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はじめてのまほう

「頭がガンガンする」


 頭痛とともに目覚めるのがここまで苦痛だとは思わなかった、二日酔いってのもこんな感じなのか? 飲まれるほど飲んだこともねえからこれが初だな。


「んで、この状況はなんだ?」

「あ、起きたね。実は君が倒れるときにちょっとしたことがあってそれで今プラチナちゃんとティーアちゃんがバトルしてるところ」

「なるほど分からん」


 確かに二人がインファイトしてるのは見えるが、いったい何があったって言うんだ。そこそこの殺し合いだぞこれ。


「覚えてない? 倒れるときにプラチナちゃんが膝枕してほっぺにチューしたんだけど」

「ああ、あの感触はそういうことだったのか。それでティーアがキレたと」

「いや、そこまではまあ良かったんだけど。そこからプラチナちゃんが興奮しちゃって」

「しちゃって?」

「君が犯されそうになってたから流石にティーアちゃんがグーパンで止めに入ったんだ」

「グーパン」

「そう、見事なもんだったよ。彼女拳闘士の素質あるって絶対」

「まあ、それは否定できない」


 素の俺よりはたぶん強い、たぶんじゃねえな、絶対強い。ヒーラーっていうよりモンクだもんな現状。


「流石にプラチナちゃんでも許しませんから!!」

「少しくらいあてが食べてもご主人様は許してくれるもん!!」

「レヒト君が許しても、獣の道理が許しても、私が許しません!!」

「独占欲の強いメスはオスに捨てられるんだからね」

「なっ!? それなら性欲が強すぎるメスだってうんざりされるに決まってます」

「子作りは大事だってかかさまが言ってたから大丈夫ですぅ!!」


 うん、なんか聞いちゃいけない類の争いをしているね。そんな風に話しながらなんでそんなにハイレベルな殴り合いができるのか俺には疑問しかないよ。


「いやでもティーアが拳闘の才能があったとしてもプラチナと殴り合えるのはちょっとできすぎじゃないか、ティーアはそこまで戦闘向きじゃなかったはずなのに」

「ああ、それはあっちを見れば分かるよ」

「あっち?」


 あ、ユーホが魔法かけてるわ。この世界のバフがかかってるなら何と殴り合っててもなにも不思議じゃないな。それくらいバフの力は凄まじいんだ、もちろんそれはフルカスタムのバフの場合っていう但し書きは付くが。


「最初はティーアちゃん劣勢だったけど見かねたお姫様が身体能力を同じくらいまで上げてね、そこからはいい感じの勝負になってきたんだ」

「いや止めろよ」

「あんなの、君以外に止められるわけないじゃないか。馬に蹴られて死ぬのは御免だよ」

「はいはいそうですか、じゃあ止めに行きますかね」


 こんなところでケガなんかされちゃたまらない、仲間割れで大ダメージとか混乱中でもないのに起こしてたまるか。


「勝負がつきませんか、肉弾が駄目なら魔法しかないですね」

「強くなったあての技に勝てると思ってるなら今のうちにやめておいた方が良いと思うけど?」

「待て待て、そんな風に撃ち合ってもなんも良いことわぁ!?」


 プラチナに引っ張られた!? 勢いがありすぎてとても止められないぞこんなの。


「これがあてとご主人様の愛の力!!」


 むりやり握られた手からなんか吸い上げられてる気がするんだけど、なにこれ、めっちゃ疲労感が襲ってくるのは何、何をされてるの俺。


狐約魔法こんやくまほう・狐の婿入り」

「なんだこりゃあ!?」


 俺の手からバカでかい金属の槍みたいなのが飛んでったんだけど!? ていうか何魔法って言ったんだ今、かなり無理のある読み方しなかったか?


「やっべ、ティーア避けろ!! 死ぬぞ!!」

「むっふっふ~、これがあてとご主人様の愛!!」

「ばっかお前!! ティーア殺す気か!!」

「え?」


 勝ち誇ったプラチナの拘束が緩んだ隙を突いて駆け出す、着弾した場所には煙が舞っててよく見えない。ティーアに直撃してなきゃいいんだが。


「ティーア!! 無事か!!」

「なん、とか、ギリギリだったけど」

「大丈夫か!!」


 倒れているティーアの状態を確認した、一瞥した限りでは特に大きな傷はない。ステータスを確認しても体力は多少減っているものの大事には至っていないことが分かる。


「レヒト君、近くに」

「どうした、どこか痛むか?」

「ちょっと目を瞑っててくれる……?」

「お、おう。こうか?」


 なんで俺が目を瞑る必要があるのかは分からないが、ティーアがそういうなら必要なことなんだろう。きっとなにか重大なことに違いない。


「婚約魔法・私と貴方の甘い毒(トキシックスイート)

「んむっ!?」


 何かやわらかいものが口に!? 口をこじ開けてなんかヌメヌメしたものが入ってくる!? なんだこれものすごい甘いぞ!? あと脱力感が凄いんだけどまたなんか吸われてるのか!? まだ目を瞑っていないと駄目なのか!?


「ぷはぁっ、ありがと。元気出た」

「頭が追い付いてない、今のは何が起きたんだ。あと目を開けても良いか」

「うん、もういいよ。あとちょっとで終わるから」

「終わる? 何が」

「秘密」


 ゆっくりとティーアがプラチナに向かって歩き出していた、肉弾戦の続きでもするのか?


「プラチナちゃん、終わらせましょう」

「望むところ!! コーン!!」


 プラチナが獣の姿に戻って攻撃をしかけた、拳闘はあくまで対人の技術のはずだからティーアが不利になったのか。


「あれ?」

「ふふふ、いい子いい子」

「キューン……」


 なんか、プラチナが仰向けなってピクピク痙攣してるような。なんかもうティーアに撫でられるままになってるぞ。


「毒なんて効かないと思っていたでしょ? 残念、レヒト君の体から作る毒はそんなの関係ないの」

「キュ~」

「今俺の体から作る毒って言った? 聞き間違いであってほしい」

「言ったよ? 私の体からも作れるけど混ぜた方が効果が高いの」


 聞き間違いじゃなかった、ジーザス。


「これが私の婚約魔法、ただ大きくて硬いだけが強いってことじゃないのは分かった? これでも狩人の娘なんだから、狐に負けてられないの」

「く、くそ~、うごけなひ」

「うふふふふ、動かないプラチナちゃんも可愛いよ?」

「おのれ~」


 とりあえず質問が一つ。


「婚約魔法ってなに?」













 


 




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