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竜姫の告白と厄災の正体と正妻による厳しい尋問




バチバチと不可視の火花が散るクレーターの底。


白銀の杖を構えてニコニコと微笑むセレスティア(ただし目は笑っていない)と、俺の腕にギュッと抱き着いて威嚇の唸り声を上げる竜人族の姫、フレア。


「離れなさい、この泥棒トカゲ。それ以上湊に引っ付いたら、神代の魔力で丸焼きにするわよ?」


「誰が離れるか! 竜族の求愛は絶対だ! 貴様のような貧弱な女より、私の強靭な肉体の方が、絶対にこの方の優れた遺伝子を後世に残せるはずだ!」


「ひ、貧弱……ッ!? これでも湊のおかげで、最近は少し胸だって発育してきたんだから!」


「何だと……。くそっ、私の見立てでは『C』か。私の『E』には遠く及ばないな! ふはははは!」


「……湊。あのトカゲ、今すぐ消滅してもいいかしら?」


「落ち着けセレスティア。俺のスキルをおっかないことに使うな」


俺はフレアの頭を軽く小突いて引き剥がし、ため息をついた。


……とはいえ、いつまでもここで痴話喧嘩をさせておくわけにもいかない。俺はフレアが口にした『狂乱の獣王』という単語が気になっていた。


「とりあえず、宴会の席に案内する。そこで詳しい話を聞かせろ、フレア。お前、さっき言っていたフレアがやられたやつのことを教えてくれ」


俺の言葉に、フレアはハッとしたように表情を引き締め、コクリと頷いた。


◆ ◆ ◆


広場に設けられた宴会の席。


ドワーフや獣人たちが遠巻きに様子を伺う中、俺とセレスティア、そして猛烈な勢いで肉の塊を頬張るフレアの三人でテーブルを囲んでいた。


「ふむっ、ふむっ! なんだこの肉は、異常に美味いぞ! 我が竜王国の専属料理人でも、ここまでの味は出せん!」


「俺が不純物を『分解』して旨味だけを抽出したからな。……で? お前は空の彼方に吹き飛ばされてきたって言ったが、一体誰と戦ってたんだ」


俺が果実水を差し出すと、フレアはそれを一気に飲み干し、口元を拭ってから真剣な声で答えた。


「ああ。私が戦っていたのは、目覚めた『七大魔王』の一角——【狂乱の獣王】だ」


「七大魔王……」


「その通りだ、旦那様(仮)」


セレスティアが横からジト目を向けるのを華麗にスルーし、フレアは話を続ける。


「この星には、神話の時代から続く古い歴史がある。かつて、この世界は人間の王ではなく、七体の超越的な存在……『魔王』と呼ばれる者たちによって七分されていたのだ」


フレアの口から語られるのは、聖王国の人間たちが隠蔽し、忘れ去られていた世界の真の歴史だった。


• 【第一の魔王:『予言の魔王』】(詳細不明・未来を見通す魔王)


• 【第二の魔王:『暴食の竜王』】(全てを喰らい尽くす竜族の頂点)


• 【第三の魔王:『不死の死霊王』】(死の概念を操るアンデッドの絶対君主)


• 【第四の魔王:『狂乱の獣王』】(無限の闘争本能と自己再生能力を持つ獣人の神)


• 【第五の魔王:『幻月の魔王』】(精神と魂を支配する精神生命体)


• 【第六の魔王:『絶氷の海王』】(海と氷を支配し、全てを絶対零度で凍結させる厄災)


• 【第七の魔王:『機巧の機神王』】(古代文明の遺産を取り込み、自己進化し続ける無機物の神)


「彼らはそれぞれが、一国を単騎で滅ぼすほどの規格外の力を持っていた。……しかし、数百年前に聖王国の初代国王が『星の地脈レイライン』に干渉する巨大な魔法陣を完成させ、魔王たちの魔力供給を断ち切ることで、彼らを深い眠りにつかせたのだ」


フレアの話を聞き、俺は合点がいった。


「なるほどな。……俺が昨日、堂島たちを玉座ごと『解体』した。それに伴って王国の魔法陣が破壊されたから、押さえつけられていた魔王たちが一斉に目を覚ましたってわけか」


「その通りだ。……結界が解けた直後、私の住む竜王国に近い西の荒野で、四番目の魔王『狂乱の獣王』が復活した。奴は目覚めるなり、我々の領地に侵攻してきたのだ」


フレアは悔しそうに拳を握りしめた。


「私は竜族の姫として、部隊を率いて迎撃に出た。だが……勝負にならなかった。奴の暴力は文字通り『狂乱』だ。私の放った極大の竜のブレスを真正面から浴びても、瞬時に傷を再生し、ただの一撃で私の翼をへし折った」


そして、空の彼方へとボールのように殴り飛ばされ、運良くこの『万象工房』の結界付近に墜落したのだという。


「……私の国は、今も獣王の蹂躙に晒されている。このままでは、誇り高き竜族は奴に喰い殺されるか、奴隷にされるかの二択だ」


フレアはテーブルに両手をつき、俺を縋るような目で見つめた。


「旦那様! 貴様のその底知れぬ力なら、魔王とて太刀打ちできるはずだ! 頼む、私と一緒に西へ向かい、獣王を倒して竜王国を救ってくれ! そうすれば、竜族は全て貴様に忠誠を誓い、私は貴様の立派な妻として——」


「待ちなさい」


フレアの懇願を、冷たく澄んだ声が遮った。


セレスティアだ。彼女は白銀の杖を床にコツンと突き、フレアを冷ややかに見下ろした。


「あなたが国を救いたい気持ちは分かるわ。でも、湊に命を懸けた労働をさせるのに『自分が妻になる権利』なんて、報酬としては弱すぎるわ。……それに、湊は今、この工房のみんなを守る責任があるのよ。あなた一人の都合で、彼を危険な魔王の元へ連れ出そうなんて、許さない」


「な……ッ! 私の純潔が安い報酬だと!? 竜族の姫だぞ私は!!」


「私なんて星の意志の化身(元神様)なんだから、血統書付きのトカゲなんて目じゃないわ。……とにかく、湊をこれ以上トラブルに巻き込まないで」


正妻としての絶対の威厳を放つセレスティアに、フレアはぐぬぬと唸って言葉に詰まる。


二人の言い争いを聞きながら、俺は静かに腕を組んで思考を巡らせていた。


魔王の復活は、俺が王国の魔法陣を破壊したことが引き金だ。俺に全ての責任があるとは言わないが、このまま魔王たちが世界を蹂躙すれば、いずれこの大森林(万象工房)にも被害が及ぶのは明白。


「セレスティア」


俺が声をかけると、彼女はピクッと肩を揺らし、不安そうな目を向けてきた。


「湊……行くの? 相手は、人間とは比べ物にならないくらい危険な、魔王よ……?」


「危険なのは百も承知だ。だが、この結界の中で引きこもっていても、いずれ問題は向こうからやってくる。……俺の【労働】は、問題を根本から『解体』して、自分たちにとって快適な環境を『再構築』することだろ?」


俺はセレスティアの頭を優しく撫でた。


「それに、お前を置いていったりしない。俺が戦う時には、お前の魔力とサポートが必要不可欠なんだからな」


「……っ! うん、うんっ……! 私も、湊と一緒に行くわ!」


俺の言葉に、セレスティアの顔がパッと明るくなり、嬉しそうに頷いた。


それを見ていたフレアが、信じられないというように目を丸くする。


「な、なんだお前たち……。魔王が相手だというのに、随分と余裕だな。……だが、私以外の女を連れて行くのは気に入らんが、旦那様が戦ってくれるなら——」


「フレア。一つだけ訂正しておく」


俺はフレアの目を真っ直ぐに見据え、冷酷な笑みを浮かべた。


「俺は『戦い』に行くわけじゃない。……ただ、自分の庭(世界)を荒らそうとする害獣を、『駆除』しに行くだけだ」


最弱の労働者として召喚された男は、今や七大魔王すらも「ただの労働の対象」と見なす、絶対の造物主へと至っていた。


俺たちの次なる標的——【狂乱の獣王】の待つ西の荒野へ向けて、新たな反逆の旅が始まろうとしていた。

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