女の戦い
◆ ◆
「ちょっとお、邪魔しないでよお」
奇襲が失敗に終わったスブメルススが、文句を垂れる。だがその口ぶりは心底悔しそうというわけではなく、むしろいたずらが未遂に終わった子供のような軽いものだった。
「うるせえ。奇妙な攻撃してきやがって。魚は大人しく海で釣られてろ」
シャイナの言葉に、スブメルススは眉間に深い皺を刻む。
「あら、面白い冗談ね。わたしを魚呼ばわりして、生きて帰った人間はいないわよ」
「へえ、そうかい。じゃああたしが最初ってわけだな」
そこでシャイナは、ふと思い出したような口調で、
「ところでお前、何枚におろされたい?」
追い討ちをかけるようにひと言放った。
「調子に乗ってんじゃないわよ人間風情が。殺すわよ」
「へっ、ガキを人質に取るようなしょっぱい真似するザコが、でかい口叩いてんじゃねーよ。それとも四天王ってのはセコさの四天王って意味か?」
強い。腕っぷしも強いが、シャイナはこう見えて口喧嘩も強い。舌戦は女の方が熾烈と世に聞くが、それはグラディアースでも変わらないらしい。
「……どうやら、あんたから先に死にたいようね」
「言ってろバーカ。サシミにして今夜の晩酌のツマミにしてやる」
睨み合うシャイナとスブメルススの間に火花が飛び散る。まさに一触即発。どちらかが動けばすぐにでも戦いが始まろうとしていたその時、
「おいおい、ちょっと待てよ。お前が戦うのかよ」
「あ? ンだよ、悪ぃかよ」
「いや、悪いとかそういう話じゃなくて、何も律儀に一対一で戦わなくとも、ドーラの魔法で攻撃するとかあるだろう」
「ああ、そりゃ無理だ」とあっさり否定するシャイナ。
「なんでだよ」
「あれだけ人質と密着されると、あいつの魔法じゃ威力があり過ぎて巻き込んじまうんだよ」
「マジかよ……。けど、そこは威力を加減するとか――」
話の途中で、シャイナが耳打ちをするように顔を近づけてきた。彼女の吐息が耳にかかり、平太の心臓が跳ねる。
「うお……」
「いいからここはあたしに任せろ」
「だったら、俺も――」
「バカお前、ここでその女が剣に化けてみろ」
言いながら、シャイナは目だけで背後を示す。その先には、ケインの姿があった。
「今まであいつに隠してたのがパーになるじゃねえか」
「あ~……」
心配してくれているシャイナには悪いが、今の平太はそこまでケインを警戒する必要性を感じていなかった。確かに、出会った当初はその胡散臭さも手伝って、ちょっと信用できない人間に思えた。だから与える情報をなるべく制限し、目に見える範囲に置いて行動を把握するようにしていたのだが、暗殺者騒動で協力を得て以来、少しではあるが彼を信用するようになっていた。何より今は緊急事態である。
それに、すでにスクートが伝説の盾だというのは、同席していたのだから恐らく知られているだろう。今さらグラディーラの事を隠したところで大差ないのではなかろうか、と平太は思うのだが、いつになく気と頭を使ったシャイナに遠慮して、つい「お、おう……。じゃあ、任せた」と言ってしまった。
「おい!」
呆気なく譲ってしまった平太に、グラディーラが慌てて抗議するが、ケインの事を説明したら「ぐ……」と唸って大人しくなった。
「ここはシャイナを信じて任せよう」
「……致し方あるまい。くれぐれもスクートを頼んだぞ」
「へっ、そーこなくっちゃ」
平太たちに許可を取り付けると、シャイナは嬉しそうにスブメルススに向き直った。敵も自分の相手はシャイナだと決めていたようで、平太には見向きもせず赤毛を睨みつけていた。
「待たせたな。すぐに料理してやっから、覚悟しろよ」
「それはこっちのセリフよ。この子の代わりにうんと痛くしてあげるから、せいぜいわたしを楽しませてねん」
「言ってろ、バーカ」
剣と盾を構え、シャイナが不敵に笑う。
「それが最期のセリフ? 冴えないわねえ」
スクートを両腕で抱いたまま、スブメルススがにやりと牙を剥く。
先手はスブメルススだった。
大きく息を吸い込んだかと思うと、間髪入れず水鉄砲を発射。
だが、「今ので見切った」という言葉は伊達ではなかった。ほんのわずかに見せた予備動作から、シャイナはそれを読んだ。構えた盾で水の矢の方向をずらして受けつつ、間合いをつめるべく走る。
「チィッ!!」
距離を詰められまいと、今度は短い間隔で連射をするスブメルスス。けれど今度は盾すら使わず、シャイナは右へ左へと軽快にステップを踏んで華麗にかわす。
そして、
「あら、水が切れちゃった……」
体内に溜め込んだ水が底を突き、スブメルススは飛び道具を失った。
「もらったぁっ!!」
チャンス到来。シャイナはさらに走る速度を上げる。相手はスクートを捕まえているため、両手がふさがっている。シャイナの腕なら、スクートをかわしてスブメルススの首だけ斬り落とすなど造作も無いことだ。
スブメルススは殺気丸出しでこちらに全速力で向かってくるシャイナを見て、人質を解放して両手を空けるかどうか逡巡する、
――フリをした。
「なんてね」
結論から言うと、スブメルススはスクートを放さなかった。
なのに、
「なにっ!?」
複数の方向からの攻撃が、シャイナを襲う。剣士としての勘なのか、狩人としての野生がそうさせたのか、とにかくギリギリのところで盾で防いだものの、もの凄い力にぶつかって押し戻された。あと数歩まで近づいた距離がふりだしに戻される。
「くっ……!」
盾を地面に突き立てて制動をかけ、ようやくシャイナの後退が止まる。
何が起こったのか。それを理解するには、一度見るだけで充分だった。
どうして両手が使えないはずのスブメルススがシャイナを攻撃できたのか。しかもまだかなりの距離があるというのに。
「野郎……そういう事かよ」
地面から盾を引き抜き、シャイナはスブメルススを睨む。スブメルススは、未だスクートを胸に抱き、余裕綽々という感じで笑っている。
が、その背中には、多数の触手が蠢いていた。
「わたしの攻撃が水だけだと思った? ざーんねん。あんな宴会芸だけで四天王張れるほど、魔族は甘くないわよ」
スブメルススが触手をすべて広げる。蜘蛛のような禍々しい姿に、後方でシズやドーラが小さく悲鳴を上げるのが聞こえた。
触手はクラゲの触手のようなもの、タコやイカの足のような吸盤のついたもの、カニの足のような甲殻を持ったもの、そしてウツボやウミヘビのような鱗を持ったものと、左右に一本ずつ二対、それが四種――計八本あった。
「水の攻撃はよけられたけれど、これはどうかしらね」
八本の触手が、それぞれ独立した意志を持ったように動く。多種多様な姿から、種類によって異なる特徴を持っているのがわかるが、何よりも単純に長さが問題だった。触手一本の長さは、シャイナの身長よりもさらに長い。伸縮するものもあるので、実際はもっとあるかもしれないが、少なくともシャイナの剣よりも短いものは一本たりとも無い。
つまり、完全に得物の長さで負けてる。厄介な飛び道具がなくなったと思ったら、今度は長い触手が相手か。しかもそれが八本。有利になったと思った矢先にあっさりと不利になるというアップダウンの激しさに、シャイナは笑ったり青くなったりと大忙しだ。
「ったく、参ったねこりゃ……」
つう、とシャイナの額から汗が流れる。その汗が口元に伝うのを舌で舐め取ると、やはりシャイナは笑った。
目はしっかりと敵を見据え、口元を歪めて牙を剥き出しにして笑う。
それは、肉食獣の威嚇のようだった。
☽
「すげえ……ジェダイだ」
今のシャイナを表現するのに、平太の乏しい語彙ではこれが精一杯だった。
だがそれほどまでに、目の前の戦いは現実を超え過ぎていて、誰かがこれは映画やアニメのシーンだよと言えば、あっさりと納得できてしまうほどだった。
シャイナは四方八方から間断なく襲い来る触手の攻撃を、盾と剣を駆使してすべて防いでいた。それだけでなく、じりじりと前進までしている。その姿は剣戟というよりは、むしろ舞踊と呼べるほど華麗だった。
剣や盾が陽の光を反射させる煌きや、光の軌跡が幻想的にすら見える。これが本当に、命のやり取りなのだろうか。
平太はこれまでに何度かシャイナが戦うのを見てきたし、先日は自分を相手に対人戦闘の究極形を見せてくれた。そして今は、対魔物戦闘の究極形を披露してくれている。これは見て学ぶまたとないチャンスだ。
何しろ平太の剣術は、ハートリーやシャイナに少しは鍛えられたものの、大半はゲームのキャラの動きを真似た剣術モドキなのだ。しかし今目の前で繰り広げられているのは、恐らくこの世界最強の剣士の動きである。もしそれを自分に取り入れる事ができたなら、どれだけアップグレードできるかわからない。平太は目を皿のようにしてシャイナの動きを目と頭に焼き付ける。
そうしてシャイナの動きをわずかも見逃さないように注視していると、
「あれ……?」
まさか、と思うような変化が現れた。
シャイナが押され始めたのだ。じりじりと前に詰めていた間合いが、あっという間に元の位置に押し戻される。
「拙いな。防御が間に合わなくなってきてるぞ」
グラディーラも平太と同じ見解だった。信じたくない事だが、スブメルススの攻撃が、シャイナの防御を上回ってきている。シャイナの表情にも余裕がなくなり、今や歯を食いしばって触手を捌くのに必死になっている。
「ウソだろ……。さっきまでシャイナの方が優勢だったじゃないか」
「そうではない。悔しいが、あれは敵がまだ本気を出していなかっただけだ。それに――」
グラディーラは言い難そうに言葉を止め、
「やはりここが普通の人間の限界であろう」
本当に残念そうに言った。
「いくらあの者がこの世界最高峰の剣士と言えど、所詮ただの人間だ。お前や前勇者のように、ヒトを超えた特別な能力があるわけでもない。もちろん、ただのヒトの身でありながら、よくぞあそこまで己を鍛え、高みに至った。それは純粋に賞賛に値する。だがしかし、それでも、その身がヒトの域を出ていなければ、魔物とはまともに戦う事はできぬのだ」
それくらい、ヒトと魔物――特に、上位の魔物との力の差は歴然としていると、グラディーラは言う。
「それじゃあお前はシャイナが負けるって言うのかよ……」
「時間の問題だ」
震える平太の問いに、グラディーラは辛そうに答えた。
そしてそれは、事実だった。
シャイナの盾が砕けた。
☽
「クソ、」
持ち手だけ残して砕け散った盾に、シャイナは舌打ちをする。
思ったよりも早く限界はきた。
いくら平太の攻撃を受け流していたとはいえ、あれだけの馬鹿力で打たれた威力をすべてゼロにする事は不可能である。当然、わずかずつではあるが、損傷は蓄積していた。
そこに加えてこの魔物である。
甘く見ていた感は否めないが、この戦いくらいは何とかなると思っていた。
が、読みが甘かったようだ。
シャイナは残った持ち手を捨てる。結構長い付き合いで愛着のある盾だったが、こうなってしまってはもう邪魔でしかない。
代わりに腰に挿した短剣を抜き二刀流の構えをとるが、盾と比べると実に頼りない。
ともあれ、ここまでの戦いでいくつかわかった事がある。
まず第一に、敵の攻撃自体はあまり早くない。単純に数が多いから厄介だが、目で追えないわけではない。
第二に――これが最も厄介で、それゆえに盾が破壊される要因になったのだが――触手の動きが不規則すぎて、まるで予測できない。
人間や動物――仮に魔物でも、骨格や関節があるならそこからどう動くか予測する事ができる。
しかし、スブメルススの触手には、骨格はおろか関節すら存在しないものがほとんどである。辛うじて甲殻類に近い触手は関節らしきものが見受けられるが、それ以外の触手は鞭のように自由自在に曲がる。
いくら目で追える速度でも、一度に八本の触手から縦横無尽に攻められれば、いかにシャイナと言えども受け流し続けられるものではない。
そうして攻撃を受け止め続け、盾を破壊されたわけだが、これでシャイナの負けが決まったわけではない。
「ふう……」
シャイナは静かに息を吐き、それぞれの手に持った剣を、具合を確かめるように握り直す。そして手首を返して何度か回転させると、二本とも鞘に戻した。
「あら、降参するの? でもダメよ。わたしを魚呼ばわりした罰として、ちゃんと殺してあげるから」
剣を収めたのを戦意喪失と見て取ったのか、スブメルススが冷たく笑う。
「降参? バカ言ってんじゃねーよ。今からお前を三枚におろすんだよ。ヘラヘラ笑ってねーでさっさとかかって来い」
「ま……」
ぎり、とスブメルススが歯を食いしばると、シャイナが二刀の柄に手を添えながら腰を落とす。腹の前で両腕を交差させた状態で、右足を前に出して踏ん張る。
その姿はまさに、
二刀流の剣豪。
「行くぜ」
シャイナが踏み出すと同時に、スブメルススの触手すべてが彼女に襲いかかる。
上下左右を埋め尽くす触手の槍は、逃げ道を完全に塞いでいる。盾を失った今のシャイナでは、これらをすべて防ぐのもかわすのも不可能だろう。
だから彼女は、防いだりかわしたりしなかった。
「フッ!」
気合の呼気と共に、シャイナはさらに前に踏み込んだ。
消えた――誰もがそう思った。
シャイナの神速の踏み込みは、この戦いを一瞬も見逃すまいと凝視し、剛身術で強化していた平太の眼ですら捉える事ができなかった。
そしてそれは、スブメルススも同じだった。
完全に触手で囲み込んだと確信した次の瞬間、まったく別の所からシャイナが現れた。いつ、どうやって八本の触手から逃れたのかまったく見えなかった。
シャイナは勢い余って地面を滑る。両手は未だ左右の剣の柄に置かれたまま。
いや、よく見れば、わずかに鞘から刃がのぞいている。そして今、完全に鞘に収まった。
抜いたのだ。
シャイナは誰にも見えない速度で踏み込み、そして剣を抜き、鞘に収めた。
ただ抜いただけではあるまい。当然抜いたからには、何かを斬っているはず。
その何かは、すぐに明らかになった。
「きゃああああああああああああああああああああっ!!」
スブメルススが悲鳴を上げた。
見れば、八本の触手がすべて斬り落とされていた。しかもただ斬るだけでなく、それぞれが十個以上の輪切りになっている。
スクートをつかんでいたスブメルススの両腕の力が、触手を斬り落とされた痛みとショックでゆるみ、スクートの身体がスブメルススからわずかに離れる。
「今だ! 走れ!」
シャイナの叫ぶ声に、スクートとスブメルススが同時にはっとする。
動いたのも、二人同時だった。
スクートがスブメルススの手を振り切り、一歩踏み出す。次の瞬間、スブメルススが逃げようとするスクートに手を伸ばす。
だがほんのわずかの差で、その手は空を切った。スクートは増幅魔法で自身の身体能力を極限まで増幅し、シャイナに向かって全力で走った。
次の瞬間には、スクートはシャイナに飛び込むようにして抱きついていた。シャイナもそれを待っていたように、スクートを優しく包み込む。
「よーし、よくやった。偉いぞ」
シャイナがスクートの頭を撫でると、ふわふわの髪が柔らかそうに揺れた。
妹を褒めるような笑顔で頭を撫でるシャイナの顔を、スクートが憧憬のこもった目で見つめていると、
「スクート!」
後ろからグラディーラに抱き締められた。
「まったくお前は、いつもいつも心配かけて……」
「い、いたい。いたいよお、おねえちゃん……」
普段の冷淡な姿からは想像もできないほど、グラディーラは強くしっかりとスクートを抱き締める。その姿に、シャイナは故郷に残してきた自分の弟妹たちを少しだけ重ねた。
しかしそんな感傷はすぐに切り捨て、シャイナは再び二刀を抜いて構え、スブメルススへと向き直る。
「さて、これで厄介な触手と人質の両方を失ったな――ってあれ?」
残るは三枚におろすだけと意気込んでみたものの、スブメルススの姿はどこにも見当たらなかった。触手をすべて斬り落とされた上にスクートに逃げられた時点で、勝ち目無しと見て逃げ出したのだろう。
「逃げ足の早い奴だ……」
拍子抜けしたシャイナは、二刀を鞘に収める。地面では、斬り落とされたスブメルススの触手たちが輪切りになってもまだ動いていた。もの凄い生命力だ。
そしてそれらの中に、砕けた盾の破片を見つける。シャイナは屈み込み、破片のひとつを指でつまみ上げる。
完全にただの鉄の塊と化してはいたが、ついた傷を見ればそれがどこの破片だったかだいたいわかる。それほどまでに使い込んだ愛着のある盾だったのだが――
視線を、未だ抱き合っているグラディーラとスクートに戻す。人質は無事解放。どこもケガしておらず、無事で何よりだった。それでいいじゃないか。物は所詮物であり、形あるものはいつか壊れるのが運命というものだ。
シャイナは手に持った盾の破片を、そっと地面に戻す。今までありがとう、そしてさようなら、という思いと共に。
「さて、と」
引き上げるか、と歩き出そうとしたシャイナの顔が、一瞬苦痛で歪む。全身を襲う激痛に、声にならない呻き声が喉を鳴らす。
「っつー……」
平太との一戦で、少々無茶をし過ぎた。その疲労も抜けきらぬままに、最後の二刀流である。どうやら肉体が限界を超えたようだ。全身の筋肉を限界以上に酷使したツケが、今になって現れる。
敵が逃げてくれて助かったのは、自分の方かもしれない。もしあのまま戦っていれば、先に身体にガタが来て自分の方が負けていたという可能性もある。
「こりゃあの馬鹿の事言ってられねーな」
鍛えが足りない、と思った。
と同時に、こんな時、自分も剛身術が使えたなら、とも思った。
けれどそれはすぐに間違いだと思い直し、シャイナは改めて己を鍛え直す事を決意する。自分にできるのは、それだけであると。
「おいお前ら、いつまで抱き合ってんだよ。引き上げるぞ」
気を取り直し、シャイナはグラディーラたちに声をかける。
グラディーラはようやく気がついたとばかりに立ち上がり、
「妹を助けてくれて、礼を言う」
深々と頭を下げた。
「いーってことよ。それより、そっちのチビ助も連れて来い。ここにいたら、またいつ魔物に目をつけられるかわかんねーからな」
「あ、ああ、そうだな……。というわけだ、スクート。お前もいつまでもわがまま言ってないで、これからは我々と一緒に――」
「うん、スクートもあのおねーちゃんと行く!」
「――え?」
これまで頑なに岬から動こうとしなかったスクートのいきなりの心変わりに、グラディーラは呆気にとられる。
「さっきのおねーちゃん、すっごいカッコ良かったね! スクートも、あのおねーちゃんが行くなら一緒に行く!」
「あ……うん、そうか」
言うなりスクートは、姉との話はもうおしまいとばかりに背を向け、シャイナに向けてダッシュした。気のせいか、今日一番速いダッシュだ。
「うおっと……。どうした、チビ助」
「助けてくれてありがとう! あのね、スクートもいっしょに行くから、これからもよろしくね!」
「お、おう。それはいいが、あんまりひっつくなよ」
シャイナが引くのも無理はない。何しろスクートは猿が木にしがみつくように、シャイナに抱きついているのだから。
「うわーすごーい! おっぱいおっきいー!」
「どこ触ってやがる! あとデカい声で言うんじゃねえ!」
スクートを引っぺがそうとするが、身体強化をしているのかシャイナの腕力でも引きはがせない。その背後ではグラディーラが複雑な表情をしていた。
ともあれ、平太たち一行は伝説の盾スクートを仲間に加える事ができた。
ただ、どうにもお互いの目的がすれ違ってる感は否めないが。




