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怖い話  作者: 優斗
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第五夜 背の高い女

 まただ。またあいつが見ている。

 俺はカーテンの隙間からそっと外の様子をうかがった。

 俺の住んでいるアパートの目の前には、古い団地が立ち並んでいる。その団地の二階にある部屋の一室から、一人の女がジッとこっちを見ているのだ。

 窓際に佇む異様に背の高い女。天井にまで届きそうなくらい馬鹿でかいあの女が、俺の部屋を見てくるようになったのは、今から一週間ほど前のことだ。

 その日の朝、目が覚めた俺は眠たい目を擦りながら外の空気を部屋に取り入れようと窓を開けた。その時、俺はいつもと違う違和感に気がついた。ふと見ると、向かいの団地からこちらをジッと見ている女と目が合った。

 俺は軽く会釈するが女はピクリとも反応しない。

 変な女だなぁと思いつつ、その時はその場を後にしたのだが、次の日も、そして次の日も女は俺の部屋をジッと見つめ続けているのだ。

 そいつには他にもおかしい箇所があった。まず、着ている服が毎日一緒、そして毎回同じ場所から微動だにしないでこちらを見ていること。下手したら四六時中見ているのでは無いだろうか?

 一瞬幽霊かとも思ったが、あんなにはっきりと見える幽霊なんて聞いたことが無い。だとしたら、あの女は何者なんだ? 一体、何のためにこの部屋を見ているんだ?

 俺は改めてそっと外を見た。あいかわらず女はこちらをジッと見ている。その目は暗く淀んでおり、まるで死んだ魚のように濁っていた。

 気味が悪い女だ。

 俺は思わずブルッと身震いをした。

 特に何かする訳でも無いが、こう毎日毎日見られると気になって仕方が無い。カーテンも開けづらいし何よりプライベートの侵害だ。

 よし、一言文句を言いに行ってやろう。

 俺は意を決するとすぐさま部屋を飛び出し、女の住む向かいの団地へと向かった。

 団地についた俺は、二階へと続く階段を駆け上る。あの部屋は位置的に考えて恐らく奥から二番目の部屋のはず。

 俺は部屋の前に到着すると、インターホンを鳴らした。

 あいつが出てきたら何て言ってやろう。『覗くのはやめてください!』いやいや、もっと強い口調で言わないとあの手のタイプはやめないだろうから『警察を呼ぶぞ!』とかだろうか。

 そんなありきたりな台詞を思い浮かべながら、俺はドアが開くのを待った。だが、暫く待っても扉は開く気配が無い。一瞬留守かとも思ったが、よくよく考えてみればついさっきまであいつは俺の部屋を覗いていたんだ、留守な訳が無い。だとしたら、俺が来たことに気がついて居留守を使っていやがるんだ。

 ムカついた俺は、ドンドンドンと乱暴にドアを叩いた。


「おい! 居るのはわかっているんだぞ! さっさと出て来い!」


 だが、いくらドアを叩いても叫んでも女は姿を現さない。くそっ、だんまりを決め込むつもりか?

 俺はドアノブをガチャガチャと捻った。すると、ドアがあっけなく開いた。どうやら鍵はかかっていなかったようだ。

 俺はゆっくりとそのままドアを開いた。中を伺おうと隙間から顔を覗かせると、突然黒い塊と凄い異臭が俺を襲った。


「うわっ!」


 思わず鼻を押さえながら俺はのけぞりながら倒れる。飛び出してきたそれは物凄い数の蝿だった。


「な、なんだこの腐ったような気持ち悪い匂いは……」


 俺は立ち上がると、服で鼻を押さえながらドアの隙間から中の様子を伺った。昼間だと言うのに中は薄暗く、どんよりとした空気が漂っている。


「おい、誰か居ないのか!」


 俺は部屋の奥に向かって叫んだ。だが反応は無い。

 ドアを開き、俺はゆっくりと中へと入った。

 薄暗い廊下を進む俺の耳に、ギシギシと床の軋む音が聞こえてくる。

 俺は廊下の一番奥にある部屋の前に辿り着いた。位置的にそこは、俺の部屋から見える部屋、あいつがいつも佇んでいる部屋のはずだ。

 俺はドアノブを掴み、そして気がついた。俺の手がジットリと汗ばんでいることに。何故だろう……嫌な予感がする。このドアを開いてはいけない気がする……。

 だが、ここまで来て何もしないで帰る訳にはいかない。俺はゆっくりとドアノブを捻り、扉を開いた。

 そこにあの女がいた。

 いつもと変わらない場所、いつもと変わらない格好。そして、何故その女が俺の部屋を見ていたのか、その全ての答えがそこにはあった。

 最初からおかしいと思っていた。ずいぶんと背の高い女だと思ってはいたが、よくよく考えてみたら天井に届きそうなくらい背の高い女なんているはずがない。そいつは背が高いんじゃない、高い場所から見ていたんだ。そう、その首にロープを巻きつけて……。

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