如月ー7
あの男の娘の子も○○でした。
○○の答えは本文中にあります。
お楽しみ頂ければと思います。
『見たんでしょ?夢で真っ白な翼の天使を…』
米奇は今度は完全に小莱の方を向いて言った。
『“生命の樹”の“ケセド”を司る天使「ザドキエル」の夢を…』
『…っ!』
小莱は思わず息を飲んで後退りした。
米奇の背に孔雀の尾羽のような模様の鮮やかなブルーとグレーのグラデーションの大きな翼がくっきりと見えたからだ。頭上には金の環が浮かび目映い後光も差していた。
『僕は大天使ミカエル。今は堕天使だけどね。ザドキエルと一緒に間違って堕天しちゃったんだ。』
『…堕天…!?君が堕天使…ど…どういうこと…!?』
小莱は米奇の話の唐突さに驚きと戸惑いを隠せず思わず叫んでしまった。
『話すと長いけど…こうなってしまったのは全部、最初にバラキエルが堕天しちゃったからで…』
『ば…バラキエル…?』
米奇、いや“元”大天使ミカエルの言葉に小莱は再び疑問符を投げ掛けた。
『廖さんが一番最初に出逢って過ごした、金髪、オッドアイの男の人、彼だよ。トニー・イップ。彼も堕天使だったのさ。』
『…!』
小莱が驚きの表情を見せるのも構わず、ミカエルは踵を返すとすぐ後ろに迫っていた礼拝堂の扉を開けた。
『良かった。お祈り中の人はいないみたいだ。』
そう呟くとミカエルは一番前の席に座り話を続けた。
『ザドキエルとバラキエルは素晴らしい双子の大天使だったんだ。』
『双子…?』
『そう。葉さんと、トニー・イップ、そっくりでしょ?まさか地上でまで同じ姿で顕れるとは僕も思ってなかったけどね。』
小莱の聞き返しにミカエルは苦笑いしながら言った。
『トニー先生…バラキエルはどうして堕天なんて…』
小莱はミカエルの横に座り祭壇の上部に吊り下げられた十字架を見つめながら言った。
『彼はかつてから地上に強い憧れを抱いていたんだ。地上に住む人間達の生活、何故人間達が地上に生まれ“夢”を抱きながら生きるのかをずっと知りたがっていた。』
ミカエルも同じように十字架を眺めながら続けた。
『“夢”…』
『そう、けど“夢”はある意味危険な存在だ。“悪魔”に近づくきっかけにもなりかねない物だから。』
“悪魔”というワードに小莱は思わず十字架からミカエルの方に目線を移した。
ミカエルは神妙な面持ちで更に話を続けた。
『僕らが気付かない間に…バラキエルは地上の“悪魔”の誘いに引き寄せられていたんだ。気付いた時は既に手遅れだった。』
ミカエルはそう言うとため息を付き俯いた。
『バラキエルが天界から姿を消してから大変だった。ザドキエルはバラキエルを連れ戻そうとして、僕もそれを止める為に…』
ミカエルは天井を仰ぎ呟いた。
『地上は本当に酷い所だ…人間になって初めてわかった。生きるという事がこんなに大変な事だったんだって…』
『大変だね。本当に生きるって事は…』
小莱も天井を仰ぎながら同意していた。
『ザドキエル…葉さんは大丈夫だよ。ああ見えて結構強いんだ。廖さんは地上から葉さんの事呼びながら待っていてくれればいいから。』
ミカエルは天井から小莱の方に向き直り明るく言った。
『…。』
小莱はミカエルの後半の言葉に妙な違和感を覚えた。
“『地上で待っていて…』”
『ミック…君…何をするつもりなの…?』
小莱は不安に表情を曇らせながらミカエルに問いただした。
『平気さ。これまで何度も練習したんだ。天界には“梯子”(はしご)を伝って昇れば簡単に行けるから。』
『天界!?』
小莱はミカエルの言葉に思わず声を大にしたが、今居る場所が礼拝堂だと気付いて恥ずかしそうに俯いた。
『ザドキエルがあの状態だと、恐らく魂は天界に強制送還されてる筈だから、こっそり行って地上に連れ戻すつもりさ。そうすれば目を覚ます筈だからね。』
ミカエルはチャーミングな大きい茶色の瞳を片方ウィンクしながら言った。
『でも…天界って…つまり…あの世だよね…ミック…まさか…!』
小莱は必死の形相でミカエルの肩を掴み叫んだ。
『まさか…死ぬつもりじゃないだろうな!?』
ミカエルは首を降りながら否定した。
『違う。そうじゃないよ。眠るだけだ。言ったでしょ?何度も練習したって。僕は元々天使なんだから、天界の昇り方ぐらい知ってるよ。』
『…。』
『廖さんも見たことあるでしょ?天から光が差し込むの。雲の切れ間から光がこう…パーッてさ。』
ミカエルは両手を下に向けて広げ光が下に向かって落ちていく様子を表しながら言った。
『あの光を伝って昇るだけ。眠って体から魂を離れさせた瞬間にね。』
『それ、本当に大丈夫なの?上手く行くの?』
小莱は不安で仕方なかった。
もし天界に行ったまま帰れなかったら…
ミカエルも目を覚ます事が出来なくなるのではと
そうなったら、ミカエルの、地上では米奇という名の少年の両親も底無しの悲しみを味わう羽目になるのでは
『ミック…』
『信じてよ。廖さん。僕、薄々勘づいてたんだよ。こうなること…いつか何らかの形で僕らは天界に呼び戻される日が来る事を…だって大天使なんだもの。天界には必要不可欠な存在だよ。だから想定して練習してたんだ。絶対大丈夫。心配しないで。』
心配するなと言われても、もし米奇ことミカエルの話が真実でも不安は拭いされるものではなかった。
『いつやるつもりなの…?』
小莱は尚も不安を全面に押し出した表情でミカエルに尋ねた。
『“梯子”がかかり次第、直ぐに天界に向かうよ。ザドキエルはきっと向こうでは何もかも思い出してるはずだ。天界の番人に見つかる前に直ぐに連れ戻すつもりさ。』
ミカエルは小莱を真っ直ぐ見つめながら言った。
その瞳には確固たる決意と使命感が強い光となって宿っていた。




