第165話:スタンピードのその後①
東部地区の被害は甚大なものだった。
しかし、被害は建物にだけ及んでおり、人的被害は大小さまざまなケガにとどまっており、死亡者を出すまでには至っていなかった。
一般人だけではなく、プレイヤーに犠牲が出ていてもおかしくはない規模のスタンピードだったが、誰一人として死亡者を出していないという今回の実績を、プレイヤー協会はさすがに無視できるものではなくなっていた。
「なんていうか、本当に規格外だな。竜胆プレイヤーは」
そんなことを呟きながら、東部地区の支部長である拳児は復興作業を手伝っていた。
「光の出所に私たちが向かっていたことは、多くのプレイヤーが目撃している。そうなると、私たちの誰かが光を出したと推測するのは当然のことだろうな」
拳児への報告を行っているのは、影星だ。
影星は天地竜胆という存在を公にするのか、それとも彼の意見を尊重して秘匿するのか、その判断を拳児に求めていた。
「俺個人としては秘匿してやりたいが……さすがに今回の一件は、ことが大きすぎる。他の支部の奴らもそうだが、協会を良く思っていない奴らも探りを入れてくるはずだ」
「だから公にするべきだと?」
拳児の言葉を受けて、影星からわずかに殺気が漏れる。
「それが最善とは言わないが、協会も表立って竜胆プレイヤーを守りやすくなるって話だ」
「それを彼が望むとでも?」
「それは……聞いてみないことには分からないな」
拳児と影星のやり取りは、竜胆たちがつぎはぎのドラゴンを倒してから七日が経ってのものだ。
その間、竜胆は今もなお意識を失ったままで、拳児としても判断を先送りにし続けている状況だった。
「そろそろ他の支部の奴らが押しかけてくる頃合いだ。それまでに竜胆プレイヤーが目を覚ましてくれたらいいんだが……」
「もしも、天地竜胆が目覚める前に他の支部が押しかけてきたら、あなたは彼を売るのかしら?」
漏れた殺気ではなく、完全に拳児へ向けた殺気が影星から放たれる。
しかし、拳児は彼女の殺気を真正面から受け止めると、豪快に笑い言い放つ。
「んなわけないだろう! 俺は東部地区の支部長であり、ここで活動しているプレイヤーは絶対に守ってやるさ!」
「ふっ。あなたならそういうと思っていたわ」
拳児の答えを聞いた影星は殺気を消し、小さく笑う。
「報告は以上か?」
「えぇ、その通りよ。私も周辺の警戒をしておくから、何か分かったらまた報告するわ」
そう口にした影星は影の中へと消え、拳児には周囲の復興作業の音だけが残された。
「……全く。影星も竜胆プレイヤーに取られてしまったか」
軽く腰を伸ばしながら、拳児はぼやく。
『影星も』と口にしたのには、一つの理由があった。
「矢田プレイヤーが現役復帰してくれたのはありがたかったが、協会を退職する必要はなかっただろうに」
実を言うと、拳児は恭介にも目を掛けていた。
いずれ上級ポーションが手に入ったなら、恭介に提供して自らの傘下に加えるつもりだったのだ。
それが突然現れた竜胆が恭介は上級ポーションを提供し、現役復帰した恭介は竜胆とパーティを汲むことになった。
喜ばしいことだが、完全に予想外ではあった。
「そこへ影星まで……だがまあ、彼女にとっては良い方向へ進んでいると喜ぶべきなんだろうな」
影星はもともと、そこまで強いプレイヤーではなかった。
パーティに入ればそこそこ活躍して、そこそこの成果を得られればそれでいいと考えていたのもあったのかもしれない。
しかし、過去に臨時でパーティを組んだプレイヤーに裏切られて大怪我を負ったことがあり、それ以来仲間を信用するということをしなくなった。
当時は現場に出ることも多かった拳児が救出へ向かい、ポーションを使って怪我を治したこともあったが、それでも影星の心の傷が癒えることはなかった。
だからこそ、拳児は影星を守るために、支援という言葉は使わず、契約という言葉で彼女に多額の契約金を提示して自らの傘下に入ってもらった。
「……再び信じるに値するパーティを見つけたか、影星」
そう呟いたあと、自分がおじさん臭くなっていることに気づき、拳児は首を横に振る。
「いかんな。歳を取ると、どうにも感傷に浸ってしまう」
そんなことを口にしながら、拳児は再び復興作業へと戻っていった。
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