1-45:戦闘後の諸問題
オーク騒動以降は特に問題なく、一通りの種族は結界の中へと入る。その様子を確認しながら、キュアリーは回復して間もないサラサとコラルに対し話しかける。
「どう?少しは調子が戻ってきた?」
「はい、すみません取り乱してしまって」
サラサは気絶してからの回復時におきた混乱に対し謝罪をする。その表情には漸く赤みが差し、回復してきている事を伺わせた。
「死んだと思っておりました。助けて戴き、ありがとうございます」
コラルにおいては失った血の量も関係するのか、明らかにまだ不調を引き摺っている様に見える。しかし、そんな二人に対してキュアリーはエルフの村に対しての伝令を頼んだ。
「サラサ、コラル、二人に伝令を頼みたいの。まだ本調子では無いと思うけど、このまま進んで誤って争いになると困るから」
「そうですね、怪我人や、それこそ死人が出れば大変な事になります」
「怪我は治っているのです、これくらいの体調であればまったく問題ありません」
サラサとコラルはキュアリーが言いたい意味を正確に把握した。そして、コラルを伴い、細い間道をエルフの森へと走って行った。その際に気配を殺し、また本来の道とわざと外れた道を選ぶところは流石と言えよう。
そして、改めてこの雑多な集団へと目を向けると、結界の中へと入った草食動物達がこぞって周囲に生えている草を食みだしていた。
「まぁ痩せ具合から言ってこの子達も食事に事欠いていたんだと思うけど、これはこれでヤバいかも?」
カジカジカジカジ・・・・
そこら中で草食動物達の大宴会が広げられている。
この勢いで草や樹皮、果実などを食べられると、森自体がどれ程のダメージを受けるのか想像がつかない。
ただ、手近にいる兎がフンフン鼻を鳴らしながらも必死で草を食べている所作を見ると、それをどうこうする事は心情的に厳しかった。
「森全体に散ればそれ程問題にならない・・・とかならいいなぁ」
そんな事を楽観的に考えながら視線を横にずらすと、その兎をじっと熱い視線で見つめているネコ科の大型動物が視界に入ってきた。思いっきり涎をダラダラと流しているが、今まで一緒に行動していたからなのか、それとも食事に夢中になっているからなのか、兎はその視線に気が付いていない。
「うん、何か大丈夫な気がしてきたわ」
マナが比較的豊富なこの場所に来て、漸く本来の本能がというか、食欲が復活してきたのだろう生き物達を見て、ある意味逞しいなぁと思う。しかし、今はとにかくこの集団を誰かに引き継がなければ自分が解放されないのだ。その為、とにかく纏まってエルフの村へと行く事が必要であった。
多種族の集団へと視線を向けると、そこでは各種族ごとに集団を作っていた。この事より、彼らが種族を問わず一緒に生活してきた訳では無い事を物語っている。しかし、その中でも各種族それぞれ数人ずつが集団を作っている場所があった。
キュアリーはその者達へと近づいて、声を掛ける。
「この集団の代表者は前に来ていて欲しいわ、お願いできる?」
明らかに集団の代表と思われる者達が、言葉を発する事無く視線で会話をしていた。そして、先程の戦闘においても前に出て来ていた一見すると人族と思われる者が前に出てくる。
「わかった、ああ、おれはこの集団を率いてる者の・・・あ~~、そのなんだ雑用係のゼストという。良く考えれば名乗りをしていなかった。宜しく頼む」
「私はキュアリー、そうね、この森の奥にある塔の持ち主よ」
そう言って頭を下げる男に対し、キュアリーは端的に自分の立場を説明する。
「一応説明をしておくんだが、俺は何かを決める立場には無い。予め我々で決めていた事だが、こちらの上層部にもエルフはいる。その者が一応この森のエルフとの交渉はその者が行う予定なので連れてくる」
そう言って集団の中へと戻っていく男を見ながら、キュアリーはこの集団が進む為に必要な隊列をルーンウルフだけに指示をし組ませる。
「ルル、この集団から無意味に逸れる者がいたら教えて。併せて危険だと思えば攻撃される前であっても戦闘しても構わないわ。場合によっては殺してもいいよ」
「ヴォン!」
キュアリーの言葉に、ルルは大きく鳴き声を上げ、その周囲にいる集団も次々と鳴き声を上げる。
その声に若干魔物や動物達が怯えた様子をみせるが、何かしらの行動を行う前にルーンウルフ達が群れを囲むような配置をした為、集団から抜けていくようなことは無かった。
そんな中、集団から先程のゼストという男が、エルフで構成されている数名の者達を此方へと案内してきた。
「キュアリー様、今回の交渉役を承っていますユーリと申します。以後お見知りおきくださいませ」
優雅に頭を下げる一人のエルフ、その姿を見ながらもキュアリーはこれまたエルフっぽい者が出て来たなと聞く者が聞けば意味の分からない事を思っていた。
「私はキュアリーよ、この森のエルフ達が森の奥へと進めば出てくると思うから、その後の事は自由にやって、私は関与しないから」
「あの、関与されないのですか?」
「ええ、別に私はこの森のエルフ達の指導者という訳では無いから。そうね、例えるなら何になるのかしら?・・・・・地主でもないし、隣人でもないわね」
突然考え込むキュアリーを、ユーリを含めた面々が困惑の表情を浮かべて見ていた。
彼等は当然のように実体が有る無いに関わらず、キュアリーがこの森の指導者的立場にいると考えていた。
しかし、この様子を見る限りその予想は大きく外れていた事に気が付いた。
「失礼ですが、それではこの森に住むエルフの代表者は何方なのでしょう?」
「そうね、評議会だっけかな?そう言った集団での管理をしているが正解かな?実際の権力がどうなっているのかなんかは私も知らないわね、そもそも興味ないしね。そこら辺は出てきたエルフに聞いて」
そういうと、キュアリーはルルを促して森の中へと進みだした。
ユーリ達はそれを見て、慌ててその後ろ姿を追いかけるのだった。
キュアリー達がそんな遣り取りをしている中、サラサ達は先行して森に入ったアリア達に追いつこうと進む速度を可能な限り早めていた。しかし、中々その後ろ姿を捉える事が出来ていない。
「まだ見えてこないわ、コラルはどう?皆の気配を感じる?」
今回森に入った者達に対し、村の位置を誤魔化すためもあって若干大回りをする感じで森を進んでいる。
この為、時通常より間を掛けてしまっているが、これは今後の安全に関わってくる為に仕方が無い事と思い定めている。そうであってもそろそろ馬車を補足しても可笑しくない距離に来ているはずだった。
「おかしいな、馬車の音なら聞こえてきてもおかしくないはず。ましてやそこそこ速度を出している馬車なら尚更だ」
コラルもサラサの問いかけに対し、同様の認識をしている事を伝えた。
自分達の能力を考えても、あの馬車に追いつけない筈がない。それであって、まったくその移動している馬車の気配を感じられない。
「まさかと思うが馬車が止まってる?それであれば追い越したかも」
「止まる理由・・・故障か」
「解らないわ、でもそれであれば二手に分かれる?」
自分で口に出したサラサであったが、今ここで分かれる事に対し不安を感じていた。
その不安は先ほどまでの戦闘によって、自身とコラルが死んでいたかもしれない、その事に対し抱いているのか、それとも今の状況に対しての不安と疑問に対して思っているのか。
「そうだな、もし馬車の故障で止っているなら戻る意味は少ないか。このまま村に向かおう」
「でも、アリア様が居るのと居ないので説得力に問題がない?特に元老院がどう判断するか」
「それであっても今は報告を優先しよう。受け入れる入れないどちらにしても時間がいる」
コラルの言葉にサラサは頷いた。そして、進路を村へと替える。
そして少し時間が過ぎた時、二人は茂みの中に隠れ、そこから村の門へと鋭い視線を向けていた。
本来なら、早急に今の状況を伝えるべきである二人の目の前では、村に入る事を躊躇うだけの状況が起きていたのだった。
「あれは、何が起きているの」
「解らん、ただあそこで磔にされているのは元老達に間違いが無い。もっともそれを取り巻いている者達も元老だがな」
門の前に建てられた5つの十字架、その十字架の内4つに磔にされたエルフ。その4人の姿は彼らがよく見知った者達であった。そして広場では他のエルフ達に聞こえるように演説する他の元老達。
「森に危機を招いたのはこの者達である!あの狂信者集団に連絡をし、我々をこの森から排斥しようとしたあのハイエルフに迎合した罪は重い!今こそ我々は、この森で住む者達皆の幸せのためにもこの森の支配権を取り戻さなければならないのだ!」
目の前で朗々と演説を続けるファリスの姿を見た二人は、磔されている者達が皆アリアと同じ穏健派である事に顔を歪めたのだった。
「不味いわね、磔されている者の中にも、周りにいる者の中にもアルト様はいない、それが良い事なのか悪い事なのかは解らないけど」
「そうだな、アルト様は元々キュアリー様に対し批判的だったからな」
「これは一回戻った方が良いわね、下手すると下手するよこれ」
「うむ、恐らくだが外との戦闘で兵士達が減った隙を見てのってところだな」
状況は非常に悪いと言っても良い。理由は解らないが、アリア達の馬車がまだこの地に辿り着いていないのは運が良い事なのであろう。そう考えた二人は、急いで今の状況を伝える為にアリア達が来るであろう道を急ぎ戻り始めた。だが、その二人は遠くから此方へと向かって来る100名はいるだろう兵士達の姿を発見した。そして、その兵士達に囲まれるようにしてその中心に自分達が目指したアリア達の馬車が居る事に気が付いた。
「あの兵士達はどっちだ?敵か味方か?」
「恐らくさっきまでユーステリアの連中と戦っていた兵士達だと思うんだけど」
慌てて辛うじて集団が見える場所まで移動し隠れてその様子を伺うが、馬車の中の状況が解らない。
ただ遠目に馬車の馭者をしている者の姿が旅を共にしていたミドリである事が解る。
「くそう、これって大丈夫なのか?」
「広場の様子を見て、彼らがどう動くかで見極めるしかないわね」
「こんな時に何馬鹿な事やってるんだよ!」
コラルは思わずそんな愚痴を零す。




