第163話:キメラ
落とした首の切り口からドパッと、ドロドロのどす黒い血が溢れ出し、地面を染めていく。
竜胆が、恭介が、国親が、目の前の光景にほんの一瞬、安堵の息を吐く。
しかしここで、竜胆は一つの違和感に気づいた。
(……ガチャが、発動しない!?)
そう思った直後、つぎはぎのドラゴンの傷口から、短く、無数の触手が生え、一斉に蠢きだす。
「まだ死んでないぞ!」
「そんな!?」
「ちっ! 俺はもう、動けねぇぞ!」
愕然とする恭介に、その場で膝をつく国親。
万事休すの状況だが、竜胆には最後の一手が残っていた。
「俺の全魔力を注ぎ込んでやる!」
周囲に漂う魔力も底を尽きかけている。
おそらくはこれが最後の一撃になるだろうと、竜胆も理解していた。
(この一撃で、決める!)
これまで以上に金色の魔力が竜胆の体から放たれると、魔力は彼の体だけではなく、デュランダルにまで力を与え始めた。
魔力を吸収していくデュランダルは、剣身の色を金色に変えていく。
魔力を自らの武器に吸収させて強力な一撃を放つ技術は、既に確立されている。
しかし、魔力の量が膨大であればあるほど、武器が壊れてしまう確率も高くなる。
それもデュランダルには関係ない。何せ不滅剣なのだから。
「……これは!」
「……はっ! 感じるぜ、ものすごい魔力をよ!」
デュランダルから放たれる膨大な魔力に、恭介と国親も驚きを隠せない。
そんな中、つぎはぎのドラゴンの傷口から生えていた触手が徐々に長くなっており、それらが一つにまとまり始めた。
再生の時が近づいているのだ。
「……これが俺の、最強の一撃だ!」
周囲の魔力が完全になくなった。それだけの魔力を竜胆は掻き集め、デュランダルに注ぎ込んだのだ。
デュランダルに纏わる付くように揺れていた魔力も、今では金色の剣身を形作れるほどの密度となっていた。
「上級魔力剣術!」
地面を蹴り、加速していく竜胆。
首を失ったつぎはぎのドラゴンは、自らの身に危険が迫っていると分かったのだろう、急に体を捻り竜尾を振り回してきた。
「――影縫い」
そこへ聞こえてきたのは、モンスターの群れを相手にするためこの場を離れていた、影星の声だった。
「風林火山――【山】!」
続けて彩音の声が聞こえてくると、つぎはぎのドラゴンに高重力が襲い掛かる。
「アイスワールド――ミドルレンジ!」
最後に鏡花の声が聞こえると、竜胆は初めて視線を声の方へ向けた。
「頑張れ! お兄ちゃん!」
鏡花の姿を視界に収めた竜胆は、命のやり取りをしている状況であるにもかかわらず、柔和な笑みを浮かべて小さく頷く。
そして視線をつぎはぎのドラゴンへ向けると、再生を始めていた首の傷口が凍りついているのを見た。
「……全く、少し見ない間に強くなったな、鏡花は」
負けていられないと自らを鼓舞した竜胆は、再びスキル【上級魔力剣術】を発動させる。
影星が、彩音が、そして鏡花が発動させた魔法から放たれた魔力の残滓を吸収し、さらなる魔力の上乗せをデュランダルに行ったのだ。
――準備は整った。
「これが! 俺たち全員が力を合わせた! 最高の一撃だああああああああっ!!」
金色の魔力を纏ったデュランダルがつぎはぎのドラゴンを捉えると、衝突と同時に魔力が爆発した。
竜胆とつぎはぎのドラゴンを中心に、金色の魔力が周囲へ吹き飛び、広がっていく。
あまりのまぶしさに、竜胆以外は直視することができないほどだった。
「な、何が起きているんだ!」
「大丈夫なのか! 竜胆!」
「まぶしすぎるわ!」
「大丈夫なのよね!」
恭介が、国親が、影星が、彩音が、心配の声を上げる。
そんな中、鏡花だけはいつも通りに目を閉じ、両手を胸の前に重ね合わせ、柔和な声で呟く。
「信じてるよ、お兄ちゃん」
鏡花が呟いた直後、爆発の中心地に巨大な金色の魔力が空へと伸び、雲を貫いた。
魔力の先が見えないくらいに伸びており、鏡花たちだけではなく、モンスターの対処に当たっていた多くのプレイヤーが光へ視線を向けていた。
【モンスター討伐によりスキル【ガチャ】が発動します】
直後、眼前に浮かび上がったウインドウを見た直後、竜胆は意識を失った。
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