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1-44:戦闘終了

リフレッシュポーションを取り出し、体力を回復させながらキュアリーはエルフと獣人達を見る。

助けられた事の自覚はあるが、タイミングを計り恩を売ろうとしていた様にも見える。そもそも、旅の途中で幾度となく自分達を監視するような視線を感じていたが、恐らく彼らで間違いない。


「助かったわ、ありがとう、でも少し待ってもらって良いかな」


代表と思しきエルフに対しそう言葉を紡ぐが、視線はすぐに相手から逸らし目の前にいるサラサへと向ける。今この場において彼らは敵では無いかもしれないが、味方だとも言い切れないのだが、それに構っている余裕も無い。

HPポーションとMPポーションを取り出し、同時にそれをサラサへと振りかける。これもHPポーションの治癒効果が周囲にただようマナの影響に依存しているからである。


「サラサはこれで良いわね。あとはこっちか、こっちはどうするかな」


見た所サラサに傷や打撲と思われる物は多数あるが、致命傷と思われる程の傷は見えない。

HPポーションのおかげで既に呼吸も落ち着いているが、意識はまだ目覚める様子が無かった。

そして問題は、そのサラサに覆いかぶさっていたコラルである。どの様な経緯があったのかは不明ながら、恐らく最後の最後で身を挺してサラサを守ったのだろう。こちらは致命傷と思わしき傷が複数あった。


「ヒーラーのある意味真骨頂なんだけど、どれだけマナがとられるかよね、はぁ、まぁやってみましょうかリザレクション!」


手にしたMPポーションを複数周囲に撒きながら、キュアリーはゲーム時代に使用していた復活の呪文を何の気負いも無く唱えた。

コラルを中心として無数の光が飛びかい、最後にはその光が天使を模ってその手にした壺から何かをコラルに注ぐ。あまりに幻想的な光景に周りの者達が呆然としていた間にも、コラルの体一面を覆っていた傷は癒えて行った。そして皆が気が付くと今まで止っていたコラルが呼吸をしている事に気が付いた。


「まぁ何とかなったわ。でもMPポーションがもう残り少ないわね、でもまぁ見捨てるのはちょっとだしね」


キュアリーはそう告げながらも視線をルルへと向け、苦笑を浮かべる。しばらく一緒に行動していたためか、ルルは自然とサラサ達を群れの仲間と認識していたのだろう。それ故に怪我をしたサラサを見てキュアリーを呼んだのだろう。ここでルルの期待を裏切る訳にもいかないかといった思いの方が強かった。


「結構自分って薄情だからなぁ。ある意味ルルが一緒で良かったね」


息を吹き返したコラルを見ながら、キュアリーはそんな事を小さく呟いた。

改めてキュアリーはアイテムボックスを確認する。そして、その中に入れられていたMPポーションの残数を見て溜息を吐く。今この状況下においてMPポーションの有無が死活問題につながる。何をするにもMP又はマナが必要なのだ。塔に作ってあった畑にある薬草でMPポーションがどれくらい作れるか、庭にある薬草へと意識を飛ばしながらもやっと周囲にいる者達へと視線を向ける。

そこには、今明らかに死んでいたコラルが生き返った事に驚愕する者達の顔があった。


「これが、伝説の・・・」


どこからかそんな声が聞こえてきた。そしてその言葉に、そういえばあの魔族との戦乱期を通してもリザレクションを使う機会はそんなになかったかな?とキュアリーは思っていた。


「貴方達が誰かは知らないけど、とにかく助かったわ」


改めてキュアリーは礼を言う。もし援軍がなければそうとう追い詰められただろう事は理解していた。


「いえ、間に合って幸いだったと」


「こちらも予想以上に手古摺っていたから、あのままでは色々と危なかったわ」


キュアリーがそう告げると、エルフ達はその言葉の一部に対し首を傾げた。


「危なかったと言うのは解るのですが、色々とですか?」


「ええ、マナの消費を抑えるために近接戦闘をしていたのだけど、殴りで切り抜けるには数が多すぎたわ。最悪はマナに依存しないアイテムを使うしか手は無いと覚悟したんだけど、使わなくて済んでよかった」


「マナを使わないアイテムですか、そんな物が?」


彼らの基準として、マナを使わないアイテムは剣などのような一般的な武器しか思い当たらない。

魔剣などにおいてすら効果を発揮するにはマナを使用する事は当たり前だった。


「ええ、もっとも周囲のマナを使わないというだけで、アイテム自体にはマナは含まれてるのかもしれないわね。私が作ったんじゃないからそこら辺はよく解らないけど」


そう言ってキュアリーが取り出した物は、黒く真ん丸な砲丸状の形状で、その上から伸びる導火線と思わしき何か。そしてその砲丸にデカデカと印刷されているドクロマークがその存在の危険性を物語っていた。


「あ、あ~~、それは何ですか?」


「こんなに小さいけど、凶悪絶悪広範囲殲滅用爆弾自爆ちゃんね」


「は?」


「え?」


「きょうなんたら?」


周りから一斉に疑問符が飛び出すが、それをキュアリーは気にした様子など無く淡々と復唱する。


「だから、凶悪絶悪広範囲殲滅用爆弾自爆ちゃんよ。ちなみにネーミングは私じゃないからね!」


「「「「・・・・・」」」」


アイテム自体にでは無く明らかに普通では無いネーミングに対してのみキュアリーは強く反応した。

そして周囲を取り巻いている者達がじっとその爆弾へと視線を向ける。確かにドクロマークが強く自己主張してはいるが、そこまで危険な物には見えない。

そんな中、代表のエルフが視線を爆弾に注いだまま尋ねる。


「ちなみに、それを使用するとどの様な事に?」


「う~~ん、多分だけど使用した私を中心に10キロ四方くらいが滅びる」


「えっと、爆発では無く滅びる・・・です?」


「ええ、その存在自体が消滅するわ、しかもこの自爆ちゃんの厄介な事は、中心に強重力体を構築し、周りに有るすべての物を引き寄せ、圧縮し、最後にはその縮小した物を一気に放出するの。一度使用したところを見たけど、普通じゃないわね」


キュアリーは困った物だという様に顔を顰める。周囲にいる者達は思わず数歩後ずさるのだが、そもそも数歩ぐらいでは何ら意味を成さない。ついそんな動作をしてしまうのは、その爆弾とそれを淡々と告げるキュアリーへの理解できない物に対して抱く原初からの恐怖心の様なものだった。


「し、しかし、それ程の被害を及ぼすにはやはりマナを使用しないとでは」


「あら、あなた良く理解しているわね。でも、残念ながらこの自爆ちゃんは周囲のマナを一欠けらも使用しないわ。だって、この自爆ちゃんのエネルギーは根本的には原子とそのベクトル操作だけ、そかもその操作はこの爆弾くらいの大きさで十分なの。まぁわたしも伝え聞きだから間違ってるかもしれないけどね」


「う、うぅぅ」


周囲を何とも言えない空気が取り巻くが、倒れていたサラサの呻き声で漸くその状況が緩和された。

皆の視線が自爆ちゃんからサラサへと向かう。そして、それを感じてキュアリーはアイテムボックスへと自爆ちゃんを仕舞った。そして、再度アイテムボックスの一枠の限界数99に戻った自爆ちゃんを見て、内心で溜息を吐いていたが、その事に気が付く物はいなかった。


「あ!コラルは!」


目を覚ました瞬間に跳ね起きたサラサは、自分の周囲を見渡しコラルを探す。そして目の前に横たわるコラルに気が付くと、急いでその呼吸を確認した。


「よ、よかった、生きてる」


コラルの生存を確認し、再度腰を落したサラサは、そこで漸く自分の周りの状況へと意識が向く。


「ふぇ?」


そして、周りにいる者達の視線が自分に向かっている事に気が付き、思わず変な声を洩らすが、その者達に対し面識がない事思い至ると慌てて武器を構えようとする。しかし、本来自分の愛刀がある場所に何もない事に気が付くとより一層慌てるのだった。


「あ、あ、か、風を司る「落ち着きなさい!」ぐふぇ・・・」


咄嗟に自分が一番馴染んでいる風の範囲攻撃を繰り出そうとしたサラサの頭をキュアリーは手にした棍ですかさず叩く。そして、思わぬ一撃にサラサは地面へと再度叩きつけられた。


「まったく、例え敵に囲まれていたとしても今の一手は悪手でしょう」


囲まれていたならばまず安全を確保するために動かなければならない。そうでなければただ死ぬだけ。そんな常識すら頭から吹っ飛ばしたサラサを、キュアリーは文字道理物理的に吹っ飛ばしたなだ。

そんなサラサへ向けていた意識を、再度この目の前のエルフへと向けた。


「ともかく、ここでジッとしてる訳にはいかないでしょう。森に入りましょう、少しはマナもマシになるでしょうから。サラサはコラルを担いでね、あなたの命を守ってくれた英雄よ?」


笑いながらキュアリーは皆にそう告げると、ルルの頭を軽く撫で森へ向けて歩き出した。


「う、うわ、踏まれるなよ!」


「後方の警戒を怠るなよ!まだやつらの継戦能力は残っているぞ!」


「女子供から進め!」


周りの者が反応するより早く、ドラゴン達がドスドスと行進を始める。それに慌てた獣人族の男が、注意を喚起する。そして次々と集団のあちらこちらから支持する声が響き渡り始めた。


「あら?へぇ、各集団できっちり指揮官が分かれてるのかな?それとも、元々まったく違う集団が集まってるのかな?それにしてはしっかりと纏まって行動しているし、どうなのかしら?」


キュアリーはちょっと立ち止まり興味深くその様子を眺めるが、すぐに集まって来たルーンウルフとルルへと意識を向け、森の入り口へと足を進める。

森から出る時には、エルフだけでなく人や獣人など幾つもの集団が集まっていた森の入り口、しかしそこは戦闘の跡が生々しく残っているだけで生存者の姿を見る事は無い。しかし、うまく馬車が通る隙間が出来ている所を見るとアリア達は無事に通過したようだった。


「この魔物はもったいないから収納していこうか。貴方達のご飯になるものね」


入り口に幾つも転がっている魔獣の死骸を見てキュアリーはその中の比較的状態の良い物を中心にアイテムボックスへと収納していく。その御蔭で後方からくる集団の通り道が出来ているが、時折背後でボリボリと音が聞こえるので振り返ってみた。


「うん、まぁそうだよね」


魔獣の死骸に群がる魔物や魔獣達、特に魔石があると思われる部位はドラゴンがガブリと噛り取っている。

まぁ魔石が無駄にならなくて良いのかな、そんな事を思いながらっさっさと歩きだすキュアリーだが、その後に続く者達は、魔物や魔獣に対し強い警戒心を持ち、その為その移動速度は遅くどうしても遅れがちになる。


森の結界を抜け、周囲を取り巻く空気が、匂いが、そして何と言ってもマナの濃度が変わった。

その瞬間、漸くキュアリーはコルトの森へと帰って来たという気持ちになった。当初予定していた以上に濃い内容だったなとそんな事を思いながら先へと進む。そんなキュアリーに対し、後方からドラゴンなどの叫び声が聞こえてきた。


「ん?何事?」


振り返るキュアリーの視線の先には、森の結界に阻まれ結界に張り付くドラゴンの姿が見えた。

うに、うにっと首を結界に張り付かせ、何とか中に入ろうとするが成し遂げる事が出来ず、ついでにどうも後ろから魔物達に押されているようにも見える。


「キュルルルル~~~」


とてもドラゴンが出すとは思えない物悲しい泣き声に思わず溜息を吐き、今日何回溜息を吐いたかなぁと思いながらも、キュアリーは結界に対して魔獣の侵入許可を出した。


ドドドドドド・・・・・


崩れ落ちるように結界の中へと転がり入り込んでくるドラゴンや魔獣達、しかし次には別の鳴き声が響き渡る。


「プギャ!プギャ!」


その鳴き声の元を辿れば、オーク達が結界に阻まれて鳴き声を上げている。


「・・・・・え?ちょっと、貴方達は流石に無理よ?」


必死にこちらへ訴えかけるように鳴くオークであるが、そもそも魔獣と違い魔物はエルフの天敵と言っても良い存在である。そして、その代表格はゴブリンやオークであり、その存在をこの森へと招き入れる事は流石にキュアリーでも躊躇いを感じる。


「プギャ!プギャ!」


キュアリーを真っ直ぐ見つめるオーク。そもそも、豚の瞳は円らで可愛い。その瞳でキュアリーに対し一切の疑いを持たずに見詰めながら鳴き声を上げている。


「・・・う~~~ん、このマナ濃度ならいけるかな・・・」


普段の醜悪さより、何となくだがブサ可愛い姿を見ながら、キュアリーはゆっくりと息を吸った。


「サンダーレイン!」


「プギャ~~~~」「プギャ!」「グギャ!」


次々とサンダーレインで打倒されていくオークとゴブリン、それをこれまた唖然とした表情で見るサラサや獣人達。彼等はいったいキュアリーがどうすると思ったのであろうか?そんな彼らへとキュアリーは振り返って告げた。


「いや、どう考えても無理よね?」


それに対し誰も返事をする者はいなかった。

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