ほほえみ
ふと見上げると、フィリア様が覗き込んでいた。
スライムは寝ぼけながら、こそこそ歩いてくるちびっこ竜に触手を伸ばす。
引っ張ると、竜はビィに頭突きをかました。
寝ぼけて力加減が適当だった。
竜は目を回したが、ビィはモゾモゾ動き竜を掴むと抱き寄せた。
フィリア様がくすりと笑い、手を伸ばして来る。
タラリ
ディジーも寝ている。
そもそもかの御方がその気になったら止められない。
ピカリンコ
美しいフィリア様!
ピカリンコ
光る髪のフィリア様!
ピカリンコ
艶々お肌のフィリア様!
ハアハア
指がスライムをついっとなぞる。
!
ミギャ
ビィにへばり付き、プルプル震える。
怖いの、怖いの!
「ビィの方が怖いだろう」
フィリア様が呟く。
え?
ビィが寝返りする。
フィリア様がスーと消えていく。
むにゅと、捕まれ肌から離される。
「ううん」
ボリボリと掻く。
ビィの規則的な寝息を聞きながら、スライムは微睡みながら考える。
ビィの側は、あのポカポカの光りに包まれた感覚に近い。
暖かく、どこまでも幸せに包まれたーー。
無だった自分に、色々与えてくれた。
喩え、時々鬼畜でも。
うん? いつもスパルタ?
深く考えてはいけない。
闇に染まりかけた自分を引き戻したのはビィだ。
ビィの繋がりから流れてくる安心。
僕を呼び出した人間は、僕を要らないといった。
あの日、僕は闇に染まり悪意に飲まれたまま何かしていたらビィでも穏やかに戻すことは出来なかったはずだ。
速やかに、ビィの元に連れていかれた自分。
あれはマロンが半分ビィに会いに行く口実のようなものだったが。
ビィ。
ディジーみたくに、何処かの祭壇にお供えされて バイバイされたら恐い。
うん。恐いよ?
ビィの方が怖いの。
タラリ
恐い
怖い
ますたーが、要らないと言い出したら?
キャシャー!
「う……ん、うるさい、スライム」
抱き寄せられ、トクトク鼓動する胸の音を聞きながらうとうと眠りに落ちる。
朝、目を覚ますとピカピカのちびっこ竜がいた。
ディジーもピカピカだった。
艶々で、ザ取れ立て!
チラリとまだ寝こけている隊長を見る。
若返ったようなイケメン隊長がイビキをかいている。
「…………」
恐る恐るビィを見上げる。
うん。
寝ぼけて、やらかしたらしい。
ビィは、誰もが見惚れる美少女顔負けの美の女神になっていた。
タラリ
あかん、ライバルが増える!
ちびっこ竜が張り付いて離れない。
ディジーがハートの目をして絡まっている。
「ん、おはよう?」
ビィの微笑み。
ま、いっか
ビィを見た一同は、石化仕掛けたものの 直後に隊長を見て顎を抜かした。
☆ ☆ ☆
「兄上、この子あげる」
くっついて離れないちびっこ竜を、レーガル兄に押し付ける。
「……ビィ、バジリスクでも食べたのか?」
「コカトリスでも隠れて飼っているのか」
アル兄も、変なことを聞いてくる。
「……なんですか?」
「いや.皆が石化しているから」
ハモった回答。なんですかね?
「とりあえず、抱っこ」
兄は固まる。うん。バジリスク等知りませんが?
「……とりあえず?」
レーガル兄が、素早く再起動してするりと抱き上げる。
「腹ペコか」
「にいにい、大好き」
かぷ
何処かあきらめた兄にビィは牙をたてる。
「かの御方が来てたのか?」
何か眉間のシワを張り付けてアル兄がスライムをムニムニする。
「んんんーん」
「……食いながら喋るな」
「ん」
ぽよん。
「……酔ったな」
ふわふわしているビィを覗き込む。
「にゃ?」
千鳥足のビィをアルは捕まえる。
「三口位か?」
「ああ、意外と少なくて助かった」
「ビィ転ぶからこっちに居なさい」
両脇を兄に囲まれ馬車に連れていかれる。
「ほら、お水」
氷が浮いている冷たい。
「ほら、パンケーキ」
「 果物盛合せ」
モグモグ
ビィがおとなしく食べ出すのを確認して、二人の兄はほうと胸を撫で下ろした。
スライムがつまみ食いをしている。
「パイ包もあるぞ」
もしゃもしゃ
「クレープに、ケーキ」
「ゼリーに、ババロア」
満腹になった頃、ビィはこてりと眠りつく。
「……15過ぎから吸血し出す予想だったが、すべて前倒しした方が良いのかな」
「力を使いすぎたからだろ。……スライム何か言い訳は?」
ビクリとスライムが走って逃げようとするのを軽やかに捕まえる。
「そうか、自覚がありそうだね」
プルプル
「……ふうん?」
「…………なあ、何て言い訳を?」
やり取りを見ていたアルは目を細め一応聞いて見る。
「ん? いや、何となく」
プルプル
「とりあえず隔離」
鳥かごにスライムは放り込まれ、そしてマロンに手渡された。
「……鳥かごって」
マロンは、隙間を見ながらため息をつく。
「二人ともバカなの?」
スライムは籠の中でわたわたしている。
「あんたもバカなの?」
どう考えても隙間から脱け出せる。
「まぁいいわ、今日はコラーゲンスープ作りよ」
馬車から飛び降りると、マロンは鼻歌混じりに籠を揺らす。
その日スライムは乙女たちの玩具だった。
☆ ☆ ☆
竜に、肉の破片を与える。
竜はパクリと噛み付く。
モグモグしている姿をレーガルは観察していた。
「胃袋掴め作戦か」
「ビィと同じだがな」
すりすり甘えてくる竜を撫で、レーガルは次の肉に手を伸ばす。
「お前も何してるんだか」
「ん、ディジー意外と可愛いぞ」
ポーションを餌に、ビィから引き剥がし かまっている。
「なあ、ディジー、マロンの好きな花はなんだと思う?」
わしゃわしゃとポーションの瓶にディジーが蔓を伸ばす。
「ディジーそのまま捧げれば喜ぶのでは?」
「さすがに、これぐらい育ったの見つけるのは難しいだろう?」
色々育ちきった感があるが、まだ育ちそうだ。
「学園で農場経営、学生はディジーがいた方が良いだろうし」
「ま、ディジーにマロンの農場に時々来てくれるようお願いして通わせるのも手だが」
ディジーがはたして何時までポーションで満足するかは微妙な所だ。
「つまり俺はある程度の農場を貰えないと詰むと」
「んア? いやマロンは父上に農場は貰えるだろう」
どうやらアルの土地作戦は無駄らしい。
チビチビポーションを舐めているディジーは、時々ピクピクしている。
「ディジーは学園に沢山居たな。捕獲して育てるとして、お前幾つなんだ?」
蔓の1つと握手をしながらアルはディジーの年齢はどの辺りで判断できるんだ?と繁々本体を観察する。
ごはん
「ん、まだ欲しいのか?」
レーガルが竜に反応して、肉に手を伸ばす。
んまんま
「そうか、旨いか」
「まだ鳴き声あげるのは理解しやすそう」
アルはゴロゴロ喉を鳴らす竜に目を細めた。
「ディジーもスライムも解りやすいと思うが」
「……ビィと会話してるのをみたら簡単そうに見えるがな」
「ま、マロンとも話してるのを見たら簡単そうに……」
竜が外を気にする。
「どうやら逃げ出したらしい」
「泣き叫びながら逃走って、どんだけひどい目に」
スライムが飛び込んでくる。
「あー、ヨシヨシ」
思わずプルプル震えるスライムが懐にきて反射的に慰める。
「スライム!」
次ぎに飛び込んできた乙女にアルは固まった。
元々のナイスボディーに加えて、マロンは磨きあげられた素肌をさらしていた。
「マロン、いくらなんでも下着で登場はないだろう」
「スライム来たでしょ?」
反射的にふるふる首を振る。
マロンはぐるりと見回して小首を傾げる。
視線がアルに止まり、どきりとしたところで
「まあ良いわ、ディジーで」
ディジーがひょいと持ち上げられ、マロンの腕のなか目を点にしている。
「あの私もいるのだが」
レーガルの声に「きゃぁ」とマロンは悲鳴をあげた。
「レレレ、レーガル様! 何時からそこに」
「いや、最初から?」
「いやぁぁ」
マロンはしっかりディジーを握りしめたまま逃走した。
「何で気がつかないかな?」
「……竜が隠匿してるからかな?」
「ああなるほど」
スライムが恐る恐る顔を出す。
「スライム、ビィの力を使いすぎると隔離するからな」
ビクンとスライムが反応する。
「ビィは今一気にスキル覚える負荷がきている。それなのにあの方を詠んだりお前たちに力を与えたり、大変過ぎるのだよ」
「まあ、スキル覚えるのは歓迎なのだが」
くすん
「まあ飲め」
ポーションの残りをスライムに与える。
「あ」
スライムが「ポーション作成」を覚えた!
ビィが「ポーション作成」を覚えた!
アルシオンが「ポーション作成」を覚えた!
レーガルが「ポーション作成」を覚えた!
「……スライム、ポーション飲むの始めてだったのか?」
フルン?
「まあ役にはたつだろう」
「……スライム、次はこれを飲め」
スライムは思った。ここに逃げ込んで良かったのかと。
グルル
竜が睨み付けている。
タラリ
「ん、お前も飲むか?」
竜とスライムがたぷたぷの腹を抱える頃、ディジーが泣きながら逃げてきたのは笑えなかった。




