黄金郷ツァラトゥストラ
ツァラトゥストラのセフィロトに行くために歩いてるわけだが、これがちっとも近づいて来ない。まるで無限回廊にでも迷い込んだ気分だ。
「いや、いくらなんでもおかしいだろ」
「うん、そうだね。ずっと見える距離と動いてる距離が合わない。つまりはずっと同じところを歩いてるってことになるよ」
「お前、背中ではぁはぁしてるだけじゃなかったんだな」
実際結構うるさいだなこれが。
「これでも動いてない分働いているよ、これの原因はそっちのお姫様の方は分かるんじゃないかな?」
「そうですわね、音に聞こえしサバトグランの空間魔法に違いありませんわ」
空間魔法? なんだそれ、そんな系統の魔法存在してたか?
「イー姉様、そんな魔法知らないです」
「そうでしょうね、廃れて久しい魔法ですし。どんな風に使われていたのかも今は分かりません。記述として残るのみですわ」
「でも魔法なんでしょう?」
「ええ、魔法ならユーちゃんに使えないものはありませんわ。正体が分かれば何ということもないものです。さあ壊してしまいなさい」
「うん、やっちゃうよ!!」
ユーホが両手からバチバチと雷のようなものを発生させている、あれで空間魔法とやらを破るのか?
「開け、全ての門は無意味」
なんか地面ぶっ叩いたけど!? 空間魔法だよね、土属性じゃないよね、ただの環境破壊じゃないこれ。地面が砕けてるんだけど。
「うおっ、なんだこれ」
「空間魔法と申しましても位置の指定にはどうしても礎が必要ですわ。礎なくして魔法の成立はありえないんです、ですから手っ取り早く礎を破壊したまでのこと」
解説どうもありがとう、じゃなくて。
「景色が歪み始めた」
「これからツァラトゥストラの真の姿が見えるってことだよ。まさかこんな風になっているとは思いもしなかったけどね」
歪んだ景色はやがて形を取り戻した、それは逆再生のようで。目の前には豪華絢爛の宮殿がそびえ立っていた。
「おいおい嘘だろ、サバトグラン滅んでねえじゃねえか」
「驚いたね。まさかここまでとは」
息を飲むほどの街並みだった、イメージとしてはアラブ系の王宮みたいな。
「ご主人様何か近づいて来るよ。金属と油の臭いが強いみたい」
金属と油? そんなのまるでロボットでも近づいてきてるみたいじゃないか。そんな敵は存在しない、それなら味方だろう。
「ぐっ!?」
着地というか、着弾と表現すべき音が響く。距離としては俺の十メートルほど前か。相当重いものがすげえ速さで飛んできたみたいだな。衝撃が全身を震わせやがった。
「問おう、汝らの来訪目的はなんだ。返答によってはこの場で処断する権限を行使させてもらおう」
変な声だな、合成音声のようだ。感情も抑揚も弱い。それに所々ノイズが混ざる。
「当方の要求に応えられたし」
「ロボットじゃん!!」
金色のずんぐりむっくりとしたボディに機関砲らしき右腕、左腕は人の腕を模した形のなっているが角ばっている。そして赤く光るモノアイ、完璧にロボットだこれ。
「ロボット? 当方の名称は金機兵だが」
「グレダ、あなたグレダっていうのね!!」
「当方の名称を繰り返す意図を把握しかねる」
おおっと、思わず森のでっかい妖怪に出くわしたみたいな反応してしまった。金色のロボットとかかっこいいに決まってんじゃんか、しかもこの無骨なデザイン。作ったやつは分かってると言う他ない。
「して、目的は」
「ツァラトゥストラの観光に来たんだ、そうだよね?(ここは僕に合わせて)」
グリンの発言の意味はよく分からないが、これが正しい回答かどうかはグレダの反応ですぐに分かった。
「おお、これは素晴らしい。我らが黄金郷をどうぞ存分に楽しんでいってください」
「うん、ありがとう」
一気に友好的になったな、無理やり入ってきた奴らへの対応にしてはかなり変だと言わざるを得ない。これって普通なら一旦捕まって取り調べコースじゃないのか?
「さっき君はサバトグランが滅んでいないって思ったみたいだけどそれは違うんだ。サバトグランはきっちり滅んでいるよ」
「いやでも」
こんな街が残っていて滅んでるってのもおかしな話じゃないか。
「ご主人様、この街からは人の匂いがしません。全部目の前の木偶と同じ匂い」
「それってまさか」
「そう、ここにいるのは全部この兵のようなものだけ。人間は一人だっていやしない」
「なんでそんなこと分かる、一人二人いるかもしれないだろ」
「分かるさ。だって」
悲しそうな声、今にも泣き出しそうな。
「滅ぼしたのは聖人達だからね。老若男女関係なく、根こそぎさ。だから、ここはもう滅んでいる」
今はそれを悔いているとでも言うのか? 聖人だった頃は自由意志なんてほとんどなかっただろうに。
「作られたもの達によって維持される半自動的な偽りの繁栄、それが今のサバトグランの全てなんだ」




