十番目の聖人 グリン・グラ
「身体、戻してくれて、ありがとうございます!!」
「はぁ、嬉しそうで何よりだけど」
水の身体から生身に戻ると一気にただの人になったな、長い黒髪に中性的な顔だ。やっぱり聖人っていっても神の操り人形は嫌だったのか?聖痕の記述を真実とすると相当キツかったみたいだが。
「僕は、グリン・グラ。さっきまで聖水という名前の聖人だった」
「知らない名前だ」
マジで聞いたことねえ、つうか聖人に名前あったのかよ。
「君を殺そうとした僕をどうして救ってくれたのかは知らない、それでも僕は救われた。それに報いたいと思う」
「お、おう」
やめて。そんなキラキラした目で見ないで。別に情けをかけたとかじゃないんだから、ムービーの都合上で生かしてるだけだから。
「あなたを信用する理由がありませんね、次の瞬間にまた聖水に戻る可能性がないとは言えません」
「そっちはイヴのお姫様だね、確かにその通りだ。僕はどうしたら信用してもらえるのかな」
「信用に足るものを差し出してもらいましょう、なにを渡すかはあなたの判断に任せます」
「なるほどね、じゃあこれを捧げようかな」
え? ちょっ!? 躊躇いなく眼に手を!?
「待て待て何を取り出そうとした!?」
「眼だけど、要らない? その目見えてないと思ってたんだけど」
「要らねえ!! それにきっちり見えてるから」
「そっか、じゃあどこか悪いところはある? 僕の身体ならどこでも好きなところをあげる」
「今の所悪いところないんで遠慮します……」
「困ったなあ、じゃあ何をあげればいいか」
思った以上にクレイジーだぞこいつ、身体を貰っても困るだけだ。
「あとはこれぐらいしか」
「ん? なんだそれ」
「これはただの宝石だよ、魔法使いなら有用かもしれないけど君は使えないみたいだし要らないでしょ」
「それでいい、ユーホもこれでいいよな!?」
「え、ええ。身体を差し出す覚悟はあるようでしたしその宝石も聖人の影響を受けたものなら爆弾代わりにはなるでしょう」
流石にユーホも即決で身体を抉ろうとするとは思ってなかったみたいで少し引いてるわ。
「良かった。それじゃあセフィロトまで行こっか」
「セフィロト?」
「うん、あれは神の触覚みたいなものだからね。あれを折れば少なくとも僕みたいにいきなり襲われるってことはなくなると思うよ」
セフィロトを折る!? そんなことしたらエンディングの条件が、いやまずもって俺の知ってるストーリーとエンディングをなぞったら神を倒せないから折るくらいで良いのか?
「それ以前に俺の知ってるストーリーを進行させちゃ駄目なのか」
そうだ、ゲームの時のストーリーをなぞるならそれは裏ボスである先代魔王ナックルを消滅させるまでの道のりってことになる。それは神の一人勝ちを意味するんじゃないのか?
「そうか、そういうことか」
神がなんで直接ナックルを消さずに封印にとどめているのは分からない、でも今の目的がニケによる反逆者の抹殺だとしたらそれを止めなきゃならない。
「ニケが完成するまでに止められれば良いが」
「ニケちゃんがどうかしたの?」
「あいつが多分最大の障害になる、それくらいあいつの潜在能力はとんでもないんだ」
「戦うの? ニケちゃんと?」
「そうなるな、できれば平和的に解決できれば良いが」
少なくとも正式な旅立ちは二年、いやもう一年半後くらいか。ニケと殴り合える方法を用意しておかなくちゃいけないな、あいつはバフをかけまくってどんな魔法よりもダメージを出す奴だ。生半可な強化だと正面から殴り殺される。
「できれば優しくしてあげてね」
「俺が殺されなかったらな」
「もう良い? じゃあ行こうかセフィロトまで。あ、僕は長く歩けないから誰かおぶってくれると嬉しいな」
「マジで?」
「うん、マジで。少しならいけそうだけどやっぱり痛いからね。それでも無視して歩けるとは思うけどいざという時戦えないと困るから」
あまり重そうでないのが唯一の救いか、きっと俺が背負うことになるんだろうな。
「置いていく訳にもいかないからな、ほら乗れよ」
「あはは、ごめんね」
思った以上に軽いな、これなら全然いけそうだ。
「温かい、それにちょっと硬いんだ、久しぶりだなあ。これが人の身体だったね」
「っ!?」
なんかぞくりとしたぞ、なんだろう凄く不穏な感じがする。開けてはいけない扉がゆっくりと開けられているかのような。
「はぁ、はぁ、うふふふふふ」
「落としても良いか」
「駄目だよ、セフィロトの扱い分からないでしょ?」
「くそっ」
厄ネタだったかなあやっぱり、イベントとかムービーとか無視したほうが良かったかもしれん。
「ねえ、グリンさん」
「なんだい?」
「見逃すのは三回までだからね」
「わ、分かったよ気をつけるね」
今のティーアの顔が見えない位置で本当に良かったと思う、きっとこの世のものでない顔をしているに違いない。
「ぐるるるる」
「オリハル狐もそんなに威嚇しなくて良いから、ご主人様を取ったりしないよ」
「ガウ!!」
あ、噛みつきやがった。
「痛い!? 痛みも久しぶりだけども!?」
「あんまり背中で暴れないでくれ」
セフィロトまで着くのは先になりそうだ。




