プロローグ1 『愚者は世界を考える』
「あのときあの道を選んでいれば――あのカードを選んでいれば、結果はまったく異なるものだったろう。そんなことを言う人がいるけれど、実際、その通りさ」
異論はない。
まるで、百八十度違う選択肢もあるわけなのだから。
「タロットカードも人生と同じでさ、カードを選ぶのはキミ自身、そのカードによって結果はまるで違う。なぜなら、選んだカードが別のものだからだ。当然だよね」
こいつの言うように、当然だ。
それは、当然の結果でしかない。
「まったく嫌になるよね。選べるのは一回きりなのに、選んだカードにはおよそ天と地の差があり、完膚なきまでに差があるんだぜ? 選択肢と選択肢、二つの道のあいだには、絶望的な距離があるんだ。今回のキミのようにね」
そうだ。
今回の俺は、絶望的だった。
選択肢の違いが、絶望を生んだのだった。
「でもね、タロットカードは絵解きなんだよ。そのカードの意味をどうとらえるかで、見える景色は変わる。めくりめく。人生だって同じさ。世界がどんなふうに見えるかなんて、結局は主観でしかないのだから。選ばなかった選択肢の行く末なんて、わからないのだから」
それでも、考えずにはいられない。
選ばなかった道が、どうなったのかを。
聞かされただけの『もしも』が、どうなるのかを。
「『もしも』なんて、そんな世界を考えるのは愚者のすることだ。キミの世界は、いまキミの前に広がっているその世界だけさ」
そう言って、情報屋は笑った。