如月ー9
こんにちは。以前この欄でこの世は2割悪魔が支配と書いていましたが修正します。
この世は8割が悪魔です。
残り1割づつが普通の人と天界由来でした。
近い未来、世界の終わりのような大きな災害が起きますが、それはこの世に蔓延る悪魔の一斉駆除作業なのです。
助かりたくば身の回りの神仏、先祖等への信仰を忘れず、災害に備えノアが方舟を作ったように準備をしておくようにと天使からお告げを頂く
という夢を見ました。
お楽しみ頂ければと思います。
ザドキエルは首に着けていた白いハウライトに似た石のチョーカーを外すとバラキエルの首に着け言った。
「その石に誓って、必ずここへ戻ってお前を迎えにくるからね。少しの間待っていてくれ。」
「兄さん…」
バラキエルは不安そうにザドキエルのオッドアイを見つめ呟いた。
「俺に考えがあるんだ。それはけして“主”を欺くのではない。そんなことは天使の俺達には絶対できないからね。何となくだけど、“主”の御心ではこうなんじゃないだろうかって考えがあるんだ。」
ザドキエルは真剣な面持ちとはっきりした口調で言った。
「それって一体何なの…兄さん、一体何をしようと…」
「“主”は…神はもう一度地上にエデンを甦らせようとしているんだ…。」
ザドキエルはバラキエルの問いに真っ直ぐ見つめながら返した。
「…!」
「しかも、かつての地上がそうであったように、地上に散らばった無数の他の教えの神々と手を取り合って実行する計画ともとらえられる。」
「書物には書かれていない事実だ…!俺達だけが知ってる…エデンには無数の自然の神々がいた。かつてエデンに住んでいた人々は“主”と一緒に自然の神々を敬っていたよね。そうなんだ!あの神々と…」
バラキエルはザドキエルと同じオッドアイを見開きながら言った。
「だから、そのための“基礎”を築く役割を条件にお前と一緒に地上に降ろして貰えるよう掛け合ってみようと思っている。」
ザドキエルはそう言って立ち上がると自信を含んだ声で言った。
「“神からの託け”で下った天使は“堕天使”じゃないだろ?」
「兄さん…」
呟くバラキエルに左の緑の目の方でウィンクを送るとザドキエルは脇目も降らずに“主”のみもとに向かった。
一方、天界の入り口付近、先程ザドキエルが目を覚ました辺りに“大天使ミカエル”が“本来の姿”でたどり着いた所だった。
地上では“米奇”という名の人として生きながら、いつか天界に戻る日を夢見、眠る度体から魂を離れさせ何度もシミュレーションした“梯子昇り”は見事に成功したのだった。
美しい孔雀模様のブルーとグレーのグラデーションの大きな翼、短いローブに鎧を着け、燃え盛る炎の剣と天秤を携え、編み上げのサンダルを履いたその姿は地上で知られる“大天使ミカエル”そのままの姿だった。
「ザドキエルを探さなきゃ!」
ミカエルは翼を広げると雲から降り注ぐ梯子を昇り更に上の界へと向かった。
天界は地上の人間が想像している以上に広く、正に“果てのない”世界だった。
飛びながらミカエルは考えた。
もしかしたらザドキエルは既に囚われているのではないか…
堕天使は雲の神殿の牢に閉じ込め、“地上での穢れ”が浄化されるまで罰を与える決まりだった。
その考えに苛まれたミカエルはこうしてはいられないと言わんばかりの光のごときスピードで雲の神殿に向かい裏口から入り牢に向かった。
「黒い翼…君はバラキエル!」
奥の牢に囚われていた傷だらけのバラキエルをみてミカエルは叫んだ。
「ミカエル…俺を罰しに来たのかい…?」
「いや、僕はザドキエルを探しているんだ。バラキエル、知らないか?」
バラキエルの力ない言葉にミカエルは答え尋ね返した。
「兄さんなら、“主”に会いに行ったよ。俺を牢から出して一緒にもう一度地上に降ろしてもらえるよう…頼みに行ったんだ…。」
バラキエルは顔を上げるとミカエルを見つめながら言った。
「“主”の所に…!?ザドキエル…!」
「ミカエル…ごめん…俺のために…君まで地上に堕ちてしまったんだよね…」
バラキエルは心底申し訳なさそうに声を落としながら言った。
「…確かに地上は最悪だったよ。でもこうして戻って来られた。僕を誰だと思ってるんだい?それに過ぎた事だ。今はザドキエルを追わないとね!」
ミカエルは明るく言うと踵を返し振り返りながら加えて言った。
「ザドキエルと一緒に地上に帰る約束をしたんだね…?なら僕も同じ思いだから…」
「ミカエル…」
バラキエルが呟くと同時にミカエルもザドキエルのように脇目も降らずに“主”のみもとへ向かった。
幾筋もの光の梯子を昇り幾重にも重なった分厚い雲をかき分けた先に偉大なる“主”
地上で人間が“天にまします我らの父”や“神”と呼ぶ存在が座する神殿があった。
そこには熾天使
智天使
神の御子イエス
イエスの母マリア
イエスの地上での父、義父のヨゼフ
12使徒
その他、地上で奇跡を起こした聖人達、聖書に登場する多くの人物も共に暮らしていた。
ここは天界でも最も崇高で神聖なエリア。
“神の住居”
地上のどんな大聖堂や神殿よりも重厚で巨大なその造りは人間が抱く神への畏怖を具現化したかのようだった。
大天使ミカエルすらもこれまで数えるほどしか訪れた事がなく、辿り着くまでの道中も恐れ多い気持ちのほうが上まわっていた。
「ザドキエルはある意味本当に凄い…。書物に書かれてある、あの一節も彼の突発的な行動によってだった…。」
その一節とは、旧約聖書の創世記でアブラハムが実の息子イサクを神の命令で生け贄に捧げるというエピソードだった。
そこで現れた天使がアブラハムを制止し、イサクは命拾いした。
その天使こそザドキエル、彼だった。
ザドキエルは神の考えを知り、居ても立っても居られず急いでアブラハムを止めに行ったのだ。
結果的に神はアブラハムを許した後、かの一族は繁栄したが、あの時も、バラキエルを追って堕天した時も、今回も
ザドキエルは迷いなく行動を起こしている。
その行動力は彼の深く計り知れない慈悲の心より来ているから以外考えようがなかった。
神殿の奥では正にザドキエルが神に懇願している所だった。
「主よ!どうかその深いご慈悲で我が弟を許してやっては頂けませんか!彼はもう充分過ぎる程に反省をしております。あれだけ罰を受ければ、地上での穢れもすっかり落ちておりましょう。どうか、お願い致します。彼を牢から出してやって下さい!」
ザドキエルの声が神殿に響いた後、“神の声”が返ってきた。
「バラキエルを牢から出した後、あなた達は再び堕天する計画を企てているのでしょう。私には全てわかっております。ザドキエル、あなたは一度堕天し、地上がいかに悪に支配された、苦しみと哀しみと不条理に満ちた世界か見てきた筈です。あなたの弟、バラキエルも同様です。何故あれほど辛い目に合いながらまた地上に憧れを抱くのか、理解に苦しみます。その事についてはあなた達はどう考えているのか。」
「確かに俺達はもう一度地上に降りんと考えております。しかしそれにはちゃんと理由があるのです。一つは、俺達が地上に残してきた、大切な人達を哀しませないため、もう一つは、あなたの壮大な計画の基礎を築くためです。」
ザドキエルは玉座に座る“主”を真っ直ぐ見つめはっきりした口調で言った。
「私の壮大な計画…どのような計画と察しているのか、言ってみなさい。」
“主”は落ち着いた様子でザドキエルに言った。
「あなたは、もう一度地上にエデンを復活させようと考えておられるのではないのですか?」
「…確かに。そのとおり、私はもう一度地上にエデンを復活させようと考えております。」
“主”は尚も落ち着いた様子で答えた。ザドキエルは再び“主”の方を真っ直ぐ見つめながら言った。
「俺は地上に堕ちた後、“日本”という国に人として生まれ今日まで暮らしてきました。その際、信仰もあなたの教えではなく仏教の教えや日本古来の多神教…“神道”に変わっていました。」
「…。」
“主”は黙って静かに頷きながらザドキエルの話を聞いていた。
ミカエルもその話に自らの境遇を重ねていた。
「そうだ。今は僕も向こうの世界では異教徒だ。この事実に対して“主”はどう思われるのか、僕も気になっていた所だ。」
つかの間の沈黙の後“主”は穏やかに話し出した。
「その事に関しては私は何ら咎めるつもりはありません。むしろ、“仏教”や“多神教”の教えの力がいかに人々の救いとなるか興味もありました。あなたは身を持ってそれらを学んで来てくれたようですね。その事は私も望んでいた通りです。」
“主”の言葉にザドキエルもミカエルも心底安心した。
やはり“主”は偉大だった。他の教えの神々の存在も彼は認めていたのだ。
やはり“一神教”等という概念は人間が勝手に思い込んでいたに過ぎなかったのだ。
「“主”よ。恐れ多くも問います。あなたは地上にエデンを復活させる際、他の教えの神々にもその力を借りようとお考えなのではないのでしょうか。」
ザドキエルは遂に本題に突入した。
暫し沈黙の後、“主”はゆっくりと口を開き答えた。
「そうです。驚きました。いつの間にその事にあなたは気づいていたのですか…?」




