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ベイラーの駆けっこ

草原に2人のベイラーが並んでいる。サイクルの滑りはよく、削りカスもほとんど出ていない。1人は青い、空色をしたベイラー。翻る土気色のマントが、地面に垂れ下がっている。もう1人は、純白の体に、赤い肩をしたベイラー。 


カリンのベイラー、コウと、郵便屋であるナット・シングのベイラー、ミーンが、横に並んでいる。これから、彼らは決闘を始めるのだ。


「笛がなったら合図。皆いいね! 」


 スキンへッドであるネイラが、その旨をつたえ、ガインに乗り込んで走り去る。その手には二色の旗が握られていた。


 ミーンが駆け出す構えを取る。彼女は前傾姿勢で上体を維持できない。支える腕がないのだ。だからこそ、片足に必要以上重心を預けると、膝を曲げて、重心その物を低くする。いつでも走りだせるように、彼女の乗り手であるナットと共に考えた構えだった。


 コウは、特に構えるでもなく。自然体で立っている。彼は駆け出す訳ではない。だが最低限、自身の体が動くかどうかだけ確認した。ベイラーの構造体は人型で、その中でも、肩甲骨と骨盤に見える面の大きな部分が特徴的だ。その肩甲骨に接続しいる肩に、コウの場合、さらに覆う形で肥大化した『サイクルジェット』がある。そのハッチを開け閉めする。同じように、最近生まれた、ふくらはぎにできたハッチの調子も見る。


 やがて、数百、先まで走り去ったガインが、位置についた。目指すべき到達点として、今、彼らは立っている


「それでは……はじめぇ! 」


 声とは裏腹に、小鳥のさえずりのような気の抜けた笛音が、草原に響く。


「いくよミーン! 」

「《あーいよ! 》」


 ミーンの目が赤く灯り、その力を増した。乗り手との意思が重なり、ベイラー単体では決してだせない領域まで力を発揮できるようになった証。


 同時に、その両足が、土を舞い上げた。駆け出す力が強く、一気に掘り進めたように地面が抉れ、赤土が掘り起こされた。


 その体は、数歩で一気に速度を上げて。草原を駆け抜ける。足跡が草原に付けられると、草に隠れた虫達が躍いたように跳ね回った。


 ミーンの足は、この国、ゲレーンの中でも最速を誇る。3日掛かる道を1日で行き来する速度であった。それは、単純な速度もあるが、走り方が上手いという理由がある。


 この場でこそ、草原であり遮るものがなにもないが、岩山や障害物を、その両足はものともしない。全て最小限の動作で、時に跳んで、時に滑らせて回避する。あっという間にコウとの距離を離してしまう。


 だが、コウも、そして乗り手であるカリンも、黙って抜き去られることを良しとはしない。

 

「《ベルトは? 》」

「しめてる」

「《袋は》」

「使いたくないけどある」

「《じゃぁ……いこう! 》」

「ええ! 」


 両肩とふくらはぎのハッチを開き、噴射口を露出させ、火を入れた。赤い小さな種火から、1拍置いて、蒼い業火へと変わる。


「《サイクルジェット! 》」

「いけぇえ!! 」


 赤い光が目に灯り、右足を一歩だけ踏み込み、コウの体は加速を享受した。佇んでいた姿から一変し、背中と足に火を滾らせたベイラーが、地面から浮き上がり疾走する。草原にひと筋の焦げ目をつけながら、コウが前を走るミーンへと追い縋る。


 だが、その差は徐々につまっていくも、どうしてもそれ以上差を縮めることができない。最高速度でミーンに軍配があがる。


「そうそう僕のミーンが負けてたまるか! 」


 乗り手のナット・シングが叫ぶ。同時に、ミーンは目の輝きを一層強くして、さらに加速し始める。ここからさらに最高速度をあげていく。


「《カリン! 》」

「ええ! もっと速く! 」


 業火がさらに燃え盛った。さらに加速しミーンに追い縋る。舞い上がる土煙はあたり一面におよび、草に隠れた小動物たちを暴き出した。


 空色をしたベイラーと、白いベイラーが再び横に並んだ。一方は地を蹴り大地を駆け、一方は空を駆ける。ひと筋の炎と、はためくマントが、草原に別の生き物として現れていた。


 ネイラのいる場所まで、あと数mと言う時、コウの体に異変が起きた。噴射口から出る炎が、時折、力を失ったように途切れ途切れになる。

 

「こ、こんなに早く!? 」

「《だめだ! 着地する! 》」


 疾走する体を維持できず、そのまま、地面へと着地してしまう。減速出来ずに凄まじい振動をもってして地面を滑る。

 

 制動をかけたことで最高速度から一気に速度が落ちる。その隙に、ミーンはコウを置き去りにして、ガインの待つ場所へと走り去り、ガインのすぐ横を通り過ぎた。手の持たれていた、その体と同じ色をした旗が振り上げられる。


「《ミーンの勝ちぃいい! 》」

「どっちも早いもんだよ」


 ガインとネイラがそれぞれ感想を述べる。当のコウは、地面に膝をつきながら、やっとの思いで制動からの静止を成し遂げていた。そのまま、どさりと座り込む。振り返れば、数え切れぬ足跡と、ひと筋の焼け焦げた跡が並んでいた。ちろちろと燃える草木も、すぐに消えてしまい、燃え広がることもなかった。


「《ま、まけたぁ 》」

「でもこれでチシャ油の減り方がなんとなくわかった。勢いよく使わなければ、持ちはいいみたい」

「《でも、今みたく最大限加速したらこうもなくなるのか》」

「半分も入れてないんだから、全部入れていたら変わったかもね」

「《……油の分重くなるからなぁ。どうだろう》」


 その言葉を聞き、ミーンからナットが降りて抗議し始める。


「姫さま! 全力だって言ったじゃないですか! 手を抜くなんて! 」

「ち、ちがうのよ! ただ、コウひとりの為だけに、国の皆から冬につかう備蓄の油までもらうわけにはいかないでしょう? 」

「《でも、油があったら僕ら負けてました》」


 幼い少女のような声が聞こえる。ミーンが乗り手の不機嫌そうな声をきいて話に入ってきた。


「《それって、悔しいです》」

「ええと、その、距離の問題なの。この勝負には勝ってしまったけど、もし距離が倍なら、負けていたのは私たちよ? 」

「言いくるめられているような気がします」

「そうじゃないのだけど、ええと、弱ったわ、どう言えばいいか」


 そもそも、事の発端は、帝都行きにむけ、キャラバンのメンバーを探すことだった。カリンはまっ先に、ナットとミーンを選んだのである。


 ただ、彼らも、郵便の仕事があり、それを投げ出して帝都に行くにはあまりに無責任だと、一度、キャラバン入りを拒んだ。


 そこでカリンは、真っ向から決闘と挑んだのである。カリンが勝てばキャラバン入り。負ければ諦める。ナットとミーンが勝てば、城内部の従者の郵便物の請け負う数を増やすというものだった。


もちろん、バイツ達のような、取っ組み合いの決闘ではない。ミーンはその足で戦うことこそできるが、両手があるコウとではあまりに不利がある。よって、ミーンとの速度による勝負、つまりは駆けっこで勝敗を決めようという取り決めを行ったのだ。


 そして、問題というのは、コウの肩に入れる燃料であるチシャ油を、満タンにまで入れておらず、決闘の最中にガス欠を起こしたことにある。


「《ちなみに、どれ位入れていたんです? 》」

「ええと、……コウ、分かる? 」 

「《樽の半分以下 まだまだ入れられる》」

「《なら今の倍以上は走れましたね。あーあ》」


 あからまさにいじけるミーン。草を蹴っ飛ばしては足で埋めて、また蹴っ飛ばしてを繰り返す。やがて、意を決したように、ナットが顔を上げた。


「……勝負には負けました。でも、決してミーンの足が遅かったわけじゃありません。それでよろしいですか姫さま」

「もちろん。手を抜いたわけではないとわかっていただけて? 」

「はい。よく考えれば、コウは油抜きではミーンには絶対勝てないってことなんですから」

「《酷い言われようだ》」

「絶対勝てないってことなんですから」

「《二度も言うの!? 》」

「絶対勝てないんだからな!! 」

「《わかった! わかったから! 》」


 繰り返し繰り返し、コウに分からせるようにナットが言い含めた。コウの事を認めてはいるが、ミーンが劣っているわけではないのだと分からせるためだ。その言葉を聴きながら、カリンは話を続ける。


「なら、決まりでいいのね」

「はい。ナット・シングとミーンは、姫さまのキャラバンに加わります」

「よしなに」

「しかし、商団―キャラバン―っていうのはなんか変な感じですね」

「旅のお伴という形だから、名前に気を回すことはないのではなくて? もちろん、そのうち決めるけれど」 

「いい名前を期待しても? 」

「もちろん」


 こうして、帝都行きに旅に、ナットとミーンが加わった。

 

「《ガインさんたちはどうするの? 》」

「私たち専属とはいかないわ。ただでさえベイラー医は少ないのに」

「そうゆうことなら、仕方ないのか」

「そんながっかりしてくれるなんて、気に入られたのねあたし」


 ネイラが、勝負の際に舞い上がり体についた土煙を払いながら、ガインを伴ってやってくる。


「《でも、いいんじゃねぇのか。キャラバンに入って他の連中直しちゃいけないとかじゃないんですよね姫さま? 》」

「もちろん! そんなこと言いません! 怪我人はどんどん治してくださいな」

「《そうゆうことだ相棒。どうだ? 》」

「あんたが我を通すなんて珍しいね……姫さまとの旅。ぜひお伴させてくださいな」

「ええ! ええ! 是非!! 」


 なし崩し的ともいえる勧誘が功を成して、ガインたちも、帝都へは一緒にいくことになる。早くも、キャラバンのメンバーが増えた。


「ガイン、ミーン、ネイラにナット。さて、お次は」

「《カリン、もしかして全員乗り手で固めるつもり? 》」

「そのほうがコウが楽しいでしょう? 」

「《……あ、ああ、そうだね》」

「なに? 」

「《いや、そうやって考えてくれているとは思わなかった》」

「全く。失礼しちゃう」


 気遣いにしてはあまりにささやかなそれを受け取り、コウは反応に困る。あの嘘の後、後ろめたさが影になってつきまとっている。それは今のようななんとない会話にも詰まるほどだった。 


 早く忘れるために、会話の続きを促す。


「《次はどこに? 》」

「双子のとこよ! 」

「《……え? 》」


 ◆


「ひめさまだー! 」

「ご機嫌はいかがですかー!? 」

「元気いっぱいね。お父さんはいらっしゃるかしら? 」

「狩りがおわってー、裏手でー 」

「薪を割ってますー! 」

「そう。ありがとう 」


 城下から離れた村の一箇所。狩人であるジョット・ピラーの家にカリンは来ていた。


 双子の娘であるクオ・ピラーとリオ・ピラーの熱烈な歓迎を受けてならが、案内をしてもらう


「《おう。白いの。赤い肩になったんだな》」

「《はい。ナヴさんは……どうしたんです? 》」

「《落とし穴から獣を引っ張りだすときドジった》」

「《――》」


 家の脇には、ベイラーである黄緑色をしたナヴと、体の大きな黄色のリクがいる。リクにささえられながら、ナットは自分の、その泥にまみれた足を拭っていた。


「《このくらいなら自分でできるからな》」

「《リクも。元気だったか? 》」

「《――!! 》」


 リクは、ベイラーには珍しい、4本足4本腕の巨躯を持っている。体重も倍以上あり、力に関してはおそらくゲレーンの中では勝てる物はいない。そのリクの2本腕で体を支えてもらいながら、ナヴは体を拭っている。


そして手持ち無沙汰な他の腕で、リクはコウへガッツポーズをしてみせた。


「《おお。うまいうまい》」

「《やっとこのくらいならできるようになったんだよ。本当にこいつ器用さとは無縁だぜ》」

「《でも、力はすごいんでしょう? ならいいじゃないですか》」

「《前も言ったが、狩りには力ばっかりじゃダメなんだよ》」

「《――……》」


 ガッツポーズをした腕が垂れ下がる。リクは声を出すことができない。ベイラーの声を出す器官は、笛のような構造になっており、それで会話がなりたっているが、リクはそもそもその笛がない。

故にこうして体で伝える術をナヴから教わっていた。そして今おこなった動作は、明らかに落ち込んでいることを示す動作だった。


「《ナブさんがリクをいじめた》」

「《いじめてないっての!! で、今日は何しに来んだ? 》」

「《ああ、それなんだけど……リオとクオを、帝都行きの旅に連れて行きいってカリンが》」

「《ふーん……って帝都ぉお!? うぁあ!?  》」

「《――? 》」


 驚嘆と同時にバランスを崩し、ナブがリクから転げ落ちる。突如支えていた重さが軽くなったことでリクが首をかしげた。


 どさりと軽い音が鳴りながら、ナヴが顔を上げた


「《な、なんだってまた!? 》」

「《さ、さぁ》」

「《双子を連れてくってことはだな、このでっかいのも一緒につれてくってことだろう? ていうか連れて行かないとゴネるぞあいつら。なんで止めなかったんだ》」

「《……その、俺が、そのほうがいいだろうからって》」

「《お前が? 》」

「《顔見知りがいたほうがいいって》」

「《かー! はー! そうかいそうかい! 》」

「《で、でもさ、やっぱり急すぎるし、こう、俺のことは気にせずメンバーを集めてくれって言うべきかな》」

「《いいんじゃねぇの? まぁジョットの許可さえ得ればだけどな》」

「《そんな軽々しく決められても……》」

「《あ、あたしが帝都に誘われても行かねぇなから? 》」

「《……理由を聴いても?》」

「《帝都に行くにはどうするか知ってるのか? 》」

「《えっと、サーラを経由して、そこから船でいくとか》」

「《……海が、ていうか水が嫌いなんだよ》」

「《……雪は平気なのに? 》」

「《うるせぇ!! ダメなもんはダメなの! 》」


 小さな言い争いをしていると、間延びした声が当たりに聞こえてくる。ジョットが手ぬぐいで汗を拭きながらやって来る。傍らにはあの双子も一緒だ


「リクー!! 」

「いい子にしてたー!? 」


 一直線に自分たちのベイラーのもとへと走る。


「コウ君もいたのか。じゃぁ、ナヴはもう話は知っているのかな」

「《帝都に双子をつれてくって話だろ? いいのかよ》」

「あの子たちに、国の外をみてまわる機会が巡ってきたんだ。いいことじゃないか」

「《まだ餓鬼だろうが》」

「10になった。十分だよ。旅は子供達にいい経験になる」

「《……オーリエはなんて言ってるんだ》」


 オーリエ・ピラーは、彼女らの母親である。その彼女の言葉も、あっけからんとしたものだ。


「『これで4人分料理を作らなくて済むのね』ってさ」

「《なんだそりゃぁ》」

「心配も分かる。でも、僕らの目の届くとこにいるより、ずっといいさ」

「《そうゆうもんかよ》」

「そうゆうもんだと思うよ」


 ジョットとナブの間で相談が終わる。しきりに首を動かしてうんうん唸りながら、最後にはナヴが折れた。


「《そもそもあいつらはどうなんだ? いきたが……るよなぁ》」

「大騒ぎさ。どんな服を着るか、何をもっていくかで、もうてんやわんや」

「《あー、そうなったら何言ってもやめねえよなぁ……おう白いの》」

「《はい? 》」


 ナヴはリクを支えに立ち上がりながら、コウに向き直ると、その目を真っ直ぐ見据えた


「《あいつら、姫さまに迷惑かけるだろうが、よろしく頼む。もちろん悪りぃことしたら叱ってくれて構わねぇからさ》」

「《わかった。約束する》」

「《それから、あいつらヤンチャだから、そのへんも気をつけてな》」

「《ああ、もちろん……》」

「《あと、海の上は冷えるから、毛布をだな》」

「《なんでナブさんがジョットさんより心配してんのさ》」

「《ジョットが心配しなさすぎなんだ! 》」

「《――! ――!! 》」

「《何言ってっかわかんねぇよ……》」

「《リク。君も俺たちと一緒にいくんだ。リオとクオを守ってやるんだぞ? 》」

「《――!! 》」


 黄色い腕が、天高く掲げられる。やる気に満ち溢れているといった行動だった。しかし、コウには懸念があった


「《リクも俺も、海は初めてなんだよな……どうなることやら》」

「《まぁ、落ちることはすくねぇから大丈夫だ。わざわざベイラーだって乗れるようなでかい船使うんだからな》」

「《あれ、ナヴさんは乗ったことあるんだ? 》」

「《いや、一度だけ、サーラで見たことがあるだけだ。でもありゃ船っていうか城が浮いてるみたいな感じだった。それが何隻もあるんだ》」

「《よ、よかった。1隻にすし詰めになるわけじゃないんだ》」

「《ま、頑張れ。手紙のひとつでもよこしてくれればいいからさ》」

「《手紙……手紙か》」


 コウにとって、初めてのゲレーン以外の場所へ行くことになる。そして初めて、誰かに手紙を書くことにもなった。


「《『前は』ラインだったからな》」

「《なんだそれ? 》」

「《あー、なんていうか、遠い国の手紙って言葉の意味だよ》」

「《おまえって、色々知ってるのにうじうじ悩むんだな。いや、色々知ってるから悩んでんのか? 》」

「《……そんなに悩んでる? 》」

「《割と。もしかして今だってなんか悩んでんじゃねぇの? 》」

「《い、いや、そんなことは》」

「《カマかけでもなんでもないのに口ごもったら、答え言っているようなもんだろうが》」

「《なら、教えて欲しい。嘘をついて相手と気まずい場合ってどうするんだ? 》」

「《は、はぁ!? なんだそれ? そんなの謝る以外ないだろうが!? 》」

「《それができれば苦労してないんだよ……》」

「《なんだ。謝れねぇほどアホな事したのか》」

「《知ってることを、知らないって言った》」

「《……そりゃまた変な嘘のつき方したな》」

「《変? どうして? 》」

「《その嘘でおまえ何が得するんだ? そんな嘘つく方が間抜けにみえる》」

「《こっちにだっていろいろあるのさぁ! もう! 》」

「《こんどは癇癪かよ!? 》」

「《――! 》」


 リクが地団駄を踏むコウをなだめる。双子は何が起こっているのか分からず、ただ事の顛末を見守っている。


「《色々ぐちゃぐちゃでわかりゃしない》」

「《あー、なんだ? 話せねぇのか? 》」

「《何を話せばいいのか分からない。起こったことが色々ありすぎる》」 

「《じゃぁ、時間が経つまで待つしかねぇなぁ。分かるようになるまで》」

「《どれくらい掛かる?》」

「《さぁ。1年か、10年か、はたまた乗り手の代が変わるか》」

「《長すぎる》」

「《わかんねぇことが分かるようになるのに時間が測れたら苦労しねぇよ》」

「《……どうしようもないってことか》」

「《ただ、1つだけ言えるぞ》」

「《なんでしょうか》」

「《そうゆうのはさっさと解決しないと、あとで最悪の時期に最悪の瞬間で後悔することになる。嘘ってのはそうゆう面倒が起こるから、つかない方がいい》」

「《……出来るだけ早く解決します》」

「《そうしろ。リクにだっていい影響にならないだろう》」

「《なんかナブさんと話すといろいろどうでもよくなりますね》」

「《お前が考え過ぎなんだよ。答えの出ねぇ考えばっかしてると思えば、答えがわかりきってるのにやろうとしない。そっちの方が不思議でならねぇ》」

「《……そうですか》」

「《そうだ》」


 今言われたことを、コウは確かに覚える。カリンがジョットの奥さんであるオーリエと共にこの場に来るまで、じっと考え続けた。


「《 (この体で、俺が、カリンに何ができる。なんでもできるはずのこの体でも、人間のように振舞っても、どうやってもベイラーであることが浮き彫りになるだけだ。……一体どうしろって言うんだ) 》」


 そして思い出すのは、あの声。自分の奥底に眠らせた。あの欲求。あの感情。


「《転生なのか、それとも別の何かなのかさえ分からない。でも、確かにこの国で、この世界での役目があるはずなんだ。そうでない筈がない。》」


 浮き彫りになってきた、他のベイラーとは明らかに違う、体の治りの早さ、肩の炎。武器の強さ。


「《 (でも、一体なんだ。何のために、俺はここにいる? なぜここに。あんな声まで聞かせて、どうしてだ) 》」


 悩むなというナヴの言葉は既に遠くに去ってしまい、再び思考の渦にハマる。現代とあまりに違うこの世界で、自分は何をすればいいのか。状況に流されているだけの自分に、コウは、無意識ながら嫌気がさしていた。彼は今、明確な目標がないことに、焦りを感じている。


 カリンのキャラバンへ2人のベイラーと、3人の乗り手が追加で加わった。

ここに、あと1組。ベイラーと乗り手が加わる形を、カリンは望んでいる

 

 コウを含めて合計で5組。 11名のキャラバンが出来上がろうとしていた。それはもうすぐ、コウがこの国にきて、1年が経過しようとしていた頃。


 だが、カリンの旅についてくる最後のひとりは、まだ決まっていない。



次回。キャラバン結成。そして、もうすぐ旅にでます。

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