沈む平穏
1─プロローグ
世界にその名が轟くほどの怪盗やそれを捕まえる任務を任される警部、その任務の雑用として扱われる俺、安坂昇太。
どれも同じ人間、同じ国籍だ。皆がそれぞれの人生の主役、そう言われても素直に同意して我こそが主人公だと人生を切り開いていけるほど俺は強くない。
まあ、世界を股に掛ける怪盗、「3100010」から「今夜美術館一美しいものを盗みます」などと馬鹿げた予告状を送付されたこの美術館の警備を他にも何十人といると言っても任されているのには変わりはないだから名誉だと言っていいのかもしれない。
怪盗「3100010」が活動し始めたのは4年前のことだった。4年前のある日、とある美術館の館長がいつも通りに開館の準備を進めていると先日まであったはずの絵画がなく、あるべき場所には「これ偽物だぜ!by3100010」と馬鹿げたメッセージが書かれた紙が貼り付けられていた。
もちろん警察やマスコミは大騒ぎ。バカな奴の犯行ですぐに捕まると皆考えたが警備を難なく通り抜け様々な偽物の美術品や不当に持ち主から奪われた美術品を盗んでいく怪盗に、ストレス社会で生きる人々は心を盗まれた。一方で捕まえようと必死になっている警察にはどこか冷たい。警察とはいつでもこういう立ち回りなのだ。怪盗3100010をいつしか人々は「怪盗サンセット」と呼ぶようになった。
もうすぐで予告の時間、11時だ。
俺は欠伸を噛み殺しながら遠くの時計を眺めていた。
それから3秒も経っただろうか、突然辺りが霧のようなモヤに包まれ俺の目の前に仮面で顔を隠し長いマントを翻す怪盗が現れた。
「顔はまあまあだけど、綺麗な瞳。羨ましいなぁお巡りさん」
柔らかく細い透き通った手が俺の頬に触れたかと思うと怪盗はモヤに隠れて姿を消した。もちろん、予告通りに美術館一美しい宝石を盗んで、だ。
俺はその後上司に素直に起こったことを説明し、約半日拘束され、外に放り出された。
ただ、上司にも言っていないことがある。
怪盗サンセットに触れたあの時、怪盗サンセットは女性ではないのかと言う疑念が生まれたのだった。それはなんの根拠もないが俺の中で確証となっていた。




