混沌の中の闇と光
ますたーから線が延びている。
細く細く限りなく細く。
それは僕のライン。
時々それは命をくれる。
優しく、時に巨大に。
そして僕の全てを支配する。
ますたーの心。
ああ、ますたーと繋がる全ての世界。
ますたーから伸びた線。
線。
その大半をますたーは無視をしている。
捕食される声を満全に聴くのは心が持たない。
ますたーの心ーー。
ますたーの心が、僕の染まった心のように囚われたら?
怖い?
ううん。
ディジーと繋がったライン。ディジーは小さな他のディジーと繋がっていて危険感知を共有している。
ますたーの危険を伝えてくれる。
ますたー。
同じようにますたーが感じていることを理解しよう。
ますたーは現在勉強中。
勉強…………。べんーー。
ぐうーー。
ぐうぐうぐう
お休みなさいーー。
隣でディジーも寝ている。
すやすや
人間のお勉強は難しい。
☆ ☆ ☆
学園内で捕獲出来る獣と召喚した獣とペナルティは倍近くある。
同じように捨てても発覚した場合追試の一つ二つでは挽回出来ない場合もある。
「バカだろ、俺が捨てました。だから返せって」
アッシュは取り敢えずビィを抱き寄せた。
片足でスライムを押さえ、片手でディジーの蔓と戯れている。
「密輸じゃなくて良かったよ?」
「まあ、王子がスキル覚えだした理由が棄てたスライムの能力だとしたら惜しくなったんだろう?」
「王子って?」
「うん? 三番目は王子だろ?」
チクチクチクチク
スライムのチクチク攻撃。
ディジーののしかかり攻撃。
ついでに蔓のーー。
「ギャハハ、やめ! イテテ」
アッシュは楽しそうだ。
マロンが半目で眺めている。
アッシュの鳥従獣のピピも参戦して髪をつついている。
「最悪よ。飛竜の飛行テストが追試よ」
マロンがぼやく。
「ええと、ごめんなさい」
「大丈夫よ。唐揚げにするわ」
「唐揚げ」
シュタ!
ピピを差し出すディジー。
「こらこら、何を献上したの」
「クスッ」
「付け合わせにユリ根の茶碗蒸しも……」
ダッシュで逃げたディジーにタックルするスライム。
「デザートに、ゼリーでも」
狐が二つをひっつかむ。
どうやら気を抜くと食材になっているかも知れない。
ビィが笑っている。
のどかな午後。
アッシュは目を細め、伸ばした手をピピがついばむ。
光。
まどろむ光が、確かに包み込む。
☆ ☆ ☆
呼び出された扉の前で入室前にため息をついた。
途中で遭遇したグループが問題だ。
そこに最終爆弾が歩いて来る。
「あれ? みんなどうしたの?」
ビィはのどかに、小首を傾げる。
いつもなら絶賛ウェルカムだが、この扉の前では会いたくない。
ビィは呑気に部屋へ入り、そして室内の目についた一人にタックルを噛ました。
一同の驚愕を尻目に、嬉しそうだ。
アッシュは不快感を押さえどうにか剥ぎ取りに行かず待機できた事を誉めたい。
が、それは横にいたアルが沸騰しているのに気がついたからだ。
思わずアルを押さえた。
兄弟で弟を取り合うな!
一同の心の声が木霊する。
長男のレーガルは、飛び付いたビィを受け止める。
「ビィ」
「にいにい」
「相変わらず飛び付いているのか」
背後からの声にビィが反応する。
「父!」
撫でようとした矢先に、ビィはレーガルの腕の中からいなくなりーー。
タックル。
父の腕の中にいた。
「だから家族で末っ子を取り合うな」
アッシュがぼやく。
「所でビィ」
父はニッコリ微笑みながら言った。
「これ取ってくれ」
もしゃもしゃと、頭の上でスライムが髪を食べていた。
青くなったのは、学園長とお茶を持ってきた秘書だった。
美形伯父様は登頂部がツルッパゲ。
皆、三角の目で表情を固定していた。
鏡を見た後が怖い。
「あ、アル。これ写真が間違って貼られていたぞ」
それは調査隊応募書類だった。
「あはは、あれ? すみません」
兄が微妙な返答をしていると、父の腕の中のビィがピクピク反応する。
「所でお二人で出かけてお仕事は大丈夫なんですか?」
息子の突っ込みに父は胸を張った。
「大丈夫。選抜バトルでキッチリ勝って来た」
「あはは、ソウナンデスカ」
きっと文官たちは血を吐いているかもしれない。
父の処理能力はホイホイ代理で埋められないからだ。
「あ、そうそう。調査隊にはレーガルが参加するから仲良くするように」
本当に文官は骨になっているかもしれないと、アルは思った。
何故なら兄も書類捌きはかなりのものだ。
「それで私たちが呼ばれたのは」
アッシュは聞きたくはないけれど聞かねばならない事を聞いた。
「ああ、学園枠で君たちに参加をお願いしたい」
指名依頼話に、ビィを見る。
「ビィもですか?」
まさかついでに家族団欒の為に呼ばれたわけはないだろう。
「そうビィも」
ニヤリと微笑み合う。
「兄二人がいない夏休み……パパ独り占め」
ビィが躊躇しながらぶつぶつ呟く。
「でもにいにいと一緒、にぃたまとも一緒」
ぷよぷよしたスライムを手の中でいじりながらーー。
「……スライムにいにいに連れていって貰えば」
ぶつぶつ
「あ、そうそう。聖霊竜がどうやら卵を産んだらしい。うまくすれば子供が見れるかもしれない」
キラリとビィの瞳が輝く。
スライムが手からこぼれ落ちた。
「竜のーー」
それから先、ビィはずっとキラキラしていた。




