いっしゅうめ
※筆者の妄想の異世界です。ゆるゆる設定。
これはどこかの国のいつかの時代の王女、アンネリーゼの物語。
「アンと申します。本日よりイリスさま付きの侍女見習いになりました。よろしくお願いいたします」
手を揃えて頭を下げる。侍女に習った、侍女の振る舞いを思い出して動いた。
「アン、顔を上げて」
可愛らしい声に従って顔を上げるとそこには可愛らしい顔立ちの令嬢がいた。この方は侯爵令嬢のイリス様。かわいらしい部屋のソファに座るイリスさまはまるでお人形のよう。私はドールハウスの中に入り込んだかのように錯覚した。
「こちらこそ、よろしくね」
少し緊張しているのか小声で聞き取りづらかったけれど、お人形のような令嬢の微笑みはとっても可愛くて、異性であれば一発で心を撃ち抜かれてしまいそうだ。同性の私もドキっとして心拍数が跳ね上がった。
私はイリスさまの侍女になったのは。イリスさまのことが知りたかったから。イリスさまは事前に調査された令嬢としての振る舞いや知識は申し分なく、周囲の評判も高い。私が気になっているのはご性格である。普段の様子をこっそり確認したい、と周囲に無理を言って、私は侯爵家に潜入することができた。
妹たちがウィル兄さまと呼ぶウィリアムはこの国の第一王子であり、現王の血を継いでいる唯一の男児。将来は王位を継ぐ予定のウィル兄さまは、真面目な性格で教育係からも王位を継ぐのに申し分ないと言われている。ウィル兄さまは22歳で、一般的には結婚しているのも普通と言われるくらいの年齢で、国民の間ではウィル兄さまが誰と結婚するのか話題になっている。そろそろご結婚を…と周囲からもせっつかれているが、本人や両親がのんびりしているのかいまだ婚約者すらいない。
ウィル兄さまが結婚する相手は自分の義姉になる。兄の立場上結婚できる相手は爵位なども限られていて政略結婚になってしまうが、できれば兄には幸せになれる相手と結婚してほしい。そしてできたら妹たちとも仲良くしてくれる令嬢がいい。それで私アンネリーゼと私の姉エレオノーレ、妹のオルテンシアは兄さまに1番お似合いな令嬢を推薦しよう!と考えた。お節介だとわかっているけれど王族の結婚は慎重すぎるくらいでいいとお父さまも言っていた。そこでお父さまとウィル兄さまにも許可をもらって、ウィル兄さまの婚約者候補として選出された令嬢たちの元にそれぞれがこっそり潜入することにしたのだった。
私アンネリーゼは侯爵令嬢イリスさまの侍女として潜入できるように手配してもらった。姉のエレオノーレは伯爵令嬢のカトリーヌさまの元へ。妹のオルテンシアも公爵令嬢の元へそれぞれ潜入しているはずだ。
2人ともバレずにうまくやれてるかな、なんて考えながらイリスさま付きの侍女見習いライフをスタートするアンネリーゼだった。
初日の仕事が終わり、イリスさまに下がっていいわよ、と言われて侍女としてあてがわれた部屋に戻ると、私の侍女として付いてきてくれたキアラが出迎えてくれた。
「お疲れ様でした、アンネリーゼさま」
「ただいまー、キアラ。全然疑われなかったと思う。あなたの化粧のお陰で私の顔、別人よ」
私、アンネリーゼもこの国内では顔が知られている。特に高位貴族たちとは間近で話をする機会があるし、兄の婚約者候補たちともお茶会で何度も顔を合わせているし、学年が違うとはいえ同じ王立学園に通っている。ということで、婚約者候補の令嬢たちの普段のありのままの姿を観察させてもらうには、私が王女だとバレてはいけない。それで、普段と違う髪色のカツラをかぶり、いつもと違う化粧をして、話し方もいつもと違うように話すようにして、姿勢も意識して少し変えて、侍女として潜入した。
「それはよかったです。それで、今日のイリスさまのご様子はいかがでした?」
「それがね、すっごく可愛らしくて素敵な方だったの!侍女にも優しくて暴力もないし嫌味も言わないし、理不尽な要求もしないし、すごく控えめな方で、可愛らしくて、可憐な御令嬢ってイリスさまみたいな人のためにあるような言葉ね!」はしゃぐ私をよそに、
「アンネリーゼさま……暴力を振るわないのは淑女であれば当たり前なのでは」キアラはそっけなく言葉を返してくる。
「でもでも、時々外面がすごーくよくて、侍女を酷く扱う人もいるらしいじゃない?イリスさまが万が一そのような方だったらいけないからこのお屋敷の当主さまと執事長と侍女長以外には秘密で今ここにいるんじゃない」
「それはそうですが」
「まーでも、今日は初日だし私は侍女長に仕事内容を教えてもらったりして、あまりイリスさまのお部屋で控えている時間がなくて、ご性格を見極めるまではできなかったわ。お兄さまにおすすめするにはもっと様子を見てからね」
そう言った後にキアラの顔を見たらすごーく微妙な顔をしていた。
「何か言いたいことがあるの?」
「……やる気がすごいですね、と」
「だってウィル兄さまの幸せがかかってるんだよ!気合も入るって」
「ですが、見方を変えればたかがご兄弟の結婚です。アンネリーゼさまがこんなに行動されるほどのことでしょうか」
「たかが、じゃないのよ。ウィル兄さまは大切な人なんだから幸せでいてもらわなきゃ。私ができることならなんでもするわよ」
「……そうですか」
キアラがこっそりため息をついたのがわかったけれど、私が侍女のマネゴトをしているのに呆れているだけかな、と気にしないことにした。
それよりも、私以外の姉のエレオノーレと妹のオルテンシアはどうしてるかな。潜入前にそれぞれの侍女に侍女としてに振る舞いを教えてもらって練習して、公務や学習時間のスケジュールを調整して作った時間を利用している。
つまり潜入期間が長くなるほど自分の果たすべき公務がどんどん積み上がっていってしまう。出来るだけ短期決戦で見極められたらいいな……。
そんなことを考えながら私はイリスさまの侍女として用意してもらった部屋のベッドに潜り込んだ。城の自室のベッドと違う肌触りの寝床が気になったのもつかのま。慣れないことをして思っているより疲れていたようで、あっという間に眠りについた。
イリスさまの侍女として潜入してから一週間後。初めての休みの日に私は王城へ侍女のキアラと共に戻った。
「エル姉さま!シアも!2人とも早いわね」
私の自室に入るとすでに姉のエレオノーレと妹のオルテンシアがソファでくつろいでいた。
「アンがのんびりしてるんじゃない?」
鷹揚に笑うエレオノーレ、エル姉さまは私と同じ16歳。同じ歳とは思えないくらい落ち着いた淑女だ。
「私、早く姉さまたちの話が聞きたくてうずうずしてるのよ!キアラもお疲れ様。隣の部屋で私とエル姉さまの侍女がお茶を用意して待ってるからゆっくり休んでて」
オルテンシア、シアは1つ歳下の15歳だけれどなかなかのしっかり者である。休憩しててねと声をかけるようでいてちゃっかり人払いをする。
キアラもわかっているようで「ではお言葉に甘えまして」と言って部屋を出ていった。扉の外に警備がいるから、セキュリティの問題はない。
音もなく閉まったドアの内側に残るのは3人のみ。
「じゃあ、早速。誰から報告する?」好奇心を隠さないシアの瞳がきらりと輝く。
「年齢順にエル姉さまからでどう?」
私が提案すると、いいわよーとエル姉さまが頷いた。
「私が潜入したのは伯爵令嬢のカトリーヌさまね」
そう言って話し始めたエル姉さまの話は意外なものだった。令嬢といえば基本的に家で過ごし、刺繍をしたり、読書をしたり、楽器を演奏したり、女主人としてやっていけるように家庭教師から学んだり、という感じで過ごすのが一般的だ。私の潜入先のイリスさまもそんな過ごし方をしていた。しかしカトリーヌさまは。
「バリバリ仕事をこなす女性よ。私、侍女は身の回りのお世話をするものだと思っていたのだけれど、この1週間私がやっていたのは翻訳」
「翻訳?」
「なんでぇ?」シアが素っ頓狂な声を出す。
「カトリーヌさまが働いているのがこの城内なの。外国との交渉をする部署だったんだけど、私が外国語を理解できるってわかったら、いろいろな外国語の書類を自国語に翻訳してほしいって言われて」
エル姉さまは近隣の国の言葉4ヶ国語をペラペラに操る才女だ。
「翻訳したものを使ってカトリーヌさまは城内のいろいろな部署に行って、そうね、提案したり交渉したり調整したり……とにかくほんといろいろやってて、目まぐるしい1週間だったわ」
ふう、と息を吐くエル姉さまの目元には化粧でも隠しきれないクマが見えた。激務の跡が残っている。さっきいつもより鷹揚に思えたのは単に疲れていたからなのかも。
「私、カトリーヌさまに使えるって思われたみたいで、あなたみたいな人とはぜひ長く一緒に仕事がしたいわ!ってイイ笑顔で言われたわ」
「おおぅ」シアがドン引きしている。
でも、エル姉さまなら納得する。
「エル姉さまは優秀だもの。王女じゃなくて城に使える文官とかだったら引く手数多でしょ。……それで、カトリーヌさまの肝心のお人柄はどうだった?」
そうねえ、とエル姉さまは言葉を選ぶように、
「非の打ち所がない方だと思うわ……文官の中では若い方だけど上手く上の人たちも立てながらそつなく仕事をこなしてた。侍女にも親切で休憩を取らせたり、甘いものを差し入れてくれたり立場が下の人たちにも優しいし……もしカトリーヌさまが皇太子妃になったら働く女性たちにいい影響が出ると思うわ。……でも、……」
「でも?」
何か含みがありそうなエル姉さまに話の続きを促してみたけれど。
「……わからないからもう少し様子見したいわ」
「まだ一週間だもんね」
「ええ」エル姉さまが頷く。
「じゃあ次は……アン姉さまの番ね。侯爵令嬢のイリスさま」シアが弾むような声で言った。
よし、私の番だ。語るぞ!
「イリスさまはね、もうすっごく可愛くて笑顔はもう破壊力がすごくて可愛くてハートがズキュンと撃ち抜かれたみたいでもうとにかく可愛くて、小柄で守ってあげたくて、顔が小さいのに目はもうぱっちりでまつ毛も長くてくるんとしてて、声も鈴のような可愛らしい声でもう視界に入ってるだけで眼福なのよ!」
一息で言い切ると、シアがポカンとした顔をしていて、エル姉さまは額に手を当てたポーズのまま固まっていた。
「えっと、イリスさまはとにかく可愛らしかったのよ。ご性格は控えめなんだけれど、いるだけで場が華やかになるって言うか……ねえ、聞いてる?」
「…聞こえてるわ」ため息のように呟くエル姉さま。
「…可愛らしい方なのはよくわかった。私もお茶会でお会いしたことがあるけど一際美少女だったわ」シアも頷いている。「それで、肝心の兄さまと合いそうかってところは?」
そこよね。
「すごくご性格も良い方だと思うし、控えめな方ででしゃばる感じはしないから良い感じに兄さまを支えてくださりそうだな、と思うし、あのお可愛らしさは民からも人気が出るはず……」
だけれど。ちょっと気になることもあるかな。
「アン姉さまも何か含みがあるねぇ」シアがツッコむ。
「ご本人の資質は申し分ないと思う。でもご本人が王太子妃や、ゆくゆくは王妃を望まれるかって言うと、ね?」
自分達がウィル兄さまの結婚相手を見定めることしか考えていなかったけれど。イリスさまと接してみて、イリスさまご自身が幸せになってほしいと思う気持ちがわいてきた。それに、今のところイリスさまが王太子妃になりたい!と思っているようには見えないのだ。
「そうよね。兄さまを望んでくださるか、よね」
エル姉さまもちょっと上の空でポツリとつぶやいた。カトリーヌさまのことを考えているのかもしれない。
「ふうん、そうなんだ。じゃあ最後は私の番ね。公爵令嬢のクリスティーヌさまだけど。私はダメだと思う」シアがさらっと言う。
「え?」
私はびっくりした。相手は王家が調査して合格が出ている令嬢だ。よほどの裏がなければ問題がない令嬢のはず。たった1週間でダメだと言われるなんてよほどの裏があるのかと構えてしまう。
「順を追って話すね。クリスティーヌさまは公爵令嬢で王家とも血筋が近くて顔を合わせることも多いから、本人の侍女だとさすがにバレちゃうかなーと思って、私は侍女長に付いている見習いと言う身分でちょっと離れたところから見てたの。でも、遠巻きでも本人を観察できたし、クリスティーヌさま付きの侍女の報告は侍女長に上がってくるから、クリスティーヌさまの話はしっかり聞こえてきたよ」
どんな話だろう?
「話を無闇に漏らさないって約束してもらえる?」
私とエル姉さまは顔を見合わせた。と同時に頷く。
「もちろん」
「そもそも婚約者候補のところに潜入してるのも出来るだけ秘密にしてるんだし今更よ」
私の言葉にシアはそれもそうね、と言って、
「じゃあ言葉を選ばずにいうと、壊し屋」
コワシヤ。
壊し屋と公爵令嬢。言葉が結びつかない。エル姉さまと顔を見合わせる。エル姉さまは首を振った。
「……ヒステリーで物に当たっていろいろ壊すってこと?」なんだか怖そう、と思って恐る恐るシアに尋ねる。
私の言葉にシアが焦り出して、両手を広げてぶんぶんと横に振った。
「ち、違うの!クリスティーヌさまは全然悪気がないの!物に当たって壊すんじゃないの。クリスティーヌさまが使ってると壊れちゃうの!雑に扱ってるわけじゃないみたいなんだけど、お茶をしてたらティーカップが割れるし芸術鑑賞をしたらうっかりよろけて展示品の壺を割るし、歩いているだけでドレスが破れたりヒールが折れたりシャンデリアが落ちてきたりするのよ!これ、この1週間で起きた出来事だから、全部」
「うわぁ」コメントが出ない。下町の言葉をつかったら「マジか」って言ってる。
「俄には信じられない話ね……ワザとではないの?」エル姉さまは訝しげだ。
シアが頷く。
「ほんとよ。ドレスが破れたのとティーカップが割れたのは私の目の前で起きた事よ。廊下でビリって音がしたらドレスが破れてて、侍女の持ってた箱にドレスのレースを引っ掛けちゃったみたいなの。それが引っかかったのがレースだけかと思ったらでドレスの下まで破れて脚が見えてしまって着替えに戻ったり、ガゼボでお茶をしててぱりんって音がしたらカップが床で割れててクリスティーヌさまの手にはカップの取手だけ綺麗に残ってたの」
状況を想像してそんな喜劇みたいなことが起こるのかと思いながら、わざとそんな事件を起こす方が難しいな、と思い直す。
「ほかの話は侍女長にや侍女に聞いたんだけど。クリスティーヌさまについている侍女たちみんながいろいろ壊れないように気をつけてるのにいつも何かハプニングが起こってしまって、シャンデリアだって定期的に点検してるのになんで落ちてくるの!?って言って侍女の1人は心労で熱を出して寝込んでしまったわ」
「それは…大変ね。すごくトラブルが起きているようだけれど、クリスティーヌさまはお怪我とか大丈夫なの?」エル姉さまは壊れた理由よりご本人の身が心配になったようだ。
「それね。不思議なことにご本人は無傷。周囲は片付けに追われてたけど」シアも片付けに参加したけれど、原因のようなものは全くわからなかったそうだ。
「もしクリスティーヌさまが王族になったら支えてくれるみんなの気が休まらなそう」私はクリスティーヌさまが王城に嫁いできたら、と想像する。
3人ともなんとなく天井を仰いだ。そこには小ぶりだけれどシャンデリアがある。メンテナンスを欠かさないのにあれが落ちてくるって……
「ご本人の責が無かったとしてもそういうことなら推薦できないわねぇ」エル姉さまはあっという間にクリスティーヌさまを候補から外すことに賛成した。私も同意する。
「じゃあ3人の総意でクリスティーヌさまはオススメしないって事でオッケー?」
シアが確認し、3人で頷いて合意したところで部屋のドアがノックされた。
今この部屋には侍女がいない。私の部屋なので私が応対するしかない。ソファから立ち上がり閉まっているドアの前で返事をすると、王妃ゲルトルートの来訪が告げられた。
「お母さま!」
シアがソファから急いで立ち上がりドアを開けた。そして勢いそのままにお母さまに抱きつく。
「シア、おはよう。アンもエルも揃ってるのね」
お母さまは室内を見渡して、
「今日はみんな戻って来てるって聞いて来てみたわ。あ、貴女たちは休憩してて」
最初は私たちに、最後は侍女たちに声をかけた。お母さまも侍女たちを遠ざけるつもりのようだ。
お母さまに抱きついたままのシアが、
「私たちの侍女は隣の部屋で休憩してるわよ」
と言うと、侍女たちは私の部屋に入らず隣の部屋へ向かった。扉を閉めれば残るのは4人。
お母さまは茶目っ気たっぷりの笑顔で微笑む。
「さあ、私にもじっくり話を聞かせて?」
「今の状況はわかったわ。クリスティーヌさまのことはよく今まで噂にならなかったって感心したわ。きっとまわりが上手にフォローしてたのね。優秀な人たちがいるのね」
私たちの話を一通り聞いた後のお母さまの感想である。
クリスティーヌさまの周囲が優秀だと発言したお母さまだけれど、この人自身がとても優秀な人だとわたしは知っている。
お母さまは現王の後妻だ。現在の王太子、第一王子であるウィリアム兄さまを産んだ女性は体が弱い人で、兄さまが3歳の頃亡くなった。王の子供が1人では万が一のことがあるといけないと王が再婚相手に選んだのがゲルトルート王妃だ。男児を産むことを期待されてたもの、生まれたのは女児。さらにオルテンシアを産んだ後、王妃自身が次の子を産むことが出来なくなってしまうトラブルに見舞われる。王女もいることだしまあいいか、というムードになっている周囲の状況を良しとせず、お母さまはみんなが驚くような行動に出た。
現王の、つまり夫の親戚筋から4歳にして天才児という評判の双子を養子に迎えたのだ。お母さま曰く、
「すでに血のつながらない子供たちを育てているんですもの。少し増えたところでなんてことないわ」
だそうだ。
国内は平和だが、王族が激減していた。基本的に王位は王子が継ぎ、王女は政略結婚で降嫁したり国外に嫁いだり自国の王族ではなくなることが多い。そうなると王女が多くても嫁いでしまえばまた王族が減ってしまう。それでお母さまの無茶振りとも言える行動にも大きな反対は起こらなかった、らしい。
時間が経過し、現在は第一王子ウィリアム22歳を筆頭にエレオノーレ16歳、私アンネリーゼ16歳、オルテンシア15歳、双子は14歳、と子供たちも全員すくすくと成長している。
お母さまがすごいのは、自分と血のつながらない子供たちも疎まず贔屓せず、上手に子育てをしているところだと思う。わたし自身、兄妹間のあからさまな贔屓を感じることがなかったし、何より兄妹みんな仲良しで、言いたいことを言い合える仲だ。こんなに平和な家族は滅多にいないのではないかと思うほどのいい家族だと思う。このような家族になれたのはお母さまの努力が大きいはずだ。
つまり、ウィル兄さまはすでに温かい家族というものを知っている。そんな兄さまが政略結婚で夫婦仲が冷えた家族を望むはずがない。
「アン、ボーッとしてるわよ。悩み事でもあるの?」
肩を叩かれた方を見ると、優しい表情のお母様がいる。
「考え事してただけ。兄さまには幸せになってもらわないと、って」
「そうね」エル姉さまは鷹揚に頷く。
「イリスさまやカトリーヌさまもいい方だと思うんだけれど、エル姉さまみたいなタイプの人も兄さまに合うかもね」
いきなり話に出たのがびっくりしたのか、エル姉さまが目を見開いた。
「私!?……血が近すぎて無理でしょ」
この国は近親婚が禁止されている。2人とも父親が王。つまり異母兄弟なのだけれど、異母兄弟は血が近すぎて婚姻できない。
「姉さま本人じゃなくてエル姉さまみたいな人、だってば。おおらかで器が大きい感じの人」
「アンだっておおらかで結構器が大きいと私は思うけどー」ジトっとした目線のエル姉さま。
ほめられている気がしないんですけど。
「そうかなあ?エル姉さまには負けるわよ。それに姉さまは頭もすごくいいし」
「アンだって平均以上の成績取れてるわ」
「まあまあ2人とも」
掛け合いにお母さまのストップがかかった。
「今すぐ結論を出すんじゃなくて、イリスさまやカトリーヌさまの様子見にもう少し時間をかけるんでしょう?まずはそのお二人の結論を出すこと、これが優先よ」
お母さまがそう言って締めた。
シアはもう見極めは不要とクリスティーヌさまのところへ行くのはやめて、成人前の王族の教育プログラムを受けるいつもの過ごし方に戻るらしい。私とエル姉さまはそれぞれイリスさまとクリスティーヌさまの元へ戻ることになり、また1週間後集まる約束をして解散した。




