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転生したので狂信します外伝:『夜神夕子の友達100人計画』  作者: 枝無つづく
第一章:『新人期間(チュートリアル)編』

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第36話 『ウサギ』と『夢』と『大穴シーツ』

side 夜神夕子


 夜もすっかり遅い時間。

 今日も今日とて、寮のお手洗いの一室で。


「それにしても、今日のベルシィさんは本当にすごい大立ち回りでしたわね」


「それを言うなら夕子ちゃんだっていきなりあんなに剣を使えるようになるんだからビックリしたよー」


「びっくりと言えば、こちらもなのですけれど……今日はかっこよかったのに、またですの?」


「あははっ……なんかごめん」


 そう……深夜のお手洗い。

 こんな時間に、こんな場所で、こんな話をしているのが何故かと問われれば、言うまでもなく例のイケナイお遊びのため。


 昨日の夜と同じで、目隠し装備のベルシィさん。

 水道のパイプに手錠で自らを繋いで逃げも隠れもできない、されるがままの誘い受け状態。

 こんな姿でなければ素直に『あまりにかっこよくてファンになってしまいました』と告白したいくらいでしたのに……いえ、それを言いにくいだけで『失望しましたベルシィちゃんのファンやめます』とかは言いませんけれども。


 それにしても……


「イベント中も思いましたけれど……そのステージ衣装、おヘソ丸出しでエッチですわね」


「え? そうかな?」


 私がお腹に顔を寄せてもパイプに繋がれていて逃げられないベルシィさん。

 これが、まな板の上の鯉というのにぴったりな状態なのかもしれませんわね。あるいは、据え膳食わぬはなんとやら……


「今日のベルシィさん、とっても素敵でしたわ。それに、とってもエッチでしたわ」


「え、ええと、夕子ちゃん? あ、ありがとう?」


「なので、お望み通りにお仕置きしてあげますわ」


「え? むっ!?」


 口にガムテープを貼って言葉を封じる。

 それに、拘束されていない足で暴れられないように『黒い恋人』をバニーガールモードにして両手で押さえつけて……


「うちゅ……んっ……」


「っ! 〜~!!」


 おヘソの穴に、舌を挿し込む。

 その奥のお腹の中を堪能しながら毒液を塗り込む。


「はぁ……まろやかでおいしい……」


 暴れようとするベルシィさん。

 けれど、自ら施した手錠と私の両手で四肢を封じられている彼女には無防備におヘソを差し出すことしかできない。


「んっ……れろっ……」


 おヘソの奥……たぶん、胃か腸の感触。

 内臓の表面の『ひだ』を舌先でなぞる。

 その中に見つけた少しだけ感触の違う点を狙って念入りに毒を塗り込むと、ビクンビクンと震えながらベルシィさんの全身が暴れ出す。


「ふふっ……いい反応をしますわね、自らお仕置きをねだっておきながら。お可愛いこと」


 ジョロジョロ、ジョロジョロ。

 水道パイプが歪んで、タイルの床に水たまりが広がり始める。

 それでも構わず舌を動かすと、水音はさらに強くなって私の足元まで水浸し。


「ふふっ……水漏れが酷いですわね。ねえ、ベルシィさん。このまま私と『仔兎』を作ってしまいましょ? そうしたらきっと、ミュジカさんやファンの皆さんもいい顔をしてくれますわ」


 粘つく毒液をおヘソからお腹の奥深くへと注ぎ込む。

 タプンタプンと暴れる肢体に揺らされながら水風船のように膨らむお腹。


 そして、床にできた真っ黒な沼のような水たまりから這い出てくる……黒い仔兎たち。

 私たちの、私がたくさんの人から横取りした愛の結晶。


 満足感と達成感に押し流されて引いていく高揚感と昂りに支配されていた意識がだんだんと冷静になってきて……


「ベルシィ……さん? わ、わたくし、なんでこんなところに? い、いえっ! これは、私なんだかおかしくて……」


 一気に、血の気が引く。

 目の前で生気のない様子でうなだれているベルシィさんと私たちから生まれ出た仔兎たちに自分がやってしまったことを嫌でも思い知らされる。


「はあっ、はあっ、これ、は、ちがって、こんな……」


 息が苦しい。

 こんなの現実だと認めたくない。


 そうやって、私が過呼吸になりかけているところに……肩へ、そっと手が置かれた。



「大丈夫、これは夢だから。落ち着いて」



 その瞬間、一気に動悸が落ち着いた。

 『夢』と言われてみて、そういえば自分がどうやってここに来たのかも憶えていないことを、現実からの連続性がないことを認識して、心がギリギリで冷静さを取り戻す。

 そして、声の主を……振り返って、見上げて、確かめた。


「……シックスさん?」


「うん、ちゃんと効いてるね。『黒い恋人』に呪われてるって聞いてたから対策に仕込んでおいてよかったよ」


「ここは、夢……本当に……?」


「そうだよ、ほら。よく見るとトイレの内装とか寮と違うでしょ? それに、ベルシィちゃんはステージ衣装をこういう遊びに使ったりはしない子だしね。ほら、落ち着いてみれば他にもいろいろおかしいところはたくさんあるはずだよ」


 言われてみれば、確かにここは戦英プロの寮のトイレじゃない。

 少し混ざってはいるけれど、私が日本で通っていた小中高一貫性の学校の女子トイレのデザイン。

 それに……女同士の、人間同士の私たちから『仔兎』が生まれてくるのだっておかしな話だった。


「……はぁぁぁ……夢でよかった、本当に、夢でよかったですわぁっ!」


 心臓に悪すぎる。

 罪悪感とやってしまった感で精神的な寿命がゴリッと削られてしまつまたような気分。


「こんな夢を見てしまうなんて……ベルシィさんのあんな遊びを見てしまったせいなら恨みますわ……」


「い、いや、確かにあの子も悪くないとは言わないけど……夢がこういう歪み方したのはたぶん、『黒い恋人(ラバーズ)』の呪いのせいだよ」


「そういえば……ダミーさんとああなった時にも似たような夢を見た気がしますわね……ダミーさんは呪いを中和する対策をしてくれたと言っていましたけれど……」


「まあ、中和してるといっても完全に無効化できてるわけじゃないってことなんだろうね。今日のことでベルシィちゃんが前より『好き』になっちゃったのが呪いでちょっと変な方向性へ歪んじゃったってところかな」


 ……まあ、確かにベルシィさんは前よりも大分好きになった気はしますけれども。

 私の悩みを聞いてくれたり彼女自身の過去を打ち明けてもらったり、一緒に戦ったり。

 そうやっている内に、どうやっても他人とは思えない仲になったとは思いますけども。


 これが『好きになった相手』に向ける私の欲求だというのならちょっと自分で引くというか……いえ、これも全て『黒い恋人(ラバーズ)』の呪いのせいなのでしょう、たぶん、絶対に。


 そうやって自分を落ち着けて、ようやくショックが抜けてきたところで、改めて……


「あの、シックスさん? ですわよね?」


「うん、お察しの通りみんなの頼れる勇者なシックスさんだよ? もしかして別な物に見えてる? 夢の中だとわりとそういうこともあるけど」


「いえ、ちゃんと現実と同じシックスさんに見えてますけれど……どうして私の夢にシックスさんが? いえ、こうなることを見越して対策をしてくれていたという話なのでそういうことなのでしょうけど……私が悪夢を見たら夢を通して会いに来られるようにしてありましたの?」


「うーん、ちょっと違うかな。ボクは夢を渡って来てるわけじゃないし。アトリさんの能力を使ってもらえばそういうこともできるけど、それだと同じタイミングで寝てないといけないし。いつ夜神さんが悪い夢を見るかわからないと対応できないし」


「なら……どうなってますの?」


「ボクは夜神さんの中に忍ばせた現実のボクの思念の欠片。デートの時に軽く仕込んでおいた、軽いおまじない……ある意味、残留思念みたいなものだと思ってもらった方がいいかな。現実の方のボクはこの夢の中でのことなんて知らないから、プライバシーの保護も安心していいよ」


「はあ、おまじない……魔法みたいなおまじないですわね」


 いえ、もしかしたらこの世界ではその二つにあまり大きな違いはないのかもしれませんけれども。

 それか、どちらかがどちらかの一部の技術なのか、魔力を使った別の技術体系だったりするのか、魔法について詳しくない私にはよくわかりませんわ。

 ただ、この世界においてはそれくらいできる人はできると言われれば否定する気にはならないというのは間違いないというくらいで。


「まあ、ぶっちゃけ、こういう対話をするのも初めてじゃないんだけど。こっちは残留思念だけあって毎回の説明が面倒とか思わないし、気にしないでいいよ。どちらかと言えば夜神さんが仕込まれた『情報』をそう解釈してるだけというか、夜神さんが理解できる速度で咀嚼して理解する過程がこの会話みたいなものとして夢になってる、みたいな?」


「えっと……初めてじゃないんですの? けれど、記憶に心当たりは……」


「まあ、夢だからね。基本的にはそういうものだよ。これまでも何度か小さな悪夢の対処はしてるけど、夢は夢だから大抵は起きたらすぐ忘れちゃうのが自然だから。さっきの『やっちゃった』って焦りとかも、起きた時には忘れてた方が『また同じような夢を見るかも』って不安がないし。その方が悪夢の頻度も減るから基本的には忘れて現実に帰ってもらうんだ……今回はちょっとあれだけど」


「?」


「まあ、それはそれとして……実はこの体質、というか仕込みってさ。ボクも昔は無意識にやってたみたいで……テーレさんに『心遣いだけは受け取っておくけど、私の呪いにはほぼ意味ないし元が全く減らないわけでもないんだから無理に記憶の切り売りなんてしなくていいわよ』って言われて初めて自覚したというか……いや、軍にいた頃には私の勇者因子がまだ成熟しきってなくて検知されなかった体質だからしょうがないんだけど、あんまり感謝しすぎないようにね。また人間関係歪んで狂さんとレイさんに頼らなきゃいけなくなるのは勘弁だから」


「勇者因子……つまり、勇者としての特殊能力、ということですの?」


「まあ、そういう感じ。ぶっちゃけ、夕子ちゃんに話した『人間関係が歪むくらいみんなからの好感度と依存度が勝手に上がっていく』っていうのも大部分がこの性質……ちょっとした会話とかでも自分の思念とか記憶を圧縮して『情報の結晶』みたいなのを作って『他人』の……いや、『他の人』の記憶に埋め込んじゃう性質のせいらしくてね……ねねさんは『セーブ機能がない時代のゲームのアレみたいっすね。引き継ぎ用の呪文をメモするやつ』とかって言ってたけど、夜神さんならわかる?」


「ごめんなさい、そういう話題には疎くて……」


「あはは、まあわかんないならわかんないで別にいいんだけど。ただ……今なら無意識じゃなくて意識的に仕込みをすれば『夢の番人(ドリームキャッチャー)』になれるくらいに落ち着いてるけど、前はみんなが眠ってる間に睡眠学習で無意識洗脳みたいなことしちゃってたみたいでさ……いや、それがなかったらみんなアンゴルモアの影響で悪夢ばっかり見ることになってた可能性が高いって話だから悪いことばっかりじゃないんだけど、だからって勝手に私の存在が心の中で大きくなるようにしてたって、みんなの心を歪めちゃったみたいでちょっと居心地悪くてね……一人旅をしたいっていうのも、それをちょっとリセットしてちゃんとした人間関係を作り直したいっていうのもあるんだ」


 けれど、それでも私に『仕込み』をしていたということは、私にはそれが必要だったということ。

 今まさに見ているこの夢が元々は最初から最後まで夢が夢であると気付けない完全な悪夢で終わる寝覚めの悪いものになるはずだったから。


「『夢の番人(ドリームキャッチャー)』というのは……こうして、悪い夢を夢だと教えてくれるお仕事のことですの?」


「まあね。それに、ちょっとした明晰夢みたいな感じで楽しい夢にして寝覚めを良くするくらいはできるよ。せっかくウサギになってるし……こんな感じとか?」


 シックスさんが魔法の杖みたいに指を振ると、世界がパッと姿を変える。


 バニーガールの姿になっていた私の服は絵本の中の女の子みたいな……そう、『不思議の国のアリス』の表紙で見たことがあるようなお洋服に。


 ベルシィさんは……いえ、私が夢中で『食べて』いた物は、飴玉やお菓子が実る木の根本にキノコのよう生えた大きなシュークリーム『だった』ことになっていて、水浸しになっていた周囲の床は私が食い散らしたクリームでベタベタになった砂糖菓子の草原になっていた。


 ……それはそれで恥ずかしいけれど、あの惨状よりはかなりマシだった。


「さて、これで寝覚めの良さは最低限保証できたかな。後は、悪夢の後味が引くまで少しだけ散策しておこうか。ほら、なんだっけ? ちちんぷいぷい?」


 私の服にかかっていたクリームが綺麗になって、シックスさんが手を引いてくれる。

 これが『そういう夢』の物語になったのを無意識が受け入れたのか、私はさっきまでお手洗いでベルシィさんにお仕置きをしていた時と同じように、『そういう夢』として疑問を持たずにシックスさんに従って歩き始める。


 ある意味本物の『魔法の世界』である現実世界よりもさらに魔法のような世界の不思議な景色。

 たくさんのお菓子やお人形、可愛らしいものや楽しいもので満たされた時間を忘れるような散歩道。

 次第に悪夢の中で減った精神的な寿命も元に戻ってきたような気がしてきたところで……


「あら? 大きな鏡……」


 なんの変哲もない鏡。

 見渡す限りの可愛さと楽しさに満たされた世界では浮き出てしまうような、少しだけ場違いなもの。


 それが気になってシックスさんの手を離してそちらへ行くと……そこに映っていたのは、どこか別の世界の光景にも見える、今のこの世界とは違う『現実的』な景色。

 そこにいたのは……


「『セブンス・ブレイブ』……それに、シックスさん……?」


 どこかの、きっとそれほど裕福ではないのだろうけれど穏やかな暮らしをしているであろう小さな家の食卓。

 そこでは、どちらも私の知る姿よりも少しだけ若い……というよりも、しっかりしすぎているいつもの大人びた雰囲気がなく年相応に『子供らしい』ようにも見えるシックスさんとセブンスが、家主であろうお婆さんと笑顔でテーブルを囲んで夕食を食べていた。


「これは……私の夢、では、ありませんわよね?」


「うん、そうだね。私自身の記憶……私の、ちょっとした『夢』みたいなものだよ。仕込みの時に私の記憶を少しだけ使ってるから。夢もちょっとだけ混ざるんだ。気付かれることは少ないんだけど……よく見つけたね」


 そう言って、シックスさんは鏡に触れながら、少しだけ悲しそうに俯いて言った。


「セブンスと『私』で軍から、戦いから逃げて隠れた世界の夢。小さな村で……私の生まれた家に帰って、平和に暮らしてる世界。両親は引っ越しちゃってたけど、残ってたおばあちゃんにもう一度家族として『おかえり』って言ってもらえて、セブンスも弟として受け入れてもらえて、三人で暮らしてた世界」


「シックスさん……」


「ごめんね、でも、見つけてくれてありがとう。おばあちゃんはね……両親が私のことを自分の子供だと認識できなくなった時に唯一味方でいてくれた人なんだ。けど、辛くて、思い出さないようにしてたから……夜神さんのおかげで、久しぶり顔が見れた」


 そう言って、シックスさんは鏡に向かってほんの小さな声で呟いた……声は聞こえないくらい小さな言葉だったかもしれないけれど、夢の中だったからか、私にはそれが聞こえていた。



「おばあちゃん……ごめんなさい……私のせいで……」



 私がその言葉について問いかけるべきかを悩んでる間に、シックスさんは身を翻して鏡に背を向けた。


「ごめん、先に行くね……幸せな夢だったけど、現実で叶わなかった幸せは見つめ続けてると辛くなるからさ。私にはまだ、ちょっと耐えられそうにないんだ」


 私に顔を見せないようにしながら鏡の前を離れるシックスさん。

 私もそれ以上は聞こうとせず、聞く気になれず、彼女についていこうとして……



『世界平和が叶わぬ内に剣を捨てるとは、この愚か者共が』



 鏡から聞こえた男の人の声。

 割れる食器や壊れる何か、短い悲鳴と金属の音。

 それは、私の記憶の奥にしまい込んでいるはずの『戦場』の気配と似ていて……


「……え?」


 振り返ると、ぼやけた鏡の向こう側には『惨劇』が広がっていた。


 惨状の中心に立つ、『旗槍』を手にした恐ろしい誰か。

 血に塗れた食卓、壊れた幸せの光景、武器とも呼べないような食器のナイフを片手に握ったまま壁際に倒れたセブンスと、血溜まりに伏せるお婆さん。


 そして……セブンスと旗槍を手にした誰かの間に立ち塞がるような意味で、ダラリと脱力するように膝をつくシックスさん……違う、彼女の、『体』と、散らばった綺麗な赤髪と、それを汚す、部屋の壁や天井までを鮮やかに染める別の赤。


 あとは……それらから少し離れた場所に転がったボールのような物体。

 視界がぼやけていてもわかってしまう、あんなに『(胴体)』から離れた位置にあってはいけないはずのあれは……この『鏡』を見つめるように虚ろな目を濁らせている『あれ』は……


「夜神さん? どうかしたの?」


「は、はい!? いえ、あの、いま、その、鏡に……」


「怖いものでも映ったように見えた? うーん、もしかして夜神さんの中のトラウマとかがちょっと混ざり込んじゃったかな? 気にしなくても夢は夢だから、意味なんて深く考えなくてもいいんだよ。ほら、深呼吸、深呼吸」


「は、はい……すぅー……はぁ……そう、ですわよね……夢じゃなきゃ、ありえませんわよね……」


 ああいうイメージが混ざり込む心当たりはある。

 シックスさんの『幸せな夢』に、私の戦場での記憶が混ざり込んであんな悪趣味な光景になっていたなんて、そんな彼女の思い出を穢すようなことは言えない。


 あれは何かのイメージが混ざり合った『夢』……少なくとも、シックスさんの『記憶そのもの』なんかではありえない光景だった。

 だって、もしそうなら……シックスさんが生きていることがありえないことになってしまうのだから。

 私が勝手に見てしまった余計な悪夢を自分の中で消化していると、シックスさんが思い出したように言う。


「あっ。そういえば、夕子ちゃんは夜の内に一回起きておいた方がいいかも……というか、普段は夢の記憶は消しておくんだけど、今日はちょっとすぐに起きられるように残しておくね」


「え? 何故ですの?」


「いやぁねぇ……ボクが来る前、夜神さん自身の夢の中でさ、床がその……なんていうか、『水浸し』だったでしょ? ボク、夢の中はどうにでもできるけど、現実の方はどうにもならないからさ……」


「…………えっ」




 真夜中の廊下。

 弱々しい照明で真っ暗ではないけれど十分に暗い寮の廊下。

 本物の、現実世界の、戦英プロの寮。


 ほっぺたを何度もつねって、夢じゃないと、出来れば夢であってほしいと願って確かめたので間違いなく夢から覚めた現実側。


「うっ……ううっ……」


 涙を堪えながら、コソコソと物音を立てないように、シーツの塊を抱えて廊下を歩く。

 履き替えた新品の下着と寝間着のズボンの新鮮な肌触りが生々しい現実感を与えてくる。


 目指すは……ダミーさんの部屋。

 こうなったのも半分くらいは多分彼女のせいだから。

 夜中に押しかけるのは悪いけれど、彼女の器用さならきっと朝までにどうにか……ボスッ。


 シーツの塊で塞がっていた視界の向こう側、曲がり角から出てきた誰かとぶつかった。


「うわぁっ!」

「きゃああっ!」


 思わずお互いに悲鳴を上げてしまう。

 その相手は、弱々しい照明にシックスさんとは少し色合いが違う赤髪を照らされた……


「ね、ねねさん……な、なんでこんなところに、こんな時間に……」


「いや……それ言うなら夕子ちゃんこそ、こんな夜中にどうしたんすか? ジブンはあれっすよ、たまにベルシィちゃんが……いや、深夜にちょっと変な遊びをして夜更かししてる子がいるから、注意するために時々見回りしてるんすけど……今日は初期対応部のみんな、明日のためにしっかり休むように言われてたっすし。それよりも夕子ちゃん、それは……」


 ハッとして隠そうとするけれど、もう遅かった。

 驚いた時に落としてしまった……大穴の空いたシーツを、バッチリ見られてしまった。


「ち、違いますの……ね、眠っている間に能力が漏れ出して、下着やシーツを溶かしてしまっていたみたいで……決して、やましい何かを隠すためにそこだけを消したとかではなくて」


「あっ……あー……」


 私を観察し直して、気まずそうに目を逸らすねねさん。

 しまった……寝間着の下だけを予備に変えたせいで、上下の柄が少し違ってしまっていることに今になって気付く。

 それはもう、『片方だけを着替えました』と言っているようなもので……


「そ、そりゃそうっすよね! 今日はステージでいきなり実戦なんて、あの仏像の化け物とか夢に出てもおかしくないくらい怖かったっすよね! シーツの交換と処理は任せてほしいっす! あ、あとは下着……衣服の補充もっすかね?」


「あ、あぅぅ……」


「な、泣かなくても大丈夫っすよ! ちゃんとそういう不意の能力物損とかも経費には入ってるっすから! 蓬ちゃんとかリーナちゃんもたまに力加減間違えてやらかしてるヤツっすから! も、もちろん、こういうパターンならみんなには内緒にするっすよ!? ……でも、次からは『そういうこと』があったら自分でこっそりなんとかしようとする前に正直に言ってくれた方が助かるっすね……なんなら、ジブンの端末に連絡してくれればこっそり処理するっすから……だから、その……仕方ないと思うっすよ、生理現象なら」


「う、うぅぅ……ちがいますのぉ……」


 どれだけ夢であってほしいと思っても、今度はシックスさんからの声がかけられることはなく。

 この夜のことは見事に私の黒歴史として、私とねねさんの記憶にバッチリと刻まれてしまったのでした。





 ……全然関係ない話かもしれませんが。

 作者がもしもオリキャラ転生とかで『転生したので狂信します』の本編の二次創作をやる場合、一番安牌なラスボス枠はテセウス・グラム将軍になると思ってます。


①作中で神域を除いて(神域相手でもわりとちゃんとやり合えちゃうレベルで)白兵戦最強な上に、それとほぼ同等の個人戦力である『セブンス・ブレイブ』や『理想の勇者』を手駒として放ってくる


②生産型転生特典で経済戦チートとかやろうとすると財力や権力・軍事力の行使から暗殺まであらゆる手段で潰しに来る


③戦力でも影響力でも自分の脅威になりうると判断した転生者は執念深く抹殺しようとしてくる


④実質不老で長くそんなスタイルを続けてるせいで敵や因縁が腐るほどあって、ピークドットに到達できればフィースさんを中心にレジスタンス的な仲間を作れる下地と導線が最初からできてる



 ……一応は④の恩恵を最大限活かしたとはいえ、本編の狂信者さんよく一発クリアしましたねこれ。


 いえまあ、ノンさんの顔面ガードベントとかやらなかったら『機関槍(ガトランス)』が石化防御不可能な即死技なのでそこで詰んでましたし、将軍もそれ込みで狂信者は直接戦闘では自分の脅威にならないと思って油断していたという計算違いのせいというのはありますが。


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