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☆第2話 症状

 魔法を禁止された日から12日目。


 この12日間、お父さんと体を動かし、お母さんからは料理と女性としての教育を、ジホリさんからは勉強をひたすら教え込まれていた。


 2日目にしてとうとう我慢できなくなった私は、魔法を撃とうと杖を握った瞬間にジホリさんに押さえられた。

 3日目はお父さんとジホリさんに監視されながらも、一生懸命耐えることが出来た。私って偉い。

 4日目には我慢するのも大変になったので「魔法を! 魔法をぉ!」と、懇願したが許されなかった。


 監視の目もある所為せいか、6日目から魔法を撃ちたいという欲求が弱まった。

 3人は症状が治まって良かったと喜んでいたが、実際は魔法をぶち込みたい欲求を、3人が教えてくれるのを必死に学べば抑えられると分かったからだった。


 だけど、10日目を境に、必死に勉強しても欲求が抑えられなくなってきた。


 食事中に、勉強中に、休憩中に、椅子に座っていると足が震えるようになり始める。

 それでも欲求を抑え、爆発しそうになったところを物理的に押さえられた結果、今日を迎えることが出来た。

 ただ、魔法を使いたいという欲求が、目に見えて体にまで影響を及ぼし始めていた。


 13日目。

 まわしい朝が来て、静かな食卓で食事を開始する。

 私は無言で、目を爛々(らんらん)と輝かせながら黙々とスープを口に運んでいた。

 目の下にはクマが出来ていて、私に声を掛ける人は誰も居ない。

 みんながみんな、黙々と食事をしていた。


「ミリア。落ち着いて」

「……え?」


 一拍いっぱく反応が遅れてから、私は返事をした。

 私は落ち着いている、大丈夫。なにもない。なんでオリス兄さんから注意されたのか分からなかった。

 だけど、食べているスープが小刻みに波打っているのが目に映る。

 どうやら私が激しく足を揺らしていたらしい。全然気が付かなかった。


「だいじょうぶ。わたしはだいじょうぶだから」


 ガタガタ震える脚を押さえて、落ち着かせてから私は食事を再開した。

 さぁ、食べよう。と、木製スプーンを取ろうとしたが、今度は手が震えて上手くつかめない。


「あれれ、おかしいなぁ」


 お父さんはそれを見て口を半開きにし、お母さんは「あら、まぁまぁ」と、言っていたが私は気づかなかった。


 オリス兄さんが私がスプーンを持つのを手伝ってくれた。

 その表情は物凄く心配そうだったけど、そんなに心配しないで、私は大丈夫だから。


 スプーンからスープをこぼしながらも一生懸命口に運んだ。

 数日前からなにをするにも、どんな些細ささいなことでも集中しないと何も出来ない。

 少しでも気を抜くと「まほうまほうまほうまほう」と口走るらしい。もっとも、自覚はないから私としては大丈夫だと思ってる。


「うまいまほうまいまほうまいまほう」

「ミリア様」

「え? なに? わたしはへいきよ」

「いえ、美味しいのか、魔法なのか、なにを言いたいのか分からなかったので」

「っっまほう!?」


 魔法と言う言葉を聞いた瞬間、ガタガタと体が震えだした。

 ダメ。これは私でも自覚できる。体が震えてるのが分かる。抑えないと。


「ふー! ふー! ふぅー! っふぅぅー!」


 自分の体を抱きとめてあらぶる心を抑え込む。

 大丈夫。落ち着いて。私ならできる。わたしならできる。


 爪をガリガリかじって耐え忍ぶ。

 あぁ、魔法を撃ちたい、魔法を撃ちたい。まほうをぶちこみたい。


「ミリアちゃん。今日はオリスちゃんと一緒に、お父さんと運動する日だからね」

「……は、はい。お母さん」


 うつろな目をしながら返事をした。

 それから食事を終わらせて、お父さんと兄さんと一緒に庭に出る。


 日替わりの練習で、今日はお父さんと運動をする日。

 3人仲良く並んで準備体操から簡単な運動までこなしていく。

 歯を食いしばり黙々と運動をすると、少しだけ魔法をうちたい欲求が抑えられた。


 だけど、7歳の私と11歳の兄さんとでは体力が違くて、早くも疲れてきた。いつものごとくお父さんが私の状態に気が付くと、途中で休ませてくれる。


「……」


 休んでいる間は体育座りをして青空を眺める。

 流れる雲を見ていると少し心が落ち着く。


――気がしたけど気のせいだった。


 私の体は体育座りをしながら小刻みに震えている。

 横ではお父さんと兄さんが一生懸命剣術の練習をしていた。

 ちらっと横目で見てから視線を空に戻す。


 魔法を空に撃ったらおもしろいかなー?

 そらを見ながら魔法のことを考えていると、いつの間にか木剣で打ち合う音が聞こえなくなっていることに気が付いた。


 私が振り向くと、お父さんが隣に立っている。

 なんだろうと見詰めていると、お父さんが頭をきながら口を開いた。


「オリスにな、ける練習をさせようと思ってるんだが、その相手になってくれるか?」

「よける練習?」


 オリス兄さんが習っている剣術は羽流うりゅうと呼ばれる流派で、羽流の基本は、避け、受け流し、隙あらば攻撃するのが特徴。


 お父さんはオリス兄さんに避ける練習をさせたいみたい。

 だけど、私のへなちょこ剣術じゃ避ける練習にならないと思うんだけどな。


「いや、ほら。オリスの練習にな、ミリアの魔法を避けるれんしゅ――」

「――っやります! やらせて下さいお父さま!?」

「そ、そうか。えっと、練習だからむやみやたらに撃つなよ」

「ッはい! お父さま!」


 キリリと引き締まった顔でお父さんを見上げ、小さな手を上げた。

 にこにこと太陽のように眩しい笑顔を振りまきながら、オリス兄さんの前に手を腰にやって仁王立ちになる。


「兄さん! いきますよ!?」

「ま、待ってミリア。杖はいいの?」

「む? むむ、とりに行く時間ももったいないからこのままやる!」


 興奮する私に、お父さんの待ったがかかってから、オリス兄さんと距離をとる。

 わくわくする! まだかな? まだかな? まだかなぁ!?


 剣を構えるオリス兄さんと、それを凝視する私。

 準備が出来るのを待っていたお父さんが開始の合図をした。


「始め!」


 手を突き出し、もう片手でそれを支える。

 魔法を使う準備の最初は魔力を感じとること。


 私は目を閉じて魔力を感じることに集中した、それが出来れば次は魔力を体中にめぐらせる、廻らせる量を一定に、そして流れるように意識して隅々までに行き渡らせる。

 最後に手に魔力を集中させ、同時に使いたい魔法のイメージを強く想い描きながら、目を開き詠唱えいしょう呪文じゅもんを口にする。


「――水よ。ウォーターボール!」


 手の平の前に小さな水の塊が出現する。

 それが徐々に大きくなって、私の拳ぐらいの大きさにまでなった。

 形が出来た瞬間にウォーターボールが飛んでいく。

 オリス兄さんは魔法をよく見て、体を少し動かすだけで難無くかわした。


 魔法を躱されたことに、私は特になにも思わなかった。

 むしろ魔法を撃った時点で目がイっていた。


 私は小刻みに震える自分の体を抱く。

 久々の魔法の感覚。いや、快感に頬が熱くなるのを感じていた。


「はぁ、はぁ……」


 体から魔力が抜ける快感に、魔法を撃った時の爽快感。

 あぁ、クセになりそう。

 なのでもう一度撃つ。


「水よ。ウォーターボール!」


 再び躱すオリス兄さん。


「っく!」


 だらしなく歪みそうになる口元を引き締めて、もう一度魔法を撃った。


「水よぉ。ウォーターボールゥ!」


 次も躱されたけど、どうでもいい。


「水よ。ウォーターボール!」

「水よぉ。ウォーターボールゥ!」

「水よぉ!。ウォーターボールゥぅ!」


 最後の魔法がオリス兄さんに当たった。


 だいじょうぶ、まだおわりじゃないよ。

 もっとうつの。うへへ。


「みずよぉ!。うぉーたぁーぼーーるぅ!!」


 魔力が体から抜ける度に体が震える。

 そのあとは半分無意識のまま魔法を撃ち続けた。

 必死に避けるオリス兄さんに、必死に私を押さえるお父さん。

 最後に私は白目を剥いて痙攣し始めた時に取り押さえられたけど、心の中は満ち足りていた。


「ふぅ、ふぅ。ま、まんぞく、です……」


 バタ。



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