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三人よれば三倍パワー

『覚悟はよろしくて?』


 うん、何が何やら。俺の身体の主導権持っていかれてるし口調はユーイーだしこれはもうあれだな、乗っ取られた。


『ちょっと待て、説明をしろ』


 あ、喋れた。100%支配されたわけじゃないんだな。


『良いからイー姉様に黙って使われなさい、それ以外にやることはないわ』


 さっきのはユーホだな? 三人分を一人の身体にぶち込んだ状態ってのはなんとなく分かったぞ。でもそれでクダンとリチョウに勝てるのか。


『この三乗体(レヒスラシオン)に死角はありませんわ』


 本当かよー、今はあいつらも警戒して近づいてこないがもう少しで攻撃仕掛けてくるぞ多分。


「これはこれは面妖な、しかしそれがどうしたというのです。もう一度跳ね飛ばせば脆く砕ける程度のものでしょうな」

「ガル」

「リチョウ殿の言う通り、これは一種のまやかしに過ぎません。我らにかかればただの風の前の塵に同じというものです」


 なんでちょっと雅な言い回ししてんだこの牛、でもまあ実際こいつらの連携とか悪夢でしかないのは身をもって経験したばっかりだ。


『見えてますわ』


 さっきと同じようにリチョウが消えた、俺にはさっぱり分からないがユーホには見えているらしい。


『ですがここはあえて無視します、本命はあちらの牛のようですから』


 リチョウを無視!? そんなのありえない、あいつが最強なんだぞ、放っておいたら秒で体力が消し飛ぶ化け物なんだ。


『だからこそですわ、致命傷を与えてきたのはわたくし達の時もあの牛でしたのよ』


 まさか、あえて最強のカードを囮に使ってるとでも言うのかよ。そんな頭脳戦するわけ、いや、それこそ思い上がりか。今目の前にいるのはNPCじゃねえ、れっきとした生きた存在だってことか。


「ガル」


 正面!? いきなり現れやがった!?


『目障りでしてよ、這いなさい』

「ガッ!?」


 地面にリチョウが叩きつけられた、どういうことだ何もしてないだろう。


『ユーちゃんが魔法を使う感覚はこんな感じなんですのね、まさか息をする様に魔法を使っているなんて。少しだけ嫉妬してしまいますわ』


 ユーホの魔法? 今の状態なら三人分のスキルを使えるのか。


『でもこの重力魔法はわたくしの知識でしてよ、ツァラトゥストラで覚えた空間魔法の派生です』


 マジかよ、新しい魔法覚えるのとかそんな簡単にできるなら俺も覚えたい。まあ無理っぽいけど。


「リチョウ殿!?」

『あら、揺らいでますわね。それほどまでに信頼していたとは驚きですわ』


 一歩でクダンの目の前まで跳躍する、この動きは俺のドーピングの効果だろうな。そうじゃなきゃ俺の身体でこんな芸当はできない。


『捕まえましたわ』

「ぐっ、その細腕で何ができるというのです。今すぐはじき飛ばしてやりましょう!!」

『いいえもう終わりです、貴方が生き物ならばこれには絶対に耐えられませんもの』


 生き物なら絶対に耐えられない? なんだ、何をする気なんだ? 毒か? 電気か? それとも血流でも逆転させるのか?


『その命、自らの摂理で終わりなさい』


 え? 自殺させようとしてるの? 洗脳魔法でも作ったのか?


「う、ぐ、なに、を、した」

『身体が自死する周期をただ早めただけですわ』


 なんかすげえ勢いでクダンがシワシワになっていってるんだけど、もしかしてだけど細胞の自死機能を活性化させたとか言っちゃう? そんなことできんの魔法。


『ツァラトゥストラの機器は最高でしたわ、おかげで色んなことが分かりましたの。特に身体のことなんて詳細に』


 おおう、マッドなサイエンティストの素質が開花したのか。この世界でサイエンスが通用するかはかなり疑問だが。


「まさか、こんな、ことが、申し訳ありませぬ主様、余はここまでのようです、リチョウ殿、先に逝くことを、お、ゆ、るしくださ、い」


 ついにクダンが倒れ伏す、こいつの魔法と肉弾の合わせ技を使わせることもなく倒せたのは幸運だったな。あとはそこで這いつくばってるリチョウを同じ技で倒せばおしまいだ。


「クダン、ご苦労であった。我もいずれそこへ行こう。しばし待たせるが許せ」


 お前も喋れんのか!?


「ガァッ!!」

『きゃっ!?』


 リチョウが咆哮で魔法をかき消した、確かにそんなスキルも持ってたような気もするが。今まで使わなかったのはなんでだ。


「よくぞクダンを倒した、褒めてやろう。だが、それゆえに我を解き放つことになったことを悔やみながら死ぬがいい」


 クダンの亡骸を喰ってる? 捕食か、ということはつまりクダン+リチョウとかいう化け物中の化け物が誕生することになるぞ!?


「ガァアアアアアアアアアアアアアア!!」


 くそっ、止められねえ!?


「我は寅、我は丑、丑寅すなわち鬼門なり。小さきものよ覚えておけ。悪路王の名を」

『これはなかなか、骨が折れそうですわね……』


 そこには鬼が立っていた、黒い角に白い牙、虎柄の腰巻をしているステレオタイプの鬼だ。名乗ったのを聞く限りアクロオウと言うらしい。


「いくぞ、クダン」


 アクロオウがクダンの食い残しに手を突っ込んで何か引き抜いた。それは凶悪なフォルムをした金棒だった。鬼に金棒とかいう事を言ったやつに共感する日が来るとは思いもしなかったが、とりあえず今は鬼に武器なんて持たせたら手がつけられねえってのは見ただけで分かった。


「さあ、一撃で死んでくれるなよ」




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