今日こそ高遠君に話しかける
「名前、そんなものはない」
「ないの?」
「ああ、ない」
「呼ぶ時不便じゃない?」
「別に、兎はこいつしかいないし、おい、とかで通じるし」
「そう?」
「ああ、それより、俺に何の用事だったんだ?こんな山まで追いかけてきて」と最初にした質問の答えをまだ聞いていなかったことに気づき、答えを求めた。
こんな山の中にたった一人で女の子が制服姿で登ってくるなど異常なことなのは火を見るよりも明らかだった。
「用事?用事はないんだけど」
「は?じゃあ、なんでこんなとこまで・・・・・・」
「何でって、ずっとね、高遠君と、話してみたかったから」
「俺と?何でだ?」
「何でって、今シロちゃんとチュウちゃん見せたでしょう?」
「ああ、それで?」
「それでって、それが全部だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・見えるかって聞くことがか?」
「うん」
「・・・・・それだけのために、山を登ってきたのか・・・・・・・・・・・・・」
極力彼女を見ずにダメージを回避している彼は、心に余裕ができ常識をもって彼女を見ることができるようになったので、素直に呆れた。
変な女だと思った。
それとも彦根の人間は皆日常的にこの山を登るものなのだろうか?
嫌、高遠忍は彦根に来てからこの山に毎日のように来ているが、休日以外余り人間はいなかった。
「ずっとね、ずっと。高遠君と、お話してみたかったの。毎日ね、思ってたの。今日こそ高遠君に話しかける、って」




