竜の勉強会
ちょっと涙目のマスターを小脇に抱えて人間が戻ってきた。
ヤバイ
シャキーン
私は銅像
私は置物
私は人形
チラリ
マスターは気がついて飛び付いてきた!
うひー
「これ何処に売ってたの? おじさん」
おっさんの渋いため息。
「え? 貰ったの? 誰に?」
もみもみ
マスターのなでなで。独り占め!
「きゅ」
「あれ?」
ヤバイ。うっかり声を出してしまいました。
マスターのなでなでが再開します。
うひひ
あー、ソコソコ。
「きゅ」
「オー、鳴くよ‼ すごーい」
くふ、たまらん
「きゅひ」
「ん?」
亀がいつの間にか戻ってきて、ガン見している。
「……ビー」
おっさんのため息。幸せ逃がしまくってるぞ?
「お前、それがなにか判ってもふってるのか」
もふもふ
「メラン。何でいるの?」
あー、もうラメ
小首をかしげたマスターに突撃です!
スーリスーリ
おっさんに剥がされた。
尻尾を捕まれて、逆さに振られて。
やるな。おっさん。
「その辺に、レオンが生えていた」
おっさんの説明。なに言ってるか分からないよ?
「ん?」
ビーの目が赤くなる。
「ああ、これだね」
マスターは簡単にゲートを開いた。
「この先にレオンが?」
「んー、多分。亀、見てきて」
亀を拾って環に放り投げようとする。
「ま、まて! 出た先は海の真ん中とか言わないよな?」
「んー、海のまん中の島かな」
いや、海の真ん中とだったよ? 島は遠くにあったかな?
亀がじたばたする。
「……うん。泳げば大丈夫! あれ? 泳げるよね?」
亀がプルプルしている。
「だから水に浸かっても大丈夫なように……え~と、あれ?」
「そうか、明日からビーには玄と一緒に泳ぐ特訓か」
「いやいや、気のせいです!」
マスターが焦っています。うん。可愛いです。
「あ」
ゲートから竜が首を出しました。
「きゅぴ?」
「きゅつる」
兄弟たちがマスターに飛び付いてきました。
「 竜が増えた」
おっさんの呟きは亀しか聞いていなかった。
涙目な竜が三匹仲良く並んでいる。
 その横に亀も神妙に陣取っている。
「ツルとカメがあわせて8匹います。
ツルの足とカメの足を合わせると26本あります。
ツルは何匹で、カメは何匹でしょう」
「ツルは鳥だ。脚は二本で亀は見た通り四本な」
おっさんの説明が時々はいる。
亀は自分の手を見て、首を伸ばして足を見る。
?マークを浮かべながら亀は自分の足が四本だと理解した。
(亀の足が四本!)
「よしよし、そうだねー」
亀はマスターに撫でられた!
なぜこうなった!
マスターの背後にゲートが開き父竜が首を出した。
(パパのお迎え!)
「ん? あ、レオンお前も一緒にお勉強……」
父竜の首は引っ込んだ!
がーん
「……そういえばレオンにお勉強しなかったような」
クスリとマスターは笑い僕たちを抱っこした。
「お帰り。さっきの答えは宿題ね。わからなかったらパパに聞くんだよ」
父竜は大人だ。きっと多分絶対わかるだろう。
光の環に吸い込まれながらマスターはにっこりと笑った。
「文字も覚えるんだよ」
うん。
父竜に相談すると頭が煮え出したのでストップ。
母竜に聞いた。
ええ、だから現在皆で狩りをしています。
亀、まてー!
鳥だ! 捕獲しろー
父竜はそれを見てホッとしています。
狩りなら任せろと沢山鳥を捕まえてきました。
えーと、そんなに要らないけど。
全部で8匹
うん。そんでもって脚は?
脚は……………………。
忘れました。
宿題は最初からつまずいた!
夜半遅くにスライムが駆け込んできた。
あちこち嗅ぎ回っていた。
たらいで水遊びをしている亀を見て首をかしげていた。
そして竜の首が生えた壁をジロジロと見て、おもむろにアタック。
竜の臭いでも残っていたのだろうか?
そこまでは良い。次の瞬間ゲートを開いた。
スライムがである。
ゲートから飛び込んできたのは、巨大な魚だった。
勢いよくゲートを器用にくぐり抜け飛び込んでくる。
それだけならまだしも、海水が流れ込んでくる。
「ウオォォォ!」
騒いでも誰も様子を見に来なかった。
スライムが魚を捕獲して食べている。
「……スライム何で海に繋げるんだ? 繋げるならビーの所だろうに」
スライムがえ?と今気がついた!見たいにキョドっているとゲートが消える。
スライムが再度壁にアタックするとまたゲートができた。
そして金貨がザラザラ溢れてきた。
スライムは小首をかしげた。一応金貨が目的ではなかったからだ。
「…………スライム。その魔法禁止な」
おっちゃんの言葉にがびーんとスライムが固まる中、たらいの亀はクルクル回りながら水面を浮かんでいた。
泳ぐ練習は必要かもしれない。
なにせおっちゃんは腰まで水に浸かっている。
水難の相がありそうな亀である。
夢を見る。昔の夢だ。
人間が自分を親から引き剥がした。
人間が怖い。大嫌いだ!
狭いところに閉じ込められて、ある日大勢の人間が来た。
怖い。
それからは、少し広いところに入れられたがそれでもあちこち痛み心を蝕んだ。
飛べない。
人間が嫌い。
家族はどうなった?
人間が怖い。
黒く染まっていく。
もうもとには戻れない。
キリキリ何かが壊れた。
ああ、繋がりが切れた。重力が増す。
痛みが全身に回る。
キシャー
もう逢えない。
家族は自分をあきらめたか、それとも遠くに行ったのか。
最悪は考えないようにはらはら泣けば鱗が剥げた。
イタイ
腐っていく身体。
もうすでに死んでいたのだろうか。
腐敗した屍に、心だけが軋む。
子供が窓から覗いたのに気がついた。
人の子を傷つければ、人間の大人が山のように来ることを知っている。
そもそも今回先に仕掛けてきたのは人間だ。
近付いてくる人の子に怒りが向く。
気が付いたとき、鼻先に小さな暖かさを感じた。
今のはなに?
ずるりと、鼻先の手が離れる。
人の子に触れられたのだ。
覗いていた子とは違う別の個体だ。
あれ? ご主人様?
ずるりと子供は倒れ動かなかった。
別のもっと幼い子供の身体が横たわる。
それに少し大きい子供はすがり付いた。
子の泣き叫ぶ声。それよりも大きな吠え声が建物を震わせた。
人間が大勢来た。
槍や剣を向けられる。
子供は引きずられるように連れていかれた。
『レオン、もう人に噛みついたらダメよ』
月の光の中、ユラリとその魂は鼻先を撫でた。
『レオンにお薬をあげたかっただけなの』
名を貰った。でもあの幼い身体はそう遠くなく壊れるだろう。
腐竜に触れたのだ。
呪われたのだ。
気がつけばあの噛みつこうとした子供が人参を投げ入れてきた。
もう人に噛みついたりしないが、中へは入ってこない。
毎日違う野菜が投げ入れられる。
「赤いのは人参。白いのは大根。そして緑はピーマン」
足元に転がった野菜を見て、渋い顔をする。
「ほらこれを見ろ! 合ってるだろう」
紙には、赤と白と緑の丸いのと竜と子供が書かれていた。
「レーガル様、さすがにピーマンは食べないと思いますが」
「白いのは蕪で赤いのは林檎かも知れません」
「ムム、でもビーがかぶなんて知ってると思うか?」
……ビー?
「ビーが竜にこれをたべさすんだって絵に書いたし」
「では似たものを台所で探してみましょう」
大人の人間はチラリと竜を見たが、ため息混ざりに視線はすぐ戻される。
「ビー様が目を覚ましていないかお見舞いに行きましょう」
「部屋に入っても良いのか?」
「お医者様に扉から見ても良いかお聞きしましょう」
子供の興味は、竜からそれたらしい。
それにしてもよく来たものだ。
私が怖いだろうに。
人間が怖かった私。
私を怖がる人間。
もうすぐご主人様は旅立つだろう。
私も一緒にーー。
月の光の中、はいと人参を持った魂が揺れる。
ご主人様のあーん。
目を向ければ、足元に人参。
ガリガリかじる。不味い。
白いのもかじる。不味い。
緑のはーー。
うげっ げふげふ
吐く
人間の子供が毎日、似た物を投げ入れていく。
月が出ると、うう、ご主人様が!
ヒィ
食べるから! ご主人様泣かないで?
しばらくすると移動が始まった。
小屋毎牛に引かれて移動だ。
子供は来なくなった。そして量が増えた。
「なあ何で赤いのか白いのか緑の野菜を適当になんだ」
「あのサイズだ。バランスよく与えるんじゃないか?」
「……でもよ。こいつピーマンは寝藁に隠してたぞ?」
がびーん。ばれてる!
「あはは、俺もあんなに生ピーマンは隠したくなるな」
「この外見だと、絶対肉だよな?」
肉!
に…………。
目があった。人間が様子を見ている。
「肉食べるだか? それともピーマンが……」
肉!
「ピーマンで、吠える元気出たのかの?」
ちがーう。にく
「……こっちの絵には肉とか魚が書かれているっぺ」
「……じゃ少し与えてみるか」
にーくー
ゴロゴロ喉をならす。
「お、食べそうかな。ほら」
肉が増えた。魚も増えた。ピーマンも増えた。
食べる量が増えたからだ。
連れていかれた先は、色々な動物がいた。
「きれいな銀の鱗だな。怪我も大丈夫良くなりそうだし……所でこの最初の頃の餌は?」
「指示書にかかれた通りですが」
「……いや、玉ねぎは中毒になるはずだが」
‼ がびーん
「良く平気だったな~」
タラリ
「すみません、おらたち竜は詳しくなくて」
「抗体持った個体なんだろう。名前は……」
ピシリ
「……ああ、誰かに名を貰ったのか。早く元気になれよ」
「親からの名前じゃないんですか?」
「いや、人から名をもらっている。だから玉ねぎも平気だ」
「あ、そういえばピーマン泣くほど好きみたいですよ」
ぎゃ? ちーがーうー
「お、ちゃんと伝えたからな? 嬉しいか?」
にーくー
「あはは、肉が良いっていってるぞ? ピーマンは嫌だそうだ」
「え? やっぱり嫌で寝藁に隠してたのか?」
なかなかの笑い話を竜は持ってきた。
怪我がよくなると狩り場にいって牛を仕留めて食べるようになった。
そして渡りの季節、若い竜は集められて強い雄のグループに割り振られた。親を無くした竜は何処かのグループに紛れて渡りに出ることになる。
独りではまず生き残れないからだ。
「……」
「……」
あいさつ。アイサツ。あいさっさ?
ゴロゴロ?
飛びけりが来ました。いや、背後から。
ここのリーダーの娘さんで、彼女と上手く行かないと群れにはいるのは難しい。
「あちゃ、蹴り入ったよ?」
「無理か?」
背後で人間が魚竿している。
どどーん
キシャー
あらよっと
「!」
我儘に育った彼女とは何時もバトルをしていた気がする。
このグループに入って渡り、何年か過ごした。
幼い竜の世話をしたり色々学ぶことがあった。
恋する季節にも娘竜と楽しくバトルを繰り返した。
何故か他の雄竜に挑まれることも多かった。
しかしある日雌竜が押し掛けてきた。
とっととリリにプロポーズしろと。
「え? いつもしてるよ? 花持っていったら食べてくれるし、魚持っていけば食べてくれるし、牛も鳥も食べてくれたよ? え? 違うの?」
どうやらプロポーズは違うらしい。
「は、じゃあピーマンか! ピーマン持っていかなきゃ」
雌竜たちはこれがへっぽこなのを理解した。
なにせピーマンを集めて持っていき、投げつけられていたから。
へっぽこすぎる。
とりあえず、プロポーズにピーマンは違うと学習したレオンは次にでかい蛇を持っていったら蛇毎蹴り出された。彼女は蛇は嫌いらしい。
竜の恋は前途多難だったのだ。
「むむむ、難しい」
乙女の雌竜の心を掴むのは難関だ。
へっぽこがしれわたってから、雌竜には弟扱いをされながら過ごした。
ある日、ざわつきに気がついた。
なにかいる。強い力を持った我らの主が側にいらしたとーー。
「あ、レオン。可愛い奥さんはどの子?」
レオンの周りはみな可愛い雌竜だらけだった。
「え? リリは、今いないよ? お腹へったから牛狩ってくるって」
ビシリと冷気と炎が沸き起こる。
「へえ、狩りが上手いんだ? と言うか何で女の子に囲まれてるの? レオン」
「?」
冷気を発する周りの雌竜をきにもせず、牛を獲ってきたリリは仲良くレオンと食べた。
リリは人間の子供に興味は見せず無視を決め込んでいたが、周りの雌竜たちは子供に惹かれて散っていった。
「おや、レオン。お前も流石にお嬢一人にしたのか?」
なんの事?と首をかしげれば人間の男が相棒にこずかれている。
「ばか。他のに愛想つかされたんだろう。黙っとけよ」
なんの事?
「……レオン、お前、振られたのか」
知らないうちに失恋したらしい。
大人の竜への道は遠く険しいことを学習したレオンである。
(あれ? ご主人様の身体有ったような?)
ピーマンを食べさせてもらった。横でリリが目を点にしていた。
リリもまた学習した。
何て事! マスターから貰ったピーマンを食べずに私に持ってきていたのかしら? ドキドキ 投げつけたけど。
エエエーー。レオンのマスターがご主人様。
へっぽこなのに! マスターに名前をもらった。ウソーン
興味を見せない影で、葛藤が渦を巻いていたことをレオンは知らない。
レオンの側から雌竜が消えたのは、マスターがピーマンを他の竜にもアーンして回ったからです。
勿論残りはレオンの側にお土産に山ほど(雌竜は逃げた)。
リリはお転婆娘の意外とミーハーな竜です。
それにしても雌竜たちにとって駄目竜が坪なのか?
一応レオンはマスターに名を貰った竜ですけど。
マスター 〉契約したご主人様 〉竜たち 〉他の人間と言う優先度なので、マスターに食えと言われたレオンは吐きながら食べて体力回復していきました。
そしてずっと魂になったと思っていたマスターと会ったのですが、怪我をさせたこととか竜の繁殖期が優先されたのもありマスターから離れられない現象は消えてます。




