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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第二部 陰陽干犯篇
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4.大枝王と銀王-3

 大和建の同母弟の神櫛(かんぐし)王が率いる一行は、いよいよ伊勢に着こうとしていた。

「長かったなぁ。」

「今日でまだ4日目だけどね。」

 王族たちがそんな雑談をしている。

「行こうと思えば大和から伊勢まで一日で行けるんじゃないかなぁ。」

 大枝(おおえ)王も呟いた。

「い、いや、さすがにそれは無理ですよ!」

 従者がツッコミを入れる。

「そうそう、しろちゃんとかまた置いていかれているし。」

 五百野(いおの)王も同調した。

「・・・(しろかね)王には3泊4日で伊勢に行く行程はきつかったか。」

「そのようですね。」

 大枝王と五百野王がそう会話をしていると、

「私としては充分に休憩を取れる日程にしたつもりなのだが・・・って、そんな問題ではないか、可愛い妹の一人が置いていかれているのかね?」

 神櫛王が話に入ってきた。

「大丈夫です、いつものことです。また皆さんが夕食を食べる頃には合流します。」

「いや、五百野王、あまりにも兄弟が多すぎて頭数が足らないことに気付かなかったが、さすがにそれは不味いな。ここでちょっと、休憩するか?」

「神櫛王様、本音はさすがの神櫛王様も4日連続で歩き続けることに疲れ切ったということでは?」

「それは否定しないな。――ちょっと、みんな、ここで休憩しないか?」

 神櫛王が呼びかけると、みんなやれやれといった顔で休憩をし始めた。


「お待たせ~。お兄様もすっかりお姉様と仲良くなられましたね。」

 しばらくして銀王が追いついた。

「いや、大丈夫だよ。」

 大枝王が言うと五百野王も続けた。

「慣れているから。」

「おお、銀王か。これまで君のペースに合わせず置いていってしまい申し訳ない。」

 銀王を待っていた神櫛王がやってきて声をかける。

「いえいえ、ちょっと初めての経験だったから遅れただけです!今後は大丈夫です!」

 笑顔で銀王が返事したところへ、

「神櫛王様、大和姫様からの使いが来られました!」

と誰かが報告した。

「え?わざわざお迎えが来たのか?」

 そう言うと、神櫛王は全体に向かって

「じゃあ、あと一息だ!大和姫様からお迎えも来たようだし、もう一度出発するぞ!」

と告げた。

「間に合ってよかった。これでみんな一緒に大和姫様に逢えそうだ。」

 大枝王が銀王に話しかけた。

「大和姫様、かぁ。なんか、歴史上の人物と思ってしまいますね。」

「え?」

「お兄様も伊勢に神宮が出来た時は、まだ産まれていなかったのでしょ?なんか、不思議な感じがしませんか?」

「確かに、伊勢神宮が建立されたのは、私が産まれるよりも前、歴史と言えば歴史だよな。ただ、当事者が生きているだけであって。」

「なんというか、私達はあの人たちが実際に体験した歴史を生きていないんだなぁ、って思うことはありませんか?」

「ああ、なるほど――その気持ちはわかる。」

 そう言いながら大枝王は先日の神櫛王との会話を思い出した。

「お兄様はわかってくださるのですね。」

「そうだな、なんというか、やっぱりもどかしさのようなものがある。」

「私達にとっては歴史でも、大和姫様にとっては記憶なのでしょうね・・・。」

「そうだな。」

 そこで話が続かなくなったので、大枝王は話題を切り替えた。

「伊賀の山道は結構厳しかったな。」

「そうですね。狼に喰われるかと思いました。」

「それは無事でよかった。神様に守られている証拠だな。」

「しかし、あんな山道を超えないと伊勢には行けないのですね。」

「あんな山道と言うがな、あそこは修行の場でもあるからな。若帯彦(わかたらしひこ)の側近である武内宿禰(たけうちのすくね)も若い頃はあそこで修行していたという話だ。」

「あ、武内宿禰ですか!あの人、自分が伊賀で修行していたことをやたら自慢していましたね。」

「なんだ、武内宿禰と知り合いなのか?」

「ええ、あの人は面白いですよね。」

「お、武内宿禰と仲が良いのか?」

「そうですね。なんか話が合うので。」

 そうこう話をしている内に伊勢の神宮に到着した。

「大和姫様、はじめまして。ようやくお目にかかることが出来て光栄です。神櫛王と申します。」

 神櫛王が一行を代表してあいさつをした。

「おやおや、みんな総出でようこそいらっしゃい。」

 大和姫が微笑みながら挨拶をする。

「そこの貴方のお名前は?」

大和根子(やまとねこ)です。」

 大和姫は参加者一人一人に挨拶を始めた。

「そこの貴女は?」

「あ、はい、五百野王と申します。」

「そう。頑張ってね。」

「ありがとうございます!」

「そこの貴方は?」

「はい、大枝王です!」

「ようこそいらっしゃい。貴女は?」

「銀王です!」

「ようこそいらっしゃい。貴方は?」

 この調子で大和姫が全員と挨拶してから、一行は用意された部屋に泊まることとなった。

「なんか、挨拶の時、お姉様だけ扱いが違わなかった?」

「俺もそれは思った。」

 大枝王と銀王が言うと五百野王は

「気のせいでしょ。じゃあ、部屋を探しましょ!」

と言って全く取り合わなかった。


「ええ、では、大和姫様との協議の結果として、部屋割りを発表する。」

 神櫛王が参加者に部屋割りを告げる。

「残念ながら参加者が多いため一人一室とは出来なかった。かと言って王族と従者を一所に泊まらせるわけにも行かないので、王族同士数人で一室、同じ建物に彼らの従者も宿泊となったが、ご了承願いたい。」

 そう前置きしたうえで、参加者の泊る部屋を発表していく。

「その次の宿の大広間には大枝王、銀王、五百野王の3人。」

「え?」

「うん?どうした、大枝王。」

「え、いや・・・。」

「お前と一番仲が良いのはこの二人だと思っていたが?」

「あ、はい、そうですね・・・。」

 まさか女性と同室になるとは思っていなかった大枝王に銀王がツッコミを入れた。

「お兄様、私たち兄妹なんですから何も気にすることはありませんよ!まさか、私を妹として認めていないわけじゃないですよね~。」

「あ、まぁ、大丈夫だ、大丈夫。」

 気を取り直して大枝王は宿泊の準備に取り掛かることとした。

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