29:女神様と情報の擦り合わせ
お待たせしました。
目を開けると、そこはすでに緑が一面に広がる草原に変わっていた。女神様の庭である。
女神様の庭に再びやってきた私と絵里奈は、先ほども見た白いテーブルセットに着いた。テーブルの上には白いティーカップと新たにお茶請けが用意されている。これは……もしや私が作ったアップルパイだろうか。え、持ってきたの? ていうか持ってこれるもんなの?
疑問が一つ増えたところで、女神様が待ちきれないという様子で私と絵里奈に声をかけた。
「それで!! ツバキちゃんは私の加護を貰ってくれるのよね!!??」
「はい」
「ッシャ!!!!!」
立ち上がって盛大にガッツポーズを決めて見せた女神様は、私の手を両手でつかんでぶんぶんと振っている。
「あ~~~よかった~~~~、これで一安心だわぁ。ほんとにほんとにありがとう!」
「いえ……」
「ぶっちゃけいうとね、私って神様の中では割と下っ端っていうか新参者っていうか………」
話してくれたのは何とも反応に困るお話だった。
曰く、この世界を管理している者……神様は目の前の女神様以外にも複数名(複数柱?)いて、その中でも新参者の女神様は過去に起こしたやらかしもあって肩身が狭いのだとか。
神様の中でもそういう上下関係とかあるんだな………。
過去、盛大なポカをやらかす前は力も強く序列もまぁまぁ上位の方に居たらしいが、やらかしに次ぐやらかしのせいで神の力もだいぶ弱くなってしまったらしい。
一体どんなやらかしをしてしまったというのか。
「で、加護を与えるって神様の中でも結構大ごとなのよね……特に私みたいな弱い神様にとっては」
加護はそう簡単に与えられるものではない。
なぜなら加護で分け与えるのは、人間用に調整はしているものの、神の力そのものだからだ。
むしろそうポンポンと神の力を持つ人間を増やすのは良くないだろう。
「じゃあ、間違えて絵里奈に与えたのって………」
「……そう、めっちゃ怒られちゃって」
人間でいうところの上司とか先輩陣にこっぴどく怒られたのだとか。
沈んだ表情の女神様は怒られた時のことを思い出しているのかしきりに腕をさすっている。
「ま、まぁ、エリナちゃんも聖女の器としては申し分ない位だったし……今回は張り直しがあるからツバキちゃんの方がより適任だっただけだし……ツバキちゃんも加護貰ってくれるって言ってくれたし……」
怒られはしたがリカバリーが上手くいきそうだからプラマイゼロって感じかな?
「あ、そうだ。椿ちゃんに加護をあげるついでに、絵里奈ちゃんの方もアップデートしとくから!」
すごく露骨な話題転換だが、しょうがない。乗ってあげよう。絵里奈と視線で会話してそう決めた私たちは、アップデートの内容を聞くことにした。
「具体的にどうアップデートするんですか?」
「えーとね。二人の世界から学んだんだけど、魔法とかの訓練するのに『ステータス』っていうのを見れた方がやりやすそうなのよね」
「たしかに?」
「だから、『ステータス』って呟いたらスキルとか使える魔法とかが見れるような機能、追加してあげる!」
すごい……異世界転生ものでよく出てくる『ステータス』を実際に使えるようにしてくれるとは。どうやら絵里奈も今までは手探りで魔法の練習をしていたみたいで、これには手放しで喜んでいた。
「めっちゃ助かります!! ありがとう女神様!!」
「すごい……そんなこともできるんですね、女神様って」
「ふふん、そうでしょう! もっと褒めてくれてもいいのよ?」
どうやら女神様的には一度与えた加護に手を加える方が簡単なようで、数十分もすれば新しい機能を絵里奈に与えることができるようだ。私の方も最初から『ステータス』が使えるようにしてくれるらしい。
ただ、私に加護を与えるのに支障があるようで………。
申し訳なさそうな顔をした女神様が言うには、そもそも今の女神様では一人で加護を与えるのが難しいということだった。女神としての力がかなり弱っているせいだ、と。
絵里奈の時は聖女召喚の儀に干渉する形で加護を与えていたのだが、今回はその手を使えない。そのため、「ちょっと強引な手段」を使うのだとか。
「だから、加護が身体に馴染むまでの数日間はちょっと体調崩したりとか他の不都合が起こったりとかあるかもしれないから、一応伝えておこうと思って……」
「分かりました、気をつけて過ごします」
それからは、宰相様やギルバート様たちと話し合った内容を女神様にも説明し、私の立場がどういうものになるのかを伝えた。
女神様的には私の肩書はどうでも良いらしいので、宰相様の案でそのまま通るはずだ。
「それにしても補佐官、ねぇ……。よく考えたものだわ。これなら同時に複数人の聖女が居ても妙な争いは起きないでしょうし」
「だといいんですけど」
思わず苦笑いが漏れてしまう。
正直なところ、絡まれたり妬まれたりするのは覚悟の上だ。絵里奈と違って聖女ではないのだから多少緩和されているといいなぁ……くらいの期待はしているけれど。
「それで、結界の事について詳しく聞きたいんですけど……」
「二人に聞かれてから、今の結界がどのくらいの期間持つのか調べてみたのよ。やっぱり1年後には崩壊すると考えてよさそうだったわ」
「じゃあ、余裕をもって半年後位には張りなおした方がいいのかもしれませんね」
「神託が下りないと結界関係なんにもできないんですよね?」
聖女召喚の儀も、結界の張り直しも女神様の許可が下りないと動けないのが現状だ。1年後には壊れると言うならば、なるべく早めに取り掛かれるようにした方がいいだろう。どんな準備が必要なのかも私たちは分かっていないし。
そう伝えると、頬に手を添えて悩まし気な表情をする女神様は大きなため息をついてこう言った。
「それなんだけど、できればギリギリまで待って欲しいのよ」
「………今までの私たちの話、聞いてました?」
「聞いたうえで、言ってるの」
女神様の話を要約すると。
この地を覆う形で作られた結界は、過去の聖女たちの力が混ざり合っているという。今までは、それに干渉する形で補強していたが、今回は一から張りなおさなければならない。
その方法について女神様が色々調べていると、新しい結界を張るには今ある結界を一度解除して新しい結界を張るか、結界の更に上から覆うような形で新しい結界を作り上げるかの2択だったという。
「じゃあ、後者の方法でやればいいのでは?」
「私も最初はそのやり方でいいと思ったのよ。それがね……新しく結界を張るってことは、その結界には今の結界を作り上げた聖女の魔力が入ってないってことでしょう? そうすると、結界同士が反発してどっちも壊れちゃうみたいなのよね」
もともと守りに特化した結界だからこその欠点。どうやら新しく結界を作りたくても、私たちの魔力は「異物」として今ある結界から攻撃を受けてしまうらしい。その上どちらの結界も壊れてしまうのだ。
それを防ぐには反発をどうにかして抑えなければいけないが、女神様が調べた限りでは、どちらかの主魔力……結界を主に作り上げる聖女の魔力が薄くなっていることが重要だと分かった。
そして、今の結界を作り上げた聖女様の魔力は、結界のベースになっているためにかなり濃く残っているのだという。
「だから今の結界の魔力濃度が極々薄くなるまで、つまり結界崩壊のギリギリまで待って欲しいのよ」
「そういう事情があるなら仕方ないですよね」
「分かってくれたようで何よりだわ」
ほっとしたわ、と表情を緩めた女神様が私と絵里奈の額に手を伸ばす。この女神様の庭に私たちを招く時間にも制限があるようで、名残惜しそうに女神様は微笑んだ。
「楽しい時間はあっという間ね。…………じゃあ、またね。ツバキちゃん、エリナちゃん」
──ざぁざぁ、ざぁざぁ、すすり泣くような声が聞こえた気がした。




