No.8
この話から出てくる会話は作中で英語で話されたのを日本語に訳したものです
「んで、お客さん。何にするんだい」
「えーっと、スープ。あ、あとパンもお願いします」
「あいよ。ちょっと待ってな」
そう言うとおっさん、もとい酒場のマスターは何やら用意しはじめた。
その間に少し俺は考えることにした。
しかし話しているのが英語だとは思わなかった。バカみたいにスピードが速いのも聞き取れない理由の一つだったけれどひどく訛っているのもあるだろうと思った。普段学校のリスニングで聞いているのとはまるで別物だった。そこまで考えたとき
「ほらよ、スープとパンだ」
マスターがカウンターに料理をおいた。
正直、見てくれからあまり良くはなかった。まずパンが冷たい。少しかじったがとても固かった。スープにしてもスープというよりはごった煮って感じだった。
温かいのは良かったけれどとても味が濃かった。
おずおずと食べているとマスターが
「おいおい、パンはスープに浸して食べるのがいいぞ。そのままだと固いだろうし味もない」
と言うのでその通りにしたら大分マシになった。
「先ほどはありがとうございました。おかげで美味しく頂けました」
食べ終わって俺がそう言うと
「お前さんも変わった人だよなあ。酒場に入ってきて何を頼むかと思えばスープとパンだけでビールもワインも頼まない。スープの食べかたも知らない。挙句は見た事もない服を着てる。いいところのお坊ちゃんか?って感じだよ」
「マスター、実は自分…」
そうして俺はことの顛末を洗いざらい話した。気がついたら草原で寝ていたこと。言葉が全く通じなかったこと。壁の文字を見てようやくわかったことなど。
「記憶が飛んじまった…?なあお前さん。どこから来たか、とかは覚えているかい?」
「東京、いや日本から来ました」
「…すまねえ、トーキョーもニホンも俺は聞いたことがないな」
どうやら本当に面倒な事になるだろうと俺は確信した。
「逆に、ここはどこなんですか?」
「ここはフィルバス諸侯領のなかのケリーメナンバルっていう街さ。ケリー伯爵家の城も奥にあるだろう?」
そういえば砦みたいなのがあったなぁと思い出しながら俺は続ける。
「確かにありまし」
そこで俺の言葉は遮られた。突然怒鳴り声がしたのだ。
見ると奥のテーブル席が険悪な雰囲気になっていた。双方ともに大きな声でまくし立てる。俺には速すぎて聞き取れなかったけど。
「すまん、ちょっと外すぞ」
そう言ってマスターは喧嘩の仲裁にいった。
もう少し詳しく見ていると、どうやら一対一で取っ組み合いをしていて、周りはそれを煽っているらしい。酔いが回って沸点が低くなっているところを茶化されたのだろう。そう考察して俺は観察を止めようとした。しかしある場所に目が釘付けで動かない。その場所は顔だった。
片方は普通の顔。しかしもう一方はトカゲのような顔をしていた。




