出会い
「そこにある素材の価値、それぞれが大したものではない」
変わった色の石。動物の毛皮。自然の湧き水。
それぞれが珍しいものではない。だが、それらを錬金釜に入れ魔力を注ぎ込む。
その瞬間、そこに神秘が宿る。
「だが、こうやって、我々が培ってきた技術、知識、信念。それらが黄金の価値を生み出す」
あとで調べると、この三つの素材には光の属性が宿っている。
それらを一つにし、抽出することによって、闇を照らす魔導ランタンの燃料が出来上がる。
途方もない闇は人に恐怖心を与える。
錬金術師が開発したこの素材は、人々の稼働時間を大きく変えた。
それはまさに、一つの金を作るよりも価値のあることだった。
「錬金術とは黄金の価値を示すための、人間の歩みだ」
師匠が口にした一言。
それは、俺が持つ前世の知識にある錬金術とは決定的に違っていた。
錬金術師は「より高く、より硬く、より黄金に近いもの」を求める。
その産物が黄金の価値に匹敵する。そうして生活水準を上げていく。
そう語った彼女の眩しさだけが、今も俺の胸に残っている。
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冬が終わり、すぐに夏が始まる二季の国。
その夏が始まったばかりの頃、アラン・パラケルルスが目を覚ました。
寝具を片づけ、唯一の家族を起こす。
「おはよ、ホテプ」
「テケリ」
寝床から這い出たポヨ猫、ホテプに声をかける。
黒い饅頭のような、もしくはスライムのような見た目に、猫耳と尻尾が生え、手足がちょこんとだけ出ていて◉◉目をしている。
たまたま拾った猫?なのだが、いろいろ謎が多い。
ホテプは「ホテッ」と短く音を鳴らすと間の抜けたあくびをしている。
アランは鏡をみるとそこには光の当たり方次第で色を変える構造職の瞳を持った少年の顔があった。
彼は前世の記憶を持つ転生者。
魔法があり、魔物がいて、多様な文化がパッチワークのように繋ぎ合わされた異世界。
前世では理系学生として実験に明け暮れていたが、不慮の事故で命を落とし、次に目覚めた時には娼婦から生まれた赤子になっていた。
そのような世界に生まれてもよくある物語のような勇者になったわけではない。
彼は錬金術師という職業を選んだ。
金を錬成するのではなく、生活に便利な素材を作り出す仕事である。
前世の歴史では聖職者が文明の先端を担うこともあったが、この世界では錬金術師こそが生活の最先端に立っていた。
「そろそろ行かないとな」
アランが錬金術の工房のある敷地を出ると、嫌でも夏の実感が肌を刺す。
まぶしい太陽と、乾燥した空気。
石畳の街路樹の傍らを、多種多様な姿をした人々が歩いていく。
腕が四本あるウデウデ人の石工が、複数のノミを同時に振るってヘレニズム風の彫刻を整えている。
その横を、複数の瞳を持つメメ人の鑑定士が、ルーペも使わずに魔石の質を見極めながら通り過ぎる。
全身が柔らかな体毛に包まれたモフモフ人の宣教師は、この暑さに耐えかねたのか、噴水の縁でぐったりと横たわっていた。
ここでは、身体の部位の数が違おうと、獣の特徴を持っていようが、誰も気に留めない。
先祖に一人でも異形がいれば、人間の両親からでも、異形の子が生まれることは珍しくない。
この国は、そんなバラバラな個性を「パッチワーク」として受け入れることで成立しているのだ。
「……暑いな、ホテプ。お前、とろけてないか?」
ホテプは石畳の上で文字通り「ぷにっ」と平べったく伸び、熱を逃がすように形を変えた。
生活感のあるストリートの奥、そこの石壁で出来たタウンハウス。
その一室が労働者向き価格のバー兼カフェがある。
重いドアを開くと外の鋭い日差しから逃れ心地よい涼しさがある。
「頼まれていた資料を持ってきましたよ。師匠」
「手間をかけたなアラン」
奥の席に向かうと、そこには長い黒髪の壮年の女性が待っていた。
アランの師匠であり養母でもあるエミリア・パラケルルス。
よくこの店で愛飲している紅茶を片手に論文を書いている。
「師匠……彼女は?」
普段から研究仲間を連れずに孤高を貫く師匠らしからぬ同席をしている人物がいた。
アランと齢が同じくらいか少し上程度の目を張る美少女で美しい金の髪と焔色の瞳をもった貴族の令嬢のような少女はこの場に馴染むことなく独特な存在感を放っていた。
「この子は付き合いのあるレディオ商会の娘でお前と同じ錬金術師見習いのエレナ・レディオだ」
「そうか……彼女が」
人付き合いも面倒くさい古典的な職人気質であるエミリアだが、内弟子兼養子であるアランも以外にも弟子を取っていることは知っていた。
どんな変わった人間か、厄介な理由か思ったが、それが付き合いのある商会の娘というありふれた理由にかえって驚いた。
「どうも、アランです」
「エレナだ。敬語はいらない、よろしく同門よ」




