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小さな丘の上にぽつんと建つ、古い一軒家がある。山之内家だ。


今いる家族からみて、祖父の代に建てられたというその家は、令和の今となっても、そこだけ取り残されたような色濃い昭和の匂いを漂わせている。

ぐるりと部屋を囲む板張りの縁側は、長年の歩みによってすっかり角が取れ、飴色の深い艶を放っていた。


毎朝、娘が起きてきて最初にする仕事は、重い木製の雨戸を開けることだった。

戸袋の奥で引っかかっている雨戸を引くときには、いつも少しだけコツがいる。


「うーん……よいしょ」


ガタガタと大きな音を立てて、歪んだレールを宥めるようにして一枚目を引き出す。

そうして全ての雨戸を仕舞い込むと、待ってましたとばかりに、遮るもののない南向きの座敷へ、いっぱいの柔らかな日差しが溢れ出してきた。


長年の日焼けでい草の青さはすっかり抜け、どこか白っぽく、あるいは淡い黄金色に褪せた畳。

歩くとわずかに沈むような柔らかさがあり、素足に触れる感触はさらりと心地いい。

部屋の隅には、祖父の代からあるという色褪せた桐の箪笥が静かに佇んでおり、床の間には季節外れの掛け軸が一本、所在なさげに下がっている。

壁のそこここには、かつて幼い自分がつけた小さな傷や、家具を動かした際の色ムラがそのまま残っていた。


空気を入れるため、ガラスが歪んできている縁側の窓を開けていく。

座敷向こうの奥の間の障子窓も開ければ、空気はきれいに流れていく。


庭の植木に水をやる父親の気配や、祖母と母が忙しくしている台所から漂う味噌汁の匂い。

そんな穏やかな日常の背景に溶け込むように、時折、音がする。


しゃ、しゃ、と、乾いた植物の繊維が畳を擦るような、かすかな音。

それはまるで、誰かが目の前で、ほうきで丁寧に畳を掃除しているかのような音だった。


あるいは、日差しの温かさに紛れるようにして、数名の人間がぼそぼそと、何か他愛のない世間話に興じているような気配が混ざることもある。


耳を澄ませば聞こえるような気がするが、ふと目をやっても、そこには陽だまりの中で静かに踊る埃の粒が見えるだけ。

本当にそれだけなのだ。


この土地で生まれ育った娘にとって、その音は柱時計の秒針の音とさして変わらないものだった。

幼い頃から当たり前のように聞こえていたため、特別な恐怖を覚えることも、不思議に思うこともなく、ただの「家の癖」として受け入れている。


不思議と、家の者ではない人物が座敷にいる時にはその気配は薄れる。

娘が小学生の頃、同級生がよく遊びに来ていたが、その時には、ほうきの音も、人の声のようなものもぱたりと止んでいた。


今日も縁側には陽が燦々と降り注ぎ、住人たちの静かな息遣いだけが、古い木造の壁に優しく染み込んでいた。



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