電話帳
「090・・・・・・・」
「ちょっと待って」
何のためらいもなく、余韻もなく暗唱し始めた彼に彼女は慌てて鞄からスマホを取り出した。
「いいよー、お願い」
「090・・・・・・・・・・」
「はい、じゃあ、メアドも」
「・・・・・・・・・・・・ezweb.ne.jp」
「私の、これね」
彼女は連絡先の自分の電話番号の画面を彼に見せた。
た行の欄に高遠忍とあり、それは正しく自分のことなのだろうが、彼にはそれが自分自身だとは何故か思えなかった。
「メアドは、・・・・・・・・・・・・・・・・ne.jp」
高遠忍は電話帳に追加された高月渚の名を不思議なものを見る目で見た。
たった三文字のありふれた文字に何故こんなにも奇妙な気持ちが湧き上がってくるのか、彼にはまるで分らなかった。
彼には今の今まで友人と呼べる人間がいなかった。
そのことを特に気にしたことはなかった。
彼にはやることがあった。
彼の電話帳の連絡先は全て、所謂関係者であり、普通の人間ではなかった。
彼女が普通の人間だからか。
彼の考えられたのは此処までだった。
もう彼の想像の範疇はとっくに超えてしまっていたのだ。
「高遠君、何かあったら電話してもいい?」
「ああ」
「・・・・・・・・・・・何かなくても、してもいい?」
「ああ」
何かなくてもしてもいいと言うのは何だろうと思ったが、まあいいかと思い聞くのはやめた。




