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『改変された世界で、俺のスキルがチートだった件』  作者: ばずみかん
第一部:異変の始まりと『運』の覚醒
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第46話:守護天使ミカエル、絶望的な光

チュートリアルタワー十階層の最奥。学は、プニを抱き上げ、目の前にそびえる巨大な扉を見上げた。情報屋グレイから得た知識が脳裏をよぎる。

「十階層の守護者は、『守護天使ミカエル』。その本質は光。純粋な闇、あるいは邪悪な存在から放たれる強力な魔力攻撃が有効。彼は因果律を操作する能力も持ち合わせている」。

学のレベルは42、プニも同レベルだ。ミカエルの圧倒的な格を前に、学の胸に微かな緊張感が走る。


扉を開けると、そこは無限にも思えるような広大な空間だった。足元には白く輝く大理石の床がどこまでも伸び、その先には、遥か高みに立つ存在が見えた。


まばゆい光の奔流が空間を埋め尽くし、清らかな聖歌のような調べが響き渡る。その中心に立つのは、巨大な白い翼を持つ人型の存在――守護天使ミカエル。

その全身からは純粋な聖なる光が溢れ出し、まるで空間そのものが彼の意思に染まっているかのようだった。その顔は穏やかだが、その瞳には慈悲と同時に、一切の妥協を許さない絶対的な意志が宿っていた。


「プルル……強い……」


プニの幼い思念が、学の頭に直接響く。その虹色の体は、空間に満ちる聖なる魔力に強く反応し、微かに怯えるように震えていた。学もまた、肌を刺すような聖なる魔力に、思わず身構えた。


学は躊躇なく、『真贋鑑定』を発動した。眼前に現れた半透明のボードに、ミカエルの情報が詳細に表示される。


【守護天使ミカエル】

レベル: ???

HP: ???

特性: 神聖な光の剣、広範囲浄化魔法、因果律操作(限定的)、魔力吸収、自己再生

弱点: 純粋な闇、核(胸部中央に隠された部位、特定の条件下で露出)

備考: 天上の回廊の真の守護者。神聖な波動を放ち、周囲の魔素を聖属性に偏らせる。


「因果律操作……やはりな」


学は思わず息を呑んだ。自分と同じ因果を操る能力。そして、「純粋な闇」が弱点。学の『シャドウダガー』には闇属性攻撃力+50の効果があるが、それだけでは足りないだろう。さらに、グレイは「ミカエルが力を解放する特定の条件下でのみ、ごく短時間露呈する『核』に対しての物理攻撃が決め手となる」と言っていた。その「特定の条件」が、今の学には掴めない。


ミカエルがゆっくりと光の剣を構える。その動きに合わせて、空間に満ちる聖なる魔力が収束し、純粋なエネルギーの刃を形成していく。


「プルルル……!」


プニが強く警戒の思念を送った。


「『倍々サイコロ』!」


学は迷わずユニークスキルを発動。サイコロが宙を舞い、彼の強い意志に呼応するかのように「6」の目を叩き出した。「運:462」。桁違いの「運」の奔流が学の全身を駆け巡る。ミカエルの圧倒的な格を前にしても、学は自身の最大の武器である「運」を最大限に活かすことを選択した。


ミカエルが光の剣を一閃する。それは物理的な剣撃ではない。空間そのものが歪み、学の存在する因果律を強制的に「浄化」しようとする、神聖なる一撃だった。


「くっ!」


学は『因果固定』を無意識下で発動させる。彼の「運」の力が、ミカエルの剣撃が彼の身体に触れる直前、僅かにその軌道を逸らそうと試みる。しかし、ミカエルの因果律操作能力が、その歪みを瞬時に「修正」する。学の『因果固定』の効果は、まるで水面に小石を投げたかのように、すぐに吸収されてしまう。聖なる光の剣が、学の肩を僅かに掠め、ダメージを与えてくる。学のHPが僅かに削られ、MPも急速に減少していく。


「やはり、格が違うか……!」


学は歯を食いしばった。これまでの敵とは比較にならないほど、学の『因果固定』が有効に機能しない。ミカエルの因果律操作は、学の幸運を捻じ曲げようとする力と真正面から衝突し、学のMPを大きく消耗させている。


「プニ、援護を頼む!」


「プルル! マナブ、まかせて!」


プニは学の意図を汲み取り、ミカエルへと突進した。その虹色の体は、空間に満ちる聖なる魔力に抗うように輝きを強める。プニはミカエルの足元に張り付き、その体から強化された『溶解液』を放出した。

ジュワアア…!という音が響くが、ミカエルの体表を覆う光のバリアは溶解液を弾き、わずかな煙が立ち上る程度だった。プニは怯むことなく、その体から『放電(微)』を発動。聖なる光を纏うミカエルに対し、微弱な電流が走り、僅かにその動きを鈍らせる。


「今だ!」


学は『シャドウダガー』を構え、プニが作り出した一瞬の隙を突いて肉薄した。紙一重の回避を続けながら、ミカエルの体表の光の鎧にわずかな「隙」を見出そうと試みる。闇属性のダガーがミカエルの光のバリアに触れるが、決定的なダメージには繋がらない。『高速思考ラピッド・シンク』で敵の行動パターンを瞬時に解析する学。しかしミカエルは、さらに上を行く速さで、その巨大な白い翼から無数の光の羽を放ってきた。光の羽は学を取り囲むように降り注ぎ、彼の逃げ道を塞ぐ。


「くっ……!」


ミカエルの強力な聖属性攻撃に、学の『聖属性耐性(小)』はほとんど意味をなさない。学は再び『因果固定』を意図的に発動させ、降り注ぐ羽の軌道を逸らそうとするが、ミカエルの因果律操作がそれを阻む。頭の奥には激しい頭痛が走り、MPゲージは急速に減少していく。


「プルル! マナブ、あぶない!」


プニの焦りの思念が響く。学は追い詰められていた。このままでは、ジリ貧だ。ミカエルは学たちの動きを見切り、聖なる光の剣を大きく振りかぶる。それは、学とプニをまとめて浄化しようとする、文字通りの必殺の一撃だった。


学は必死に頭を回転させる。『高速思考ラピッド・シンク』が限界まで機能し、この状況を打開する方法を探る。だが、ミカエルの因果律操作を突破し、弱点を突く手段が見つからない。


絶体絶命の危機。学は歯を食いしばり、プニを庇うように身を固めた。その時、学の「運:462」という突出した数値と、『因果固定』が、この絶望的な状況を打破しようと、かすかな因果の糸を手繰り寄せようと試みる。


その瞬間、聖なる光が満ちる広間の、巨大な扉が音を立てて開かれた。


学がそちらに視線を向けると、そこに立っていたのは、漆黒の羽織を翻し、研ぎ澄まされた日本刀を構えた一人の男だった。その顔には一切の感情を宿さないが、その瞳の奥には揺るぎない闘志が宿っている。


「――剣聖、ヤマト……!」


学は、驚きと共にその名を呟いた。日本のトップランカー、剣聖ヤマト。世界ランキング2位の剣士。なぜ彼がここに? まるで、学の『運』と『因果固定』が、この絶望的な状況を打開するために、彼をここに引き寄せたかのようだった。ヤマトは学を一瞥すると、言葉を交わすことなく、神速の動きでミカエルへと肉薄した。


「神速の一閃!」


ヤマトの刀が、光をも切り裂く勢いでミカエルに迫る。ミカエルはヤマトの動きに驚いたかのように、僅かに反応が遅れる。その一瞬の隙をヤマトは見逃さず、幾筋もの斬撃をミカエルの体表に叩き込んだ。ミカエルの聖なるバリアが、その衝撃で微かに揺らぐ。


「貴様は……何者だ」


ミカエルは、初めて明確な感情を込めた声を放った。ヤマトはミカエルの問いには答えず、再び一閃。学は、ヤマトの圧倒的な剣技に息を呑む。トップランカーの実力は、噂以上だった。


「名無し、貴殿の力、確かに拝見した」


ヤマトは、学に背を向けたまま静かに言った。ヤマトは学が「名無し」であることを認識している。学は、ヤマトが初めて自分に語りかけてきたことに、僅かな驚きを覚えた。彼らは初対面のはずだ。だが、今はそれどころではない。


ミカエルはヤマトの攻撃を受け止めると、その瞳に冷たい光を宿した。


「無意味な抵抗よ」


ミカエルは、ヤマトと学を同時に、聖なる光で包み込もうとする。ミカエルの因果律操作と、広範囲浄化魔法の複合攻撃だ。このままでは、ヤマトと学、そしてプニもろとも、浄化されてしまう。


学とヤマトは、それぞれの能力を最大限に駆使し、ミカエルの猛攻を防ぎ続ける。学が『因果固定』でミカエルの攻撃の軌道を僅かに逸らそうとすれば、ヤマトがその隙を突いて斬撃を叩き込む。プニもその間を縫うように、強化された溶解液や放電でミカエルを撹乱する。

しかし、ミカエルの圧倒的な火力と因果律操作の前に、共闘した学とヤマトの力をもってしても、次第に追い詰められていく。体力もMPも、限界に近づいていた。絶望的な拮抗状態が、広間に満ちる聖なる光の中で続いていた。


(このままでは……!)


学の脳裏に、再び家族や明日香の顔がよぎる。諦めるわけにはいかない。まだ、何かできるはずだ。学の精神が、極限まで研ぎ澄まされていく。因果の奔流が、学の意識の中で、これまでにないほどの速度で渦巻き始めていた。


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