亀のお散歩は命懸け
コッソリ忍び込んだ鞄の中から、にゅーと首を出して辺りを見回します。
ちびっこマスターの服のなかで寛ぐのは良いのですが、いい加減お腹が減りました。
「?」
あれ? 何か通りすぎました?
あ。
ちびっこと目が合いました。
開けた鞄を思いっきり締め、再度鞄が開きます。
「あぅ」
マスターが呻いて? キョロキョロしています。
「ビィ、タオルは」
「あったよ。今いく」
体の下からモフモフな布を引っ張り出して、鞄が閉じられました。
出口が。
しばらくカリカリしていると、そっと開きます。
マスターが僕を見て、そっと手を伸ばして撫でる。
スリスリ
指に甘えると、マスターが微笑む。
ふふふ、マスターの攻略は完璧です。
マスターは、ちみっ子が好き。大きい子には厳しいのです。
鞄にはいるサイズの僕には優しいハズ。
と言うことで、マスターがハムを持ってきてくれました。
ムシャムシャ
大根や人参の事もありました。
時々鞄から出して抱っこもしてくれます。
お風呂にもつれていかれましたよ。水は苦手だけれどムフ。
えーと、あのー、マスターの背後に目の細くなった乙女が居るのですが?
思いっきり目があってしまいました。
ドキドキ
「ビィ、ちゃんと髮拭かないとダメよ?」
「うわ、はい!」
ぽふと鞄に放り込まれて、スリリング。
ドキドキ
マスターもドキドキしています。可愛いです。
夜中に鞄が開きます。
うう、乙女が覗き込んでいます。
「亀ね」
「鳴かないから猫じゃないとは思ったが」
あ、男の方も居ました。
「最近おとなしいと思ったら、何処で見つけてきたのかしら」
「川にでもいたんだろう。まぁこれなら噛みついたとか引っ掻いたとか大丈夫かな?」
鞄が閉じられます。
ほ。
「……亀。エルフの亀じゃないわよね」
乙女が呟いています。
ドキドキ
し、知らないもん。
気配が離れていくのを感じほっとする。
特に変わりなく、マスターが野菜を持ってきてくれます。
もしゃもしゃ
は、目を細めた男の人が!
「ビィのサラダ。量を増やすか?」
ブツブツ思案しています。
あ、野菜を僕がもらってますから?
うーむ? 食べちゃダメ?
「はい、ピーマン」
もしゃもしゃ
「はい、かいわれ大根」
もしゃ……もしゃ……
「セロリ、あーん」
も、たらり、もしゃ……。
マスターのご飯は。うん。気のせい。
多分。隠れて持って来るのも大変なんです。
しかし、足りません。
なので庭先の葉っぱでもかじりにいきましょう。
がさごそ、もしゃもしゃ
どっこいしょ、もしゃもしゃ
「!」
えーと。ここはどこでしょう?
亀は迷子になった‼
しくしく。
絶賛迷子亀。大きくなってワシワシ歩いたら、人間に叫ばれました。
ウォー、おばちゃんの叫び声にビビって走ったので余計に現在地は不明です。
しかし、でかいままだと人間が叫ぶので現在小さくなってます。
ちまい足で頑張ってますが、中々進みません。
しくしく
人間の子と目が合いました。
マスターではない子供です。しかしきれい好きだったのか僕をザブザブ洗ってくれました。
土だらけだったので助かりました。
そしてーー。
何かいます。スライムです。
じろじろと観察して首をかしげています。
いえ、スライムの首が何処かなのかよく知りませんけどね。
お風呂ですよ? 温かい水に浸かって、え? 鍋って何?
グツグツグツ
アチ? アチッチ!
ちょ、熱いので水で薄めてーーざばーん。
ごめんなさい。焦っていたので加減が適当でした。
溺れるー!
スライムは泳いでいます。うん。
しがみついとこう。
ひろがるへいち。
たらり。
人間の家が見当たりません。
たらり。
ねぇ、スライム?
スラ……。
スライムは、でかくなってました。
さっきの水を取り込んだのもあるかもしれませんが、なんか食べています。
スライムは掃除屋。
そんなに大きくなると、人間に叫ばれるよ?
まぁ叫ぶ人間は見当たりませんが。
……。
でっぷりスライム。
マスターは、でっかい竜も好きですが でもでっぷりスライムはどうでしょうか?
どすどすすごい音をあげている。
……。
巨体でマスターに飛びかかるスライムが!
スライムよ? マスター潰しているよ?
つぶ、……潰れた‼
ギャー⁉
は、馬ほどのでっぷりスライムは 可愛いとは思いますが やはりマスターには手乗りサイズが安心でしょう。
うん。手乗りな僕も可愛いよね?
ガサゴソ
何処ですかな。ここは?
あ、鞄の中でした。マスターが覗いています。
うん? お出かけ?
マスターに連れられてお散歩。
おっちゃんが渋い顔をしています。
誰でしょう?
ザブン
キャー、水だ! イヤー!
いじめっこマスターは、時々残酷です。
泳ぐ練習? いえ、確かに溺れましたけど!
何故かおっちゃんの膝の上に。
目の前に果物が山のように。首を伸ばして食べます。
もしゃもしゃ。
幸せ。美味しいです。
って、マスター消えた‼
おっちゃんと目が合います。
食べて良い? これすごく美味しいの。
モリモリ、ムシャムシャ。
幸せ。
スライムが時々遊びにきます。
僕の果物を食べちゃいます。
少し呪っておこう。
その効果かはしらないけれど干からびたスライムが持ち込まれてビックリしたことが。うん。知らんぷり。
後は、おっちゃんの水槽の水を狙ってたり。
美味しいらしい。
器用に水槽の蓋をはずして水遊びをしています。
うん。ちょっと魚が怖がってーードボン。
タラリ。
僕は何で水槽の中に? あ、スライム! 蓋を閉めるな~
タラリ。
へ、ヘルプミー?
焦ったおっちゃんが飛び込んできました。
お! おっちゃん!
助けて~
スライムが、トゲ攻撃。
……。なにやってるの?
おっちゃんが、スライム語を覚えた‼
……。なに入れてるの? そこは亀語にしてよ。
あ、デザート入門を覚えたおっちゃん。
おっちゃん⁉
おっちゃんは、キッチンに飛んでいってしまった。
むう。
チビッ子マスターに捧げるお菓子を作りに行ってしまった。
おっちゃん‼
しくしく
「やだ、お前何処から落ちたの?」
乙女に救われました。
そういえば果物を用意してくれるのは乙女だった。
んーと? あれ? 果物くれるのは乙女?
……。
もしかしてご飯をくれるご主人様は乙女?
あれー?
乙女が甲羅を洗ってくれます。
乙女が部屋を掃除してくれます。
乙女がご飯をくれます。
乙女が撫でてくれます。
ぐふ
おっちゃんが、キッチンを焦がしたとかで乙女に叱られてました。
おっちゃん……。
まぁ、良いか。
チビッ子マスターが、おっちゃんに餌付けされてました。
帰りに僕を撫でてくれます。
ぐふ。
スライムはマスターに会えませんでした。
どうやら呪いが効いたようです。
むふ。
あーれー、ドボン。
スーラーイームー(呪)
今日も楽しくスライムとスキンシップ。
そういえば、あちこちにミミックが増えました。
取り合えず、水槽にちっまいミミックが泡をプカプカ吐き出しながら魚と共生しています。
こやつ、時々尻尾に噛みついて来るんですよ!
水槽に僕を落としたのスライムだからね?
まぁよく観察したらスライムにも噛みついてました。
おっちゃんにも噛みついてました。
ギルドの水場では変な遊びが流行っています。
水場で日向ぼっこしているミミックが口を明けたときにコインを投げて食べられたら幸運がアップするとか。
よくわかりませんが、水場の奉納コインはギルドの予備費として扱われることになりました。
因みに、そこから僕の果物代が出されています。
ぐふ
おっちゃんのポケットマネーは、お菓子の材料費できついそうです。
まぁ、ちみっこマスターに会えるのでおっちゃんの膝でゴロゴロするのも楽しいです。
今日もお散歩日よりです。
追記
スライムはやさぐれてトゲ攻撃しています。ええ、今日もマスターに会えませんでした。




