鬼退治
「がぁああああああああああああああああ!!!」
金棒の一振りで空気が爆ぜる、咆哮一つで魔法が砕ける、極め付きには詠唱でもなんでもないはずなのに魔法攻撃までも発動している。アクロオウと名乗って大暴れするこいつはまさしく鬼神というべき戦闘力を持っていた。
『いくらなんでもデタラメすぎですわ!!』
マジでやってらんねえ、強いとかそういう次元じゃないぞこんなの。災害にあってるのと同じだ。これはやりすごすほかねえ類の戦闘としか思えねえ。でもそれが明確に意思をもってこっちを殺しにかかっているという状況なんだよな。
『逃げ、るのが、精一杯で、反撃なんてとてもとても、できませんわ』
俺も同じ身体で見てるから分かる、少しでも気を抜こうものなら粉砕されるか魔法で押しつぶされるかどっちかの道をいくことになる。
『イー姉さまの魔法具でなんとかなりませんか!?』
魔法具? なんだそれ。
『気休め程度にしかなりませんわ!! それでも試してはみますけれど』
なんか手に出現したぞ、これはなんだ? 剣なのか?
『わたくしは魔法に形を与える方が得意でしてよ、それが有効打になるとは思えませんが。食らいなさい、魔法剣・炎牙』
剣の形をした炎がアクロオウに突き刺さる、刺さった場所は胸だから普通なら致命傷になると思うんだが、相手は普通じゃない。どれくらいの効果があるか。
「温い」
『ああっ、やっぱり効きませんわよね!!』
駄目か、それでも新しい要素は見つかったぞ。魔法に形を与えるのだとしたらさっきクダンを倒した自己破壊魔法的なやつをぶつければアクロオウでも倒せるんじゃないか。試してみる価値はあると思うんだが。
『ユーイー、さっきクダンにやった魔法をぶつけることはできるのか?』
『できませんわ!! あれは相手に直接触れている必要があります、今の敵にそれができるとは思えませんわ!!』
あっちゃあ、接触が必要な魔法だったのか。接触どころか接近さえも死を招く現状でそれは流石にリスクが高すぎるぞ。
「嗚呼、あかんよ、これはあかん。いくらなんでも鬼になったらあかん。璃蝶に件、あんさんらが頑張ってくれてはるのはよう分かったから。そんな姿になってしもうたら何のためにこの塔があるのか分からんくなってしまうよ」
女の、声? 誰だ、今の今までそんな奴はいなかった。それでもこの話し方は聞き覚えがある、俺を五獣の塔にぶち込んだトモエって奴の声だ。今はその姿が見える、黒い着物の上からマントのようなものを羽織った老女の姿だ。
「主、様? う、うおおおおおおおおあああああああああああああああ!!!?」
『なんですの!? 体がさらに大きく!?」
ここまで来たら巨人とかのレベルだな、巨大な鬼と化したアクロオウの瞳にはもう理性は欠片も見受けられない。
「ああ、やっぱり、最後の最後、自分が死んでからも戦い続けてくれてたんやねえ。だから混ぜられてしまったんやねえ。神さんの一部が埋め込まれて暴れてるみたいや、ごめんなあ。本当ならただの墓守のはずやったんやけど」
巨大アクロオウが起こした風によってマントが飛んだ。トモエの隻腕がそこで露わになった、確かに袖の片方はプラプラと揺れている。
「苦しいやろなあ、辛いやろなあ、でも安心してええよ。すぐに終わらせるさかい」
ただ自然体でトモエは歩いて行った、暴力の嵐と化したアクロオウに向かってなんの淀みもなく、なんの躊躇もなく、ただ歩いて近づいていった。一撃だって耐えられそうにない細い体で。
『何をしてますの!! 死んでしまいますわ!!』
「ほほ、自分の心配をしてくれはるなんてやさしいお嬢さんやねえ。でも大丈夫、ちょっとだけ待っててなあ」
異形と化したアクロオウの腕がトモエに叩きつけられる、駄目だ。きっと数秒後には潰れたトマトみたいになったトモエが。
「やんちゃやねえ」
いなかった、何をしたのかは全く分からなかったが。とりあえずさっきの一撃は躱したみたいだ。でも避けたどころか動いてさえいなかったような……
「遊んであげるのもいつぶりになるやろか、寂しい思いさせたなあ」
一歩、また一歩とトモエは近づいていく、攻撃には晒されているはずなんだがそのどれもがトモエを傷つけるには至らない。何かの対抗策、もしくは魔法的なものがトモエにはあるようだ。
「次郎と太郎、悟空に八咫、そんで璃蝶に件。皆それぞれに色んなもん抱えとったけど良い子たちやったねえ。悲しませてしまったのはほんに申し開きもできひんことやけど」
トモエの足が止まった?
「そんな姿にするために、自分は首落としたわけやない」
一瞬、トモエに何かが重なったように見えた。
「ほい、終いや」
何かものすごいことが起こった、それだけは分かる。いや、それくらいしか情報を拾うことができなかった。いつの間にかトモエは刀を納める形になっていた、そしてアクロオウはもとの虎の形に戻っていた。
「予定が狂ってしもうてえらいすみませんねえ、自分がトモエです。ここまで封印解いてくれてありがとうなあ。最後の助太刀はこっちのケジメやさかい、気にせんといてな」




