初等科ダンジョンの主
初等科は入学から三年間
中等科はその後の三年間
高等科はその後の三年間
入学は十歳からだ。
誰でも通え、初等科の学費は公費でまかなえられた上に就学支援が家々に出る。
働くより学校に通わせた方が稼ぎ手になる。
遠方の子には寮完備。
そのため識字率は高い。
「初等科三年、ソロでスライム(従獣一匹)だと五層までだよ」
「ええと、まだ契約してないけれど?」
ちらりと受付のおじさんは、頭上のスライムを見た。
ポヨポヨしている。
「ま、新密度上げに契約前のスキンシップに効果的なんだよ」
学園中には複数ダンジョンがある。
その一つ、初等科だけで入れるダンジョンは階層も浅く、アトラクションに近い。
受付を済ませると松明をとりだし、入り口の焚き火で火をつける。
「手が塞がる」
とは言え明かりがないと見えないので洞窟を進む。
課外活動だが単位として認めてくれるポイントがつく。
「あ、コウモリ」
飛んできたコウモリを松明でフルスイング。
打ち返し……。
「あ、素材」
素材回収にホームランは失敗だったと反省。
「うりゃ、取ってこい」
スライムをコウモリを飛ばした方に放り投げる。
「あれ、コウモリって従獣出来たんだっけ」
次は捕獲して見ようかと思っているとスライムが戻って来た。
「コウモリ消化……ま、いっか」
スライムの中でコウモリは半分溶けていた。
スライムは雑食すぎる。
「♪」
色々採取ポイントがあるものの、道は覚えている。
花が揺れている。蕾のもある。ただの葉っぱのもいるが。
ワラワラ逃げ惑っていた。
追いかけているのはスライム。ただ足が遅い。
球根みたいな本体からシュルと茎が伸びて葉っぱか蕾か花がついていてスライムより足が速いので面白く逃げている。
「ええと、いるのは白花、赤花、ピンクの蕾に黄色い球根の葉っぱ」
雑に捕まえると花が散ってしまう。
捕まえて茎から摘むと、球根は植える。
そのうちまた芽を出す。
髭みたいな根の足で器用に走る。
下層に行くほど球根の大きく花も大きくなるという。
「スライム? あまり食べちゃダメだよ」
振り返るとスライムは蔓に捕まっていた。
半分球根の埋まった……。
球根を見上げる。
「デカ!」
花の一つが目になっていた。
目が合った。
瞬間、蔓が飛んでくる。
空中へ持ち上げられ、浮き上がるのと落ちるのと交互に重力がかかり 手に持っていた松明を落としてしまった。
「あ」
運悪く真下にいた球根に火がつきキャーキャー騒ぎながら走り回る。
転がった松明が、根を燃やした。
「うわ?」
蔓が僕を放り投げた。
半分埋まった球根が飛び上がる。燃えた根はこのでっかい球根の足だったらしい。
ワシャワシャ大慌てで走り回る球根。
どうやら火は弱点らしい。さすが植物。
最後は壁に突撃して目を回した。
「……種。へぇ、でかいのは種が採れるんだ?」
散らばった種を拾い鞄へ。
松明を拾って、通路へ出る。
まだ半分行程は残っている。
「光苔と光石と花、蕾と葉っぱに種と実」
入ってから二時間後、地上に戻った。
収穫を報告会する。
「ディジーの種? 何処で手に入れたので?」
「三層の花壇」
「は?」
種の出すのが三層に居たのはアクシデントだったらしい。
「で五層の石取って帰り道に、そのでかいのが後ついて来ちゃって実をくれたというか落とすから拾って来ました」
青ざめた先生の前に小さくなった球根がそよそよしている。
「大きいのはダメ」
と言ったら小さくなった。三層の沢山いた球根より小さいぐらいだ。
小さいのに花が三本も生えている。
植物大好きマロンにあげよう。
うん。きっと喜ぶ。
スライムがずっと食べようと狙っている。
食べちゃダメだよ?
「あら、ディジー、連れて来たの? なんか変わったディジーね」
マロンは日課の薬草の手入れをしていた。
「なんかついて来ちゃって」
「あら珍しいわね」
ビィは獣たちには好かれる。しかし何故か契約しようと近付くと逃げるのだ。
「契約は?」
「ええと、マロン貰って?」
上目遣いの傾げた首、マロンはギュムと抱き寄せた。
「貰っちゃうわよ! ビィはもう私のもの」
「え、ゲフ、マロン息できないっ」
スライムは転がり落ちた。
ディジーは転がり落ちた。
狐が火を吹いた。
「あら?」
二つの膨らみに埋まってビィがもがいていると、足元では攻防戦が始まっていた。
スライムの足は遅い。
ディジーの足はスライムよりは速い。
しかし狐の足はもっと速かった。
ボボボボーーツ
「?!」
アチアチ駆け回る二つの影。
「植物系とはああなるのよ。うちのスモモ」
「なるほど」
スライムも燃えてますが。
「あ」
ディジーは火が付いた葉っぱを振り回しながらポンと変化が解けた。
「ああぁ、あたしの畑ーーっ」
普通サイズになったディジーが駆け抜ける。
「いやぁぁーーっ」
マロンの悲鳴が木霊した。
「で今まで三十階層の主が徘徊型だとは気がつかなかったと」
渋い顔をしながら、学園長はため息を付いた。
「どうやら青い花の特殊スキルらしく」
仲間の側へ転移して歩く。
「その個体はビィについて出てきてしまったと」
「まあ なついたなら、問題はないと思うが。あの子は契約できるのかね?」
「今まで、牽制しあって契約出来ないような感じでしたがフロアマスターなら牽制も無いかと」
ズズーンと地響きが伝わる。
窓の外を、巨大なディジーが駆け抜ける。
「…………」
「…………」
「何か見たかね?」
遠ざかる地響きを感じながら、小さな狐が追いかけて行ったのに目を細めた。
初等科用ダンジョン。ボスは弱かったらしい。