、はっ……み、見事だ……」


瓦礫の中から、朱天が血を吐きながらも立ち上がろうとし、そのまま片膝をついて俺に頭を垂れた。


「武力で負けた以上、言い訳はしねえ。俺の首を刎ねて、この森の資源を好きに奪っていくがいい……」


「殺さないし、奪いもしないよ。俺は『交易』をしに来ただけだ」


俺の言葉に、朱天は怪訝そうに顔を上げた。


「俺たちが欲しいのは、この地下に眠る冥氷石だ。星を並行世界から守るためのシステムに必要なんだよ。……その代わり、俺たちの国から極上の『対価』を提供してやる」


「対価、だと? 俺たち鬼族は金銀財宝にも、帝国の機械にも興味はねえ。俺たちが命より愛しているのは、闘争と……『酒』だけだ。だが、人間の作る薄っぺらい水のような酒で、俺たちが満足すると思うなよ」


朱天がプライドを捨てきれずに睨みつけてくる。


「酒か。……なら、話は早い」


俺は空間収納庫から、大きな木樽と、美しいガラスの杯を取り出した。


そして、事前に万象国で収穫した極上の米と、俺の『森羅創成』によって、現代日本の最高峰の醸造技術と魔力を掛け合わせた、究極の銘酒を創り出した。


「飲んでみろ。鬼の喉を焼く、本物の酒だ」


コポコポとグラスに注がれた、透き通るような液体。


そこから漂う、芳醇で暴力的なまでに甘く鋭い香り。


朱天は恐る恐る杯を受け取り、一気に喉の奥へと流し込んだ。


その瞬間。

「……ッッッ!!!!」


朱天の目がカッと見開き、全身の筋肉が歓喜に震え出した。


「な、なんだこれはァァァッ!? 喉を焼くような強烈な熱! だが、その後に広がる果実のような甘みと、星の底から湧き上がるような深いコク! 俺が今まで飲んでいたのは泥水だったのか……!?」


鬼族の長は、あまりの美味さにポロポロと涙をこぼし始めた。


「こ、これを……これを俺たちにくれると言うのか!?」


「冥氷石の安定供給と、万象国への協力を誓うならな。この『大吟醸』以外にも、無限の種類の酒を俺の国から卸してやる」


「従う! いや、従わせてください、覇王どのォォォッ!!」


誇り高き鬼族の長が、土下座をして俺の靴にすがりついてきた。


戦闘種族の心は、圧倒的な武と、極上の『美酒』によって完全に陥落したのだ。


◆ ◆ ◆


その日の夜。


瘴気の晴れた樹海では、万象国から持ち込んだ無数の酒樽を開け、鬼族たちとボルガが肩を組んで大宴会を繰り広げていた。


「ガハハハッ! お前たち、なかなかいい飲みっぷりじゃねえか! 俺の注いだ酒が飲めねえとは言わせねえぞ!」


「ボルガの兄貴ィ! 一生ついていきやすぜェッ!!」


かつての敵同士が、美味い酒の前で完全に意気投合している。


「……湊。これで、アストラル・イージスの冷却問題も解決ね」


切り株に座って夜空を見上げる俺の隣に、セレスティアが腰を下ろした。


「ああ。これで星の防衛網は完璧に機能する。……並行世界の連中がいつ来ても、盛大な花火で出迎えてやれるさ」


「私、湊のおかげで、星を守る呪いから解放された。……これからは、あなたの正妻として、あなたと一緒にこの世界を楽しむわ」


セレスティアが頬を赤く染め、そっと俺の肩に頭を預けてくる。


「旦那様! 私にもその極上の酒を飲ませてくれ! そして今夜は、酔った勢いで私と熱い夜を——」


「こら、トカゲ! 未成年(竜族基準)はお酒禁止よ!」


騒がしいフレアをセレスティアがたしなめる声をBGMに、俺は手にした盃を傾けた。


星の全土を束ね、絶対的な防衛網を完成させた万象国。


だが、平穏な夜空の彼方では、次元の壁を食い破る並行世界の大軍勢の足音が、確実に迫りつつあった。


それでも俺は、この愛おしい日常を守るため、空葬の理を握りしめて立ち塞がる。


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