1-61:一難去って?
ドラゴンという生物は、その存在の大部分をマナに依存している。
そもそも、あの巨体が飛ぶためにはマナによる強化および魔法が必要となる。又、其れのみならずただ歩くという動作にしてもあの2本脚で歩く事など不可能である。そして、その巨体を維持するための食事量は通常で考えれば相当な量になるはずであるが、ドラゴンの食事量はそれほど多くは無い。
これは、その体を維持するために必要な物の大半がマナである為であった。これは身体強化などの外的補助だけではなく、その細胞レベルにおいてもマナが作用し必要とされてた。
そして今までマナが不足していたドラゴンは、その不足したものを得る事によって本来の姿を取り戻そうとしていた。細胞一つ一つに補充されていくマナ、その効果によって細胞は本来の状態へと戻り始め、膨らみ始めたのだった。
ギギギギギギギギギギ
「むむむ?」
ドラゴンの蹴りにも、ブレスの攻撃にも耐えたゴーレムから何かが軋むような音が聞こえ始めた。
自身から響く音、それ以外にも何かを感じるのかゴーレムが思わず声をあげる。
これは門がもつ概念の問題であったかもしれない。
表側と裏側、前と後ろ、ゴーレムを作り上げた者達は二つの異なる空間を隔てる事によって管理する為にこのゴーレムを作り上げていた。そして、この概念が魔法と言うものにおいて創りあげる際に大きく作用していた。この為、物理攻撃にも魔法による攻撃にも非常に強固に作られていた。そう、表面においての外装という部分に高度な魔法を付加する形において。
そして今現在、その概念に無い物理的であり魔法的でもある強い力がゴーレムに掛かり始めていた。
「むむむむむ、いやはや、これは拙いの、ちと困った事になっておるな」
とても困っている様子の無い声でゴーレムは呟く。しかし、実は現在の状況にとても困っていた。
ギャオ~~~~ン
ドラゴンの悲痛な叫び声がドワーフ領に響き渡る。しかしキュアリーのいる所には微かにしか聞こえてこない。しかし、その声色からは容易に悲痛さが感じられる。
ガルルルル
ドラゴン達から放たれる気配に凄味が加味されていく。明らかに敵意がバシバシとゴーレムへと注がれ、其れのみならずドラゴンの中でも明らかに力が強そうな者がドカドカと門を蹴飛ばし始める。
しかし、その攻撃が効果を表しているようには感じられない。
ただ、この事がキュアリーには幸いした。
先程まで雌ドラゴン達の意識は明らかにキュアリーの躾へと向いていた。その意識が今、仲間の救出へと向けられたのだ。その為、キュアリーは今、雌ドラゴン達の包囲から解放されて隅っこで転がっていた。
(た、助かったよ!生きてるよ私!)
そんなキュアリーはドラゴンの姿のままドベッと地面に仰向けに転がり、先程までのコロコロ地獄から解放された解放感に涙していた。若い?娘の恥じらいの欠片も無い恰好であるが、まぁその姿はドラゴンなので良しとしよう。ただ仰向けに寝るには尻尾が意外と邪魔そうである。
そんな中、キュアリーの体が急に光を放った。そして地面に引っ繰り返った姿のまま元の姿を取り戻した。
「あ、危なかった!あと少ししか時間残って無かった!」
予想以上に解除までの時間が短かった事に冷や汗を流しながら、でも良く考えたら元の装備に戻れるが故にそんなに心配しなくても良かったのでは?という事に思い当たって更に脱力した。
「この装備だったらドラゴンとはいえ甘噛み程度だったらダメージなんてうけなかった」
更には元の姿に戻れば本来のスキルだって使えたのだ。
もしかするとルルはその事に気が付いていたのか、先程までの態度とは一変し、寝転がるキュアリーの傍へと歩み寄って顔をペロペロと舐めはじめるのだった。
そんなある意味ほのぼのとした光景とは裏腹に、ドラゴンとゴーレムというか門との戦いは音だけは壮絶な雰囲気を作り出している。しかし、此方側にいるドラゴン達の攻撃は一向にダメージを与えている様子は無く、首を突っ込んだ女王様ドラゴンは苦しみで胴体を暴れさせ、ゴーレムは先程からピキピキという嫌な音を響かせている。
ルルをモフモフしながら心を落ち着かせたキュアリーは、漸く今起きている事へと目を向ける余裕が出来たのだった。
「おおお、カオスだ・・・・・・でもこれってちょっと不味い?」
何よりもゴーレムが響かせている音が良くない。
そして女王様ドラゴンに起きている事に思い当たったキュアリーは、ともかく此のままでは拙いという事には理解が及んでいた。
「え~~~っと、頭を切り落とせばいいのかな?」
とりあえず討伐してしまえばマナの吸収も止るだろう。頭でつっかえているのだろうが、切り落とした後であれば削ればよい。ただ、先程までの女王様ドラゴンの様子からしてそう悪いドラゴンに思えない所が躊躇われる要因であった。
ガシガシ、ゲシゲシ、ギュオ~~ン!ピシピシ
様々な音が響き渡る中、キュアリーは女王様ドラゴンの傍までくるが、苦しみの為か先程から尻尾が暴れ回っており、数頭のドラゴンが巻き込まれては吹っ飛ばされている。
「このまま放置してもあっちへ行けなくなるし、きゅまぁの事も心配だしなぁ」
途方に暮れるキュアリーに対し、門ゴーレムからのんびりした雰囲気で声が掛かる。
「む~~ん、此のままでは我がもたないのだが、何とかして貰えんだろうかの」
とても切羽詰っている様子は無いが、先程からピシピシという音が増えてきている様に思われる。
「ここが壊れると界が断絶するかどうか解らんのだ。あちらと行き来できなくなるやもしれんぞ?」
門ゴーレムからもたらされる情報は、あまり有難い物では無い。
その情報が正しいのかは判断がつかないが、危険を犯すリスクは結構高そうである。
「でもね~、殺しちゃうのも何だし、そうすると姿を変えるのが一番手っ取りやいんだろうけど、これって食べないと効果が出ないと思う」
キュアリーは手の平に幾つかの変身系アイテムを取り出す。しかしどれもキャンディーなどの食べ物系でしめられていた。
ドシンドシンと暴れる尻尾を見て、先程からある意味ヒントを得てはいる。なぜかこういう時に限って前の世界で得た漫画の知識まで復活している。
「う~~~、まぁあれは牛だったけど、というか私は農学部じゃなかったよね?」
記憶の欠如というか忘却が有る為に今ひとつ自信は無いのだが、とにかくやってみるしかないかと溜息を吐く。
ドシンドシンと暴れる尻尾、うん、これが結構邪魔なんだけど、ただ尻尾が生えている根元部分は身動きがし辛い為かそれ程の動きは無いのです。で、それよりも問題となるのは目標の位置なんですよね。
「思いの外目標の位置が高いですね」
どうしたもんかと考えるのですが、とりあえず高さをどうにかすれば良いのだと開き直ることに。
「う、振動が・・・・・・」
近づけば近づくだけ振動が大きくなります。
足元に何かを積み上げて対応するのは難しそうですね。
ゴソゴソと幾つかのアイテムを取り出した後、キュアリーは女王様ドラゴンへと近づいていく。
「おお、結構揺れる。こてはちょっと怖い」
高さ4メートルくらいでフラフラしながら近づいていくキュアリー、そして手の中には包装を剥かれた変身キャンディー。
「あとちょっと前、あ、少し左」
キュアリーの昇っている梯子を、振動で揺れる地面の上で3頭のクマのヌイグルミが肉球のある前足で、しかも2足歩行で支えながら指示に従い位置を変える。
しかし、そもそもしっかりとした手の形状を持たないヌイグルミ、ましてや2足歩行を想定しているような、して無いようなプックリした足。これで安定しろと言う方が無茶な気はする。
「ちょっと・・・・・・失敗したかもって、あ、ちょ、ちょっと!」
目標を目前にしてキュアリーが昇っている梯子は、前に押し出そうとした時に足の部分が地面に引っかかった。そして当たり前に梯子は地面を支えにして前に倒れて行った。
ヌボッ!ウニュ・・・・・・、ピキーーーン!
「むぎゃ!」
キャンディーを握りしめたキュアリーの手が、勢い付けて目標に突き刺ささった。
当初はゆっくりと差し込む予定だったものが、偶然か、必然か、梯子の傾く勢いのままに加速がついた結果だった。
「ううう、予想以上にウニュっとして気持ち悪い」
キュアリーが慌てて握りしめたキャンディーから手を放し、腕まで埋まった手を引きぬく。
幸いなことに先程まで暴れていた尻尾は、いまはピキーンと伸びたまま硬直し動きが無い。この為、腕を抜いたキュアリーは、梯子から飛び降りる様にして女王様ドラゴンから離れるのだった。
「うわぁ、あとで腕を綺麗に洗浄しないと、なんか臭うよ」
地面に降り立ったキュアリーは、クリーンの魔法で慌てて腕を洗浄する。次に水を出して腕を洗う。更にまたクリーンを使うが、先程までの感触が残っており綺麗になった気がしない。その為、女王様ドラゴンの変化を思いっきり見落としていたのだった。
カプッ!
腕を洗う事にばかり意識が言っていたキュアリーは、何かが足に噛みついた気がして足元に視線を向けた。
すると、そこには小さなレッサーパンダが毛を逆立てて必死にキュアリーの足に噛り付いているのが見えた。
フンフン!フンフン!
鼻息荒くガジガジとキュアリーの足に噛り付くレッサーパンダ。
「意外に噛まれても痛くないなぁ。でもこれって・・・・・・・」
視線を女王様ドラゴンが挟まっていた門の方へと向ける。するとそこにはポッカリと門が開いており、先程まであった女王様ドラゴンの姿は影も形も無い。
「えっと、う~~~んと、一応あなたを助けてあげたんだけど、すっごいお怒りです・・・・・・か?」
キュアリーの言葉が解っているのか、解っていないのか、ともかくレッサーパンダは一心不乱にキュアリーの足に噛り付いている。そして、先程まで門をガシガシと攻撃していたドラゴン達が、ゆっくりとキュアリーの周囲を囲み始めている。
「・・・・・・一難去ってまた一難?むぅ、理不尽な」
この怒りを誰に向けたら良いのか、周りを見回しながらそんな事をキュアリーは考えていたのだった。
お待たせいたしました。
書く時間を作ると言うか、どちらかというと気が付いたら時間が過ぎてて一日が終わる?
あ、書けてない!みたいな(ぁ
申し訳ありません m(_ _)m
新しく書きたい発想が出てて、それ考えてて、でも他終わってないし、みたいな・・・・・・
とにかく書けるとこから書いていきます!




