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廻りの魔法使いの目覚め

続きを書くのに時間がかかってしまいました(汗

いつもお付き合い頂きありがとうございます。

昨夜は確か、送って頂く事に対して頷いただけだったはず。それが埋め合わせと称して、街にライアン様と二人で空き時間を過ごすことになった。

私は、隣で私の歩調合せてあるくライアン様を横目に、夜とは違うお昼の賑わいのある商店街を歩いている。夜の人通りがなかった時には広く感じた道は、今ではしっかり前を見ていなければ、人にぶつかってしまいそうなほど狭い。田舎の街だと聞いていたのだが、領主の手腕の良さがこの街を大きくしたのだろう。歩く道もしっかり整えられ、街の中にあった噴水を見ても、水への対策も万全らしい。

驚異的な魔物が多く出現するこの街は、傭兵などの外からくる人間によって成り立っていた。一見、恐ろしい場所に街を構えている様に見えるが、魔物の部位は高く取引されるものが多い。そうやって、この街の経済はやり繰りされているのだろう。

わざわざ危険を冒してまで魔物の部位の買い付けに来ている人や、腕自慢の傭兵などが武器や防具を選んでいるのを横目に通り過ぎれば、街の人が普段の生活に使う為の店が並んでいる場所にまで出ていた。

どこかに向かわれているらしいが、どこかは教えてもらえない。なので、私はただライアン様について行っている状態なのである。

手は何故か、ライアン様と繋がれており振り払う勇気もない。指の間、間にライアン様の指が絡められ、さりげなく外そうにも手の力を緩めれば緩めるほど、ライアン様の手に力が籠められる。決して痛い訳ではないが、逃がさないと言う意思が手にから伝わるようだ。正直、はっきりと逃げません!っとは言えないので、ライアン様の行動は正しいのかもしれない。

そのうえ、どこにいてもライアン様はとても目立つ。誰もがその容姿に見惚れ、勇者様だと分かると道を開け女性からは黄色い声援、男性からは尊敬の眼差しを貰う。ライアン様は私との手を離すことなく、堂々とした姿で歩いている。手を繋がれている私は、周りからどのように見られているんだろう?考えたくはないが、心配になる。後ろめたいことの無いはずの私は、堂々と…出来る訳がなかった。


「あの…手を離して頂けませんか?」


「手を強く握りしめすぎただろうか?」


「いえ、そういう訳ではありませんが…」


「ならば、このままで…。セリシアを連れて行きたいと思った所がある」


何度か繰り返された会話は、目的地に着くまでは終わらなかった。結果、手は繋がれたままである。ライアン様に連れていかれた場所は、美味しそうな菓子を売っている店だった。


「待っていてくれ」


私を店の横にあるベンチに座らせると、ライアン様は店に何かを買いにいく。女性客が多い中、ライアン様は非常に良く目立つ。買いなれているのか、店のご主人と楽しそうに会話をしているその様子を、少し離れた所で見ていれば、ライアン様と話していたお店のご主人が私をチラリと確認して、ライアン様に何か話された。ライアン様は赤くなって何か返事をしてから、手にお菓子を両手にもってこちらへと戻ってくる。


「溶けてしまう前に、食べるといい…甘い物が好きだと、アンネに聞いている」


「…いただきます」


いつの間にアンネさんに聞いたんだろう?アンネさんとはいつも一緒に行動していたし、ライアン様もお忙しいはず…。私の知らない所で、私の話をされるのはあまり気分がいいものではない。渡されたのは、冷たい氷菓子だった。一口入れたらあっという間に、甘い味を残したまま溶けてしまう。


「すごく美味しい…」


「そうだろう?この街で初めて食べた時は、おかわりまでしてしまった」


屈託のないライアン様の笑顔で私を見ている。私は素直に笑顔で答え氷菓子を黙々と食べた。食べている時は楽な時間だった。ライアン様と必要以上の会話をする必要がない。

しかも連れて行きたいと言っていた所が、意外にも普通に嬉しい場所で拍子抜けしてしまった。どんな高級な場所に連れていかれるのかと、ヒヤヒヤしていたのだ。溶ける前にと急いで食べた事で、氷菓子はすぐになくなりこれで埋め合わせは終わったとばかりに、私は座っていた椅子から立ち上がり、お礼を言って帰ろうとすればライアン様から腕を捕まれそれを阻まれる。


「少し…話をしないか?」


話す義理もないが、断る理由もない。仕方なしに、座りなおせば「ありがとう」とホッとしたライアン様の声が聞こえた。私なんか相手に何故か緊張しているように思える。


「先ほどの亭主に、セリシアが恋人かと間違われてしまった。…勿論!否定はした…が、そう見えるとは…照れるものだな」


この話にどう答えるのが正解なのだろう?私は困って返事を「はぁ」と生半可に返してしまう。ここは、はっきりと言うべきだろうか…。からかわれているだけですよとか、恋人に見られるのは迷惑ですとか。まぁ、私にそんな事言う勇気などないが…。そんな事を口にしようものなら、ライアン様にではなくその他の女性にひんしゅくを買うだろう。


「その…セリシアには、想う者がいるのか?」


何を言い出すのかと驚いたが、ライアン様も今更ながら女性を連れ出すと言う意味を考えたのだろう。私を連れ出す前に気が付いて貰いたかったことだけど…。


「…そうですね。いない…事はありません」


私は、ネオ・ロンリース様に聞かれた時にずっと考えていた。想うというのは、恋心だけじゃない…きっと私の心を離さず捉えているもの。

私が想う者…きっとそれは、復讐したい魔物の存在。それはもう…恋い焦がれるようにあの日が忘れられない。年を重ねるごとに、薄れるどころか募っていく思いはもはや、執着にも似た想いでもある。この想いを叶える事が出来るのなら、どんなに心が満たされるのか想像もつかない。ライアン様は、動揺した様子で「それは…っ」と視線を彷徨わせた。


「グァドに何か貰っていたようだが…」


「グァド様ですか?」


「あぁ…その…変な勘違いはしてはいけない。アイツはただ実力があるものに興味があるだけなんだ」


「別に、勘違いなどは…」


勘違いしてしまいたいぐらいではあったが、相手がグァド様だと思えば恐れ多くてとてもじゃないけど無理だった。男性からのプレゼントを頂くのは父や兄以外では初めてで、少し心が躍ってしまったのは否定はしない。むしろ、それ位は許してほしい。


「セリシアは、男に慣れていないようで心配なんだ。エフェクトも女性には皆に優しくて…」


今までライアン様との接触を極力関わらない事で、周りに気を使わせてしまったのだと反省した私はライアン様との関係を少しでもそれなりのものにしようと埋め合わせに付き合ってみた…が、ここまで言われるほど関係を深めたつもりはない。むしろ本来なら、無関係のはずだ。側室だったけど、旦那様はその存在を知りませんでした…なんて、失礼にもほどがある事だろう。私がライアン様に何も言わないのは、言う必要を感じていないから。言う必要を感じていなくても、ライアン様との関係が一から築き上げられるかと問われたら、否と答える。


「今は魔王討伐の事しか考えられられませんし、考えるつもりもありません。そのようなご心配でしたら、必要はありません」


「…そういうつもりでは無かった。その…気を悪くさせて申し訳ない」


しゅんと項垂れるライアン様は、いつもの威厳もなく可愛らしく見えてしまう。何だか卑怯な人だな…そんな顔をされたら、これ以上は責める気が起きなかった。が、ここで簡単に許しては又何かあれば、これからも私に関わってくるだろう。私とライアン様は二人でどこかに出かけるほどの関係ではないという事は、分かってもらいたい。


「…いえ、埋め合わせありがとうございました。もう私の事は気を使う必要はありませんので」


完全な拒絶をすれば、ライアン様の表情が衝撃を受けたように固まる。


「いや…セリシア。これは…」


「今後とも、程度な距離で宜しくお願いします。失礼します」


追いかけてくるなと言う意味を込め告げて、その場から動かないライアン様を確認しつつ私は歩き出す。ライアン様の姿が見えない所まで来てやっと私は、深い息を吐いた。やっぱりライアン様の傍は鬼門だ。側室だった頃より、今傍に居る方が惨めな気分になる。


側室に上がった時、少しでもお役に立ちたいと、意気込んで入った私は入って早々、建前のお飾りの存在だと陰口を叩かれた。「若いのに可哀想に」「伯爵家なんて相手にされる訳ないのに」「使用人として上がったのかしら?」私の立場は伯爵家の中でも身分は最下位で、年齢も身分も側室の中で一番下だった事で、うっぷんを晴らすのにいい存在でもあったようだ。

自分の魔力を見て貰えればお役に立てるはずだと、ライアン様への謁見を申し込んだりもしてみた。殆どが私の我儘だと処理されていたと聞いた時には、部屋で悔しくて泣いた。魔法が習いたくても、話を聞いてくれるはずのメイド長にも鼻で笑われた。メイド長含めそこで働いているものが、私よりも身分が高い事もあって、私はただの愚か者扱いになった。

それでも私には、心強い味方もいた。メイドのリンちゃんを筆頭に貴族とは関係のない使用人の人達が、私の為に書庫室での使用許可を取ってくれた。側室の中にも年下の私を気遣って下さる方が、庇ってくださった。私は誰かに頼る事ばかりだったと、反省しライアン様への過度な期待に気づき、今出来る事を懸命に励んだ。二年間…色々な人に助けられて、私はこの場に立っている。

ライアン様は忙しくて知らなかった…それは分かっている。ライアン様は、私の復讐には関係ない…それも分かっている。あの時、気が付いて下されば、きっと私の為に色々と手配してくださっただろう…でもそれは、ライアン様に我儘を言ってしまうだけで、ライアン様への役に立っている訳ではない事も、ちゃんと今では理解できる。


「ただの八つ当たりだって分かっているけど…」


ライアン様が私を忘れているなら、私も忘れようと決めた。初めから何の関係もなかったのだから、特に何かする訳もなくライアン様との関係はこのまま何事もないまま終わるのだと思っていた。

なのに何故だかライアン様から、話しかけられるようになった。それはまるで、私が特別だと思わせるような態度で接してくる。ただ仲間として気を使って頂いているのだ…それだけだと何度も言い聞かせては見ても、どこかで期待してしまっている自分がいる。…そう期待してしまいそうなのだ…。もうライアン様に期待などしたくない。ライアン様は、私にとって雲の上の存在なのだ。そうでなくてはならない。そうでなくては、側室だったはずの私があまりにも…。


闇雲に歩いた先は、街の端でもある魔物からの襲撃を防ぐための壁が見える所だった。この街についた時に配置された魔物討伐の部隊が所々配置されているのが確認できる。子供たちが無邪気に遊ぶこの場所はこの街の人の居住区なのだと分かり引き返そうと、周りを見渡せば噴水の近くにあった協会の建物が遠くに見えた。

あれを目印に歩けけば、どこか分かる道に出るだろうと歩き出せば、急に空気が変わるのを感じる。


先ほどまで雲一つない空だったはずなのに、辺りがどんより暗くなってきる。空を見上げれば、やはり雲一つもない。光を失ったかのように、暗くなっている。

肌寒くなり気温の変化のせいか、ゾッと悪寒が走る。嫌な空気に私は動けないでいると、突然の大きな爆発音と共に起こった衝撃を、背中に受けた。軽く吹き飛ばされたが、背中からだった事もあり、地面を量の手で支えるように倒れる事が出来大きな怪我はない。体の異常があるとすれば、爆音で耳が周りの音をきちんと把握できないぐらいだろうか?

何が起こったのか確認しようと、爆音と衝撃がきた方向を見れば、大きな砂埃と煙の中に大きな影があるのが分かる。人の形をしているが、普通の人の倍はあろう大きさにそれが人ではない事は一目瞭然だった。


何故、こんな所まで魔物が…!この街にはきちんと結界が張ってあったはずだ。その結界が破られた場合であれ、避難の為の警報が響いてくるはず。

それなのに警報は疎か、結界が破られた気配さえもない。訳が分からない状態のまま、私は思考を巡らせる。


目の前には先ほど遊んでいた子供達が体を赤く染め、うつ伏せのままピクリともしない。何とか体を這わせ、一人の子供に近寄り触れてみれば、息はまだあるようだと安心する。けれど、このままでは…最悪な状況だった。子供に覆いかぶさるような体制で魔物を見る。

異臭を放ち黒いモヤのような影に覆われた魔物は、ゆっくりと私の方へ振り向いた。鼻が痛くなる強い匂いに距離を取りたくても、先ほどの衝撃と恐怖で体が動かない。


「女ヨ。聖女ハドコダ」


その魔物は人と同じように言葉を発した。声というには歪で、音と言うほど無機質でもない。今まで戦って魔物とは全く異なる存在。意志を持った魔物だ。意志をもって人間を弄び滅ぼそうとしている魔物。


「オ前ガ、聖女ノ近クニイツモイル事ハ、ワカッテイル」


聖女…ネオ・ロンリース様の居場所をまだつかめていない?しかも、私を知っている?私が、ネオ・ロンリース様の傍に居る事を、確認している?それで、私のほうに姿を現したのだという事だろうか?恐怖で止まっていた思考が、魔物からの言葉によってもった疑問にて、落ち着いてくる。

はぁはぁと息を整え、声が出るか分からない状態で私は、魔物へと返事をした。


「…知りません」


目の前の魔物への、何とか絞り出した答え。知っていても教えるつもりはない。かと言って、嘘をつけるほどの余裕もない。

このまま見逃してもらえる…そんな期待は皆無だろう。今にもこの場一帯を一瞬で破壊できそうな魔力が、魔物から発せられている。


街の人は避難してくれているだろうか…?時間を稼げば誰か助けはくるだろうか?私には回復系の魔法は使えない。私の腕の中にいる小さな命は、大丈夫なのだろうか?逃げる事も出来ない、絶体絶命な状態に息を吸うのさえも苦しい。


「聖女ノ居場所ヲイエバ、見逃シテヤロウ」


「何故、聖女様を探しているのでしょうか?!」


話が通じるとは思えないが、どうにかして時間を稼ぐしかない。私は、目の前の二メートルはある人型の魔物に向かって叫ぶ様に聞く。魔物の目線を必死で耐え見つめ続ける。そもそも、あの赤い眼光は目なのだろうか?頭という部分はあるのだがゆらゆらと漂うような魔物の姿に、どこを見ていれば正解なのか答えられない。


「我々ニ、害ヲ成ス女。女ヲ殺ス事デ、我々ノ勝利」


律儀にも、私の質問に魔物は答える。

…何を言っている?害を成すと言うのは、魔物にとって困る存在だという事だろうか?それならば、勇者であるライアン様のほうが、害なのでは?すくなくとも、害とは彼らの弱点だというのは分かった。


「何故、聖女が害を成すと…?」


「コノ世ノ理。廻ル理ヲ、消ス」


本当に律儀だ…私が時間を稼いでることぐらい分かっているだろうに。…むしろ、待っているのかも知れない。


私は最後かも知れない貴重な時間で、今話した内容を噛み砕いていく。

廻る理…?その単語に引っかかりを覚える。だが、そんな事を考える余裕など、魔物は与えてくれそうにない。今にも手を上げ、魔法を打つ構えに私は、その魔法を返そうと瞬間的に魔法をぶつけてみた。放たれる事が分かっていたのにも関わらず、ギリギリで食い止めた魔法は、セリシアの目の前で弾ける。弾けるというは又違う気がする。弾ける音はしたのだが、魔法と魔法は元々なかったかのように消失していた。

魔法を返す…つもりだったのだが、普通に魔法での衝撃を和らげただけだった。駄目だ…使い方も分からない上に、格上の魔物との対峙で余裕などない。手の中の命は今にもこと切れそうだというのに…。


「オ前ハ、邪魔ニナル存在ノヨウダ。早メニ、消シテヤロウ」


もう一撃に耐えられるのだろうか?先ほどとは段違いな魔力が魔物の手に集められている。魔法が効かない魔物…これは、グァド様に頂いたナイフを使うべき所なのだろうか?胸元にあるナイフを握る。走って魔物へと向かっていっても、このナイフでは傷付けるどころかたどり着くのも難しいだろう。思考を止めたら負けだと、次の魔法への対処の為にナイフを握る掌に魔力を集める。


魔物から大きな魔力が放たれる。普段、私達の使っている魔法とは異なる力を魔物は操っていた。その独特な魔法のせいで、対処法というものが未だに解明されていないのが現状だ。見えない魔法攻撃に縋りつくように、魔法で応戦する。子供の顔色が真っ青になり、ぐったりとしていた体が、生気を抜かれたるのが分かる。助からない命だと分かっていても、諦めたくなかった。


咄嗟に考えた一つの思い。この子供の傷が魔法で 廻って(かえ)しまえばいいのに。


…そう思った瞬間だった。


何かを裂く音と共に、目の前の魔物の胸に裂かれたような傷が浮かぶ。

その裂く音は、ズシャッだろうか?ザザザッだろうか?吹き出した血のような黒い液が飛び散り、魔物は何が起きたのか分からないという表情でその場に膝をついた。魔物の歪んだ表情で、自分の受けた傷から出る血のような液体を手で確認している。


…私が、考えたから?傷を廻りの返す…?


私の腕の中にいた子供の傷はふさがり、先ほどまでの顔色の悪さは少しだけ無くなっていた。それでも、回復魔法とは違い怪我が塞がっただけの状態だと分かる。


私が傷を魔物にお返ししたという事だろうか?そんな事が可能なのだろうか?けれど、現に子供あった傷は消え、目の前の魔物は少なくとも、何かしらの効力はあったようだ。

微動だにしなかった体は、震えてはいるが力が入るようになった。腕に力を入れゆっくりと立ち上がる。とにかく確信を得る為、腕の中にいた子供を端に座れるように置き、少し離れて倒れている他の子供に近寄り廻りの魔法を試みるが、何も発動しない。

私は、あの時どうやって発動させたのか同じ行動を振り返る事にした。魔力をどの手でどんな角度で、何を握っていたか…。あの時握りしめていたナイフをもう一度手にし、再度魔力を掌に込める。そして放たれた魔法は、魔物へと傷が移されるように裂ける音とともに浮かんだ。それも、子供にあった傷の位置と同じ場所に…だ。廻りの魔法の力を使えたのだと、私は少しの間呆然としてしまう。


ガタッ…


「グァァァァグェ………」


魔物からのうめき声に、まだ終わっていない事知り、辺りにいるこの魔物の魔法に犠牲になった人達を探す。見える範囲だけでも3~4人はいるのが分かり私は一番近くにいた人から手あたり次第、同じ動作を心掛け廻りの魔法をかけ続けた。

ナイフを握り、ナイフを持つ方の掌に魔力を集めて飛ばす。どこまでの範囲での効果か分からない上に、時間も余裕もない私は、出来るだけ倒れている人々の近くに駆け寄り魔法を使う。

魔物の様子を見ている余裕などなかった。魔物を倒す事より、被害にあった人達が助ける事に集中していた。魔物の位置からぐるりと円を描くように元の位置に戻った頃には、周りにはもう魔法での被害にあった人達は立ち上がる事はなくとも、傷は無くなり顔色もよさそうだ。

私はようやく息を吐き、魔物の様子を見れば、その姿は私の先程の記憶のモノとは全く違うモノになっていた。人の姿に近かった魔物は、今では砂の山を作ったような黒い物体。何が起こっているのか分からなかった。兄の敵でもある魔物も人の形と言葉を発していた。人の形の魔物は個体数も少なく倒された事例も聞いた事がない。何かしようにも、もう私の魔力は底を突きかけていた。

時頼、魔物が纏っている黒が、何かを思い出したかのように動き出す。こちらへの攻撃がとも思ったのだが、待てども何も起こらない。


「大丈夫か!!」


エフェクト・バーン様の姿と声が聞こえ、私は強張っていた体が解かれた。これで何かしらの指示が貰えるだろう…。


「エフェクト・バーン様!!」


「セリシア!怪我はないか!?」


続くライアン様の声が私の後ろから聞こえてきた。振りむくと同時に後ろから抱きしめられる。先ほど解かれたはずの体が、また強張る…。どうしていいのか分からず「怪我はありません」と呟けば「よかった…」と耳元で囁かれた。


「震えている…一人にして、すまなかった…すぐに終わらせる」


震えている…?気づけば、ガチガチと私の歯が鳴っていた。気を張っていた分、今さら恐怖を感じ始めたらしい。


「ライアン!!先に、こいつに止めを刺せ!」


「言われずとも…!!」


ライアン様は、いつも腰に装備されている剣を抜き構えると、すぐには魔物への攻撃はなく立ち止まって集中するように目を閉じている。魔力に似た力がライアン様の剣に集まったかと思えば、ライアン様は即座に魔物へ斬りかかった。斬りかかれた魔物から光の筋が刻まれ、浸食される様に光に包まれ消える。その瞬間…安心しきった私は意識を手放した。







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