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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第二部 陰陽干犯篇
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5.若帯彦と武内宿禰-1

 武内宿禰は突然の呼び出しに驚いていた。

「おお、武内宿禰(たけうちのすくね)か。よくぞ来てくれた。」

 目の前にいるのは、大王の大帯彦だ。

「何の用でしょうか?」

「実はな、大和建がもうすぐ帰国するらしいのだ。」

「え?あの大和建が?」

「そうだ。ちょうどお前が産まれてきた頃に西の方に行っていたのだが、噂ぐらいは聴いたことはあるよな?」

「はい。」

「あれからもう60年が経ったわけだ。」

 そう言いながら大帯彦はここ60年――倍数年暦だから実質30年――のことを思い出した。

「この60年の間に、強力だった狗奴国は滅亡した。魏は既に滅んで晋になっている。私の子供は80人にまで増えた。世の中大きく変わるものだな。」

「60年は長いわけですね。」

「そういうことだ。お前にも事前に言っておこうと思ってな。」

「ご配慮に感謝します。」

 そういうと武内宿禰は大王の部屋を退室した。

 そのまま宮殿を出て自分の家に向かい、そこで

瀬織津姫(せおりつひめ)はいるか?」

と宙に向かって言う。

 何も、起こらない。

 十分ほど武内宿禰は部屋の中で何もない空間を見つめていたが、やがて諦めて立ち上がろうとした。

「久しぶりね、武内宿禰。」

 いきなり、後ろから少女の声がする。

「瀬織津姫・・・・。」

「ええ、少し遅れてごめんね。で、何の用?」

「今、天界で何が起こっているか教えてほしい。」

「かなりストレートな問いかけね。」

「ああ。でないとわざわざ色界天を召喚したりはしない。」

「それもそうね。で、貴方はどこまで知っているの?」

「私が産まれたぐらいの頃から天界で何かを企んでいるのがいる、ということぐらいかな?」

「ああ、そのことね。」

 そう言いながら瀬織津姫は少し微笑んだ。

「ねぇ、貴方はこの世界をどう思う?」

「どう思う、とは?」

「この世界に満足できている?」

「まぁ、そこそこ満足できているが。」

「本当に?」

「え?」

「無数の国々に別れて人々が争い、倭国の中だけでも小さい国々に別れているこの状況。しかも、国の中には私利私欲を追求し暴力で民を従えている豪族と、豪族に搾取されている百姓とが混在している。こんな世の中が、理想の世界だと思う?」

「――思えないな。」

「でしょ?そこで、こんな世界を作り直してしまえ、と思っている神々も多いわけ。」

「作り直す、って、世界を一度壊してもう一度別の世界を作る訳か?」

「違うわね。やろうと思えばそれでも別にいいんだけど、今の計画はね――」




「おい、武内宿禰はいるか?」

 外から声がする。

「入るぞ~。」

 入ってきたのは大帯彦の太子である若帯彦(わかたらしひこ)だった。

「お、おう。」

 武内宿禰は部屋に入ってきた若帯彦を出迎える。

「どうした、また神様と会話でもしていたのか?」

「さすが、60年来の友は鋭いな。」

「なんか、天界の秘密を知って衝撃を受けた、みたいな顔をしているからな。」

「そうか・・・・。」

 自分は無意識にそういう顔をしていたのか、と思う。

 若帯彦と武内宿禰は同じ年の同じ日に生れたということもあり極めて仲が良かった。

「何というか、天命が私たちの方にあるのか、最近疑問になってきた。」

「天命?」

「うん。」

「私が大王になれないというのか?」

「いや、それはないだろう。ただ、その後のことだよ。」

「私が失政をするとでも?」

「違う。しかし、世の中に大変動は起きると思う。困難な道を私たちは選んだんじゃないか、と思うわけだよ。」

「まぁ、それは仕方のないことだな。それが私の天命なんだろ。」

「そういうことだな。」

「ところで、父上から大和建が帰ってくる話は聞いたのか?」

「ああ、聞いた。」

「あれも大変動に関係あると思うか?」

「直接には関係ないと思うが――間接的にはあるだろうな。」

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