人間の生活を学ぶ、ちょっと力を貸そう
ディビエイル達が洋館を出発し、森林を抜け平原を進み1ヶ月と少し、ようやく人間の住む拠点に辿り着いた。
勇者サプル達がディビエイルに会う前に立ち寄った最後の村である『トスファー』、その村の門の手前で立ち止まった。
門の横に建てられている物見櫓に向かってサプルが声を掛けた。
「おーーーーい!すまない!開門してもらえるかーーー!」
その呼びかけに櫓にいた人間が反応する。
「・・・ん?・・あっ!あんたら!!生きてたのか!?」
櫓内がザワザワしている。
「何事じゃ?」
「あぁ、ここを出る前に事情は話してあってな、歴代の勇者の事や凶魔の祖の事、俺たちも戻ってこれないと思っていただろうからそれが戻ってきてザワついてるんだろうよ」
少し待つと門が開いていき、中から守衛の責任者らしき男が出てきた。
「おいサプルじゃないか、ホントに生きて戻ってこれたんだな」
「ようガドー、それについては俺が一番信じられないよ」
ガドーと呼ばれたこの男、主にこのトスファーの村の警護を担当する組織『守りの基礎』の長をやっている。
身長はサプルと同じくらいで、普段から鍛えているのだろう、肩幅が広いがっちりとした体型をしている。
「ここに戻ってこれたということは、目的は達成出来たってことか?」
「それについてはちょっと事情が変わってな、今は新しくやることが出来て逆に帝国に帰ろうとしてるところなんだよ」
「そうなのか?まぁ細かいことは俺たちにはよく分からんが、こうしてまた会えたのは素直に嬉しいよ」
「俺たちもだ。それでガドー、こっちはこれからまた長い旅路になりそうなんだ、村で少し過ごさせてもらいたいんだが、構わないだろうか?」
「勿論だ、ただそっちの綺麗な姉さん2人は初めて見るな」
ディビエイルとフォロアのことを言っているのだろう。
「この2人がさっき言った事情の大半だ、この人達を俺たちは帝国に送り届けなきゃならないんだ」
「そういう事か、了解だ。サプルの事だから悪いようにはしないだろうが、一応規則なんでな、持ち物を調べさせてもらえるか?」
ディビエイルの方を見た。
「無論、構わんぞ」
「(だろうな、不自然なくらい何も持ってないもんな)すまん、協力してやってくれ」
「そっちのメイドのような姉さんも良いかい?」
フォロアは無言で頷いた。
「助かるよ、お〜い誰か、ルミエを呼んできてくれ」
ガドーが守衛達に声を掛けるとその中の1人の女性が進み出てきた。
「隊長、ここにいますよ」
「おぉ、居たのか!すまん小さくて見えなかった」
失礼な物言いだが、実際ルミエと呼ばれた女性は小さかった。
守りの基礎の構成人員は男性が殆どだが、女性もいる、その者たちは主に衛生兵や検査兵を担当している。
ルミエは検査兵を担当している。村に訪れる旅人や商人等が村に入る前に持ち物検査をしたり、村に放置された不審物や正体不明物を調べたりする役割だ。
検査兵は男性も存在するが、来訪者の性別によって誰が担当するか変えているようだ。
今回はディビエイルとフォロアが女性のため、ルミエが呼ばれたのだろう
「この人達の持ち物検査を頼んでも良いか?」
「わかりました」
そう言うと先ず、ディビエイルの方に向かった。
「ごめんなさい、少ししゃがんでもらえますか?」
「うむ」
ディビエイルは言われた通り、ルミエに目線を合わせてしゃがんだ。背が小さいので上まで手が届かないのだ。
腕の方から始まり、上半身を順番にポフポフしている。
「(すごく良いスタイル・・羨ましいな・・)」
足の方に移り、靴の先まで調べ終えるとルミエは言った。
「ありがとうございます、立ってもらって大丈夫です」
「わかった」
ディビエイルは立ち上がる。
「もうちょっと失礼しますね」
そう言ってルミエは両手を前に広げてディビエイルに向けて魔術を発動した、ディビエイルの周りにフワッと白いモヤのようなものが現れた。
これは外から触っても分からない持ち物を炙り出すための検査魔術である。例えば、体の中に危険物を隠し持っていた場合に体を覆うモヤが白から赤く変わる。そうやって不審者を選別していくのだ。
ディビエイルはずっと白のままだった。
「はい、大丈夫です。協力ありがとうございました」
「うむ、苦しゅうないぞ」
「(でも・・・この人何だか、逆にものを持ってなさすぎ・・?)」
大抵の人間は何かしらの者を持っているものだ、人にもよるがハンカチだったり、財布だったり、筆記用具だったりする。旅人であれば尚更だ。
だがディビエイルは本当に何も持っていない、服を着ているだけなのである。
ルミエはこういう人もいるのかと思ったが、確かに危険物は所持していなかったのでヨシとした。
次にフォロアの番だが、こちらも特に問題なく進んでいく。何故かスカートの下の太腿あたりにフリル付きのバンドで固定された小さなハサミがあり、これは?と聞くと、ディビエイル様のお髪用ですと言っていた。特に殺傷能力も高くなさそうのでクリアした。
大きめの旅行カバンの中を調べると折り畳みテーブルと椅子とティーセットと調理器具、あといくつかの服しか入っていなかった。およそ旅の荷物とは思えない持ち物だった。
「はい、あなたも大丈夫です。協力ありがとうございました」
「はい」
「(この人は持ち物が偏ってる・・よく分からない2人です・・)」
ガドーに報告に向かう。
「終わりました、この2人は問題ありません」
「ご苦労だったな、戻ってくれて良いぞ」
ルミエは一礼して守衛達の中に戻って行った。
「待たせたな、入ってくれ。トスファーの村へようこそ、特に見るべきものもないがゆっくりしてくれ」
ガドーが村への道を通してくれた。
「いよいよ村に入れるのじゃな」
「そんなに長居するつもりはないが、しばらくは滞在するつもりだ、ゆっくり見聞を広げてみてくれ」
「わかった」
「俺とチルドフは村長に挨拶してから先に宿の部屋を確保してくる、ウォッツは2人についててくれるか?」
「承知しました」
「じゃあ一旦ここで解散だ」
村の入り口で男性組と女性組で別れた。
このトスファーの村は東西に出入り口の門を設置し村の周りを大きく石壁で囲んでいる、そして村を中心に南北に大きな川が流れており、村の外堀を水が通る仕組みだ。この先に向かうなら川を大きく迂回するか、村の中を通るか、頑張って強引に川を渡るしかない。だが川幅もかなりあり、水深も結構深いので泳いで渡るのはあまり現実的ではなさそうだ。
ディビエイルはフォロアとウォッツと共に村の中をみて回ることにした。村で過ごした事があるウォッツに軽く案内してもらう。
「ディビエイルさん、この村はどう思いますか?」
「そうじゃのう、儂が今まで見てきた人間の集落の中では大きい方だと思うのじゃ、それに入り口であの肩幅が広い男が特に見るべきものもないと言っておったが、それなりに活気がある方ではないかの」
「贅沢を求めなければあまり不自由なく暮らせる村だと思いますよ、それにこの辺りの領主は寛大な方で、税金もかなり低いそうです」
「うむ、確かに村人の顔に悲壮感というものがないのう、この村が好きなようじゃ」
「食べ物の種類も多いんですよ、あちらを見に行きましょう」
ウォッツに先導され一番大きな通りに出てきた。
「この辺りが市場です、買い物は大体ここで揃いますよ」
屋台が沢山並んでいる、村や町であればよく見る野菜や果物の売り場、穀物や香辛料の売り場、干し肉や魚の干物の売り場、服や雑貨売り場、調理器具の売り場や手作りのアクセサリー売り場まである。
「すごく種類が豊富じゃのう」
「ですよね!見ているだけでも楽しいんですよ」
ウォッツは楽しそうだ、買い物でいろんなものを見るのが好きなのだろう。
屋台を見ながら歩いていると、串焼きの屋台に声をかけられた。
「ありゃ?そこにいんのはウォッツさんじゃないかい!?生きとったんかい!」
「失礼ですね、この通りですよ」
「すまねぇ、俺りゃてっきり・・それにその姉さん方は?」
「この方たちは私達の新しい仲間です、粗相の無いようにして下さいね」
「そうかぁ、わかった!生存祝いと新しい仲間の加入祝いにこいつを持って行ってくれや!」
串焼きを5本渡してくれた。
「ありがとうございます!」
「今後ともご贔屓に〜」
手を振っていた。そのまま屋台を後にする。
「よかったのう」
「はい!1本どうぞ」
「どれどれ・・」
串焼きを1本受け取り口に入れてみる、肉と野菜を交互に刺して炭火で焼いたシンプルなものだが・・
「おぉ、これは美味いぞ」
「ですよね!私、この屋台の串焼き大好きなんですよ」
「うむ、肉は焼きすぎて固くなっておらず、だがしっかり中まで火が通っておる、しかも肉汁をちゃんと残したままの、新鮮な肉を使っておる。野菜に関してもそうじゃ、収穫してから日はそんなに経っていない物を使っておるのじゃろう、しっかり歯応えがあり、野菜本来の甘みが染み出してきおる、両方繊細な焼き加減がなされておる。もしかしたら、炭にも拘りがありそうじゃのう」
「そこまで分かるんですね・・前に聞いたのは、あそこの屋台は素材にかなり拘っていて、野菜とかもその時期の旬の物を使っていて、コロコロ串の内訳が変わるそうです、それを代々続けているそうですよ」
「なるほどのう、人間はそうやって技術を後の代に残していくのじゃのう」
「私も最初に食べた時にびっくりしたんですよ、こんなに美味しい串焼きがあるんだって。はい、フォロアさんも」
「ありがとうございます」
串焼きを受け取り口に含んだ。
「これは・・」
「うまかろう?」
「この村にいる間に店主に作り方を聞いておきます」
気に入ったようだ。
「聞くのは構わんが、仮に教えてくれたとして一朝一夕で真似出来るものではないと思うがのう、伝承された技術とはそういうものじゃ」
フォロアが少しシュンとしていた。
「それにしても・・言い方は悪いかもしれんがこのような中規模の村でこれほどの技術と相見えようとは、この村はあれを生業に生計を立てておるのか?」
「確かにあれもその1つだと思いますが、もっと大きな仕事をしている方がいるみたいですよ」
「ほぅ?」
「今もやっているかわかりませんが、行ってみましょうか」
「うむ。あ、残りの串は食べて良いぞ」
「私も結構です」
「えぇ〜〜・・・私3本も食べるんですかぁ〜・・?」
その後、ウォッツに連れられ市場とは離れた路地の方へ向かう。
途中でウォッツが、『くっ・・3本も食べたら太っちゃう・・でも早く食べないと美味しくなくなっちゃう・・かと言って捨てるわけにも・・・あぁぁぁ〜〜〜どうして私はディビエイルさんじゃないんだ〜〜・・』などと悩みながら頑張って食べていた。少し満腹そうだ。
「あの建物ですよ」
ウォッツが指差した先に屋根から煙突が出た家があった、扉の横に小さな看板が掛かっており、随分掠れているが剣の絵が描いてあるようだ。
「ここはなんじゃ?」
「この村の鍛冶師さんの工房ですよ、私は武具の良し悪しが分からないのですが、すごい鍛冶師さんだそうで、その方の作る武具の代金がこの村に大きく貢献されていると聞きました」
「ほぅ、鍛冶師とは」
「会ってみて下さい」
そう言うとウォッツが扉をノックし、開いた。炭と金属の香りが出迎えてくれる。
「失礼しますー、ジャンさんいらっしゃいますかー?」
「あれ?」
声に反応してトコトコと小さな女の子が歩いてきた。
「ウォッツお姉ちゃん!?戻って来れたの?」
「久しぶりだね、ムースちゃん。この通りだよ」
「わーー!良かったねぇ!」
嬉しそうに跳ねていた。
「ディビエイルさん、この子はムースちゃん、ここの鍛冶師のお子さんですよ」
「このお姉ちゃん達は?」
「ムースちゃん、こっちの背の高い綺麗なお姉さんはディビエイルさん、奥のメイドさんはフォロアさんていうの、2人とも私の新しい仲間だよ」
「そうなんだー!あたし、ムースって言います、お姉ちゃんたちよろしくお願いします!」
「うむ、よろしくのう、元気な子供じゃ」
そう言ってムースの頭をぽんぽんすると嬉しそうにしている。
フォロアも静かに会釈していた。
「ムースちゃん、今日はお父さんは居る?」
「奥の作業場にいるよー、ただなんだか最近元気がないような気がするの、あたしはよく分からないんだけど・・」
「そうなんだ・・、ちょっと話聞いてみるね」
「うん!」
奥の作業場に向かう。そこでは竈門を見つめている男性がいた。
「失礼します、ジャンさん・・?」
「・・・ん?」
ジャンと呼ばれた男性が振り向いた。
「あれ・・?あんた確か死んだはずじゃ」
「死んでません!まぁ確かに、もう戻れないだろうって話はした気がしますが・・」
「そっか、戻ってこれたんだな、良かったじゃないか」
「ありがとうございます、それよりどうかしたんですか?」
「何がだ?」
「ムースちゃんがジャンさんの元気がないように見えるって・・」
「あいつが・・?そうか、そんな風に見えちまってたのか・・」
ジャンが押し黙った。ウォッツとジャンが話している間にディビエイルは作業場の中を見渡していた。
試作品なのか完成品なのか製作途中なのか、色々な武具が所狭しと並べられている。
ふとその中の1つの剣が目に留まった、他の武具達に覆い被されるようにして殆ど見えなくなっており若干埃すら被っていたそれをディビエイルは引っ張り出した。大きさとしてはミドルソードくらいの長さだが、刃が片方にしか付いていない。
「業物じゃな」
その声にジャンが振り向いた。
「あんた、それは・・」
「見た目はあまり長くなく、太さもなく、いかにも頼りないが、込められた質量が尋常ではない、そこらの武器で太刀打ちするのはまず不可能じゃろう」
そう言うと部屋の作業机の上に静かに置いた、机がみしみしと音を立てている。
それを見ていたウォッツがそれを手に取り持ち上げようとするが・・
「ん?・・ん〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!あれ!?」
かけらも動かなかった。
「え?え!?さっきディビエイルさん片手で・・」
「・・・姉さんすげーな、そいつは力自慢で筋骨隆々の男でも振れねぇ代物だぞ」
ジャンが机の前までやってきた。
「自己紹介がまだだったな、俺はジャン、この村の鍛冶師だ」
「ディビエイルという、旅の途中でこの村に立ち寄った、よろしく頼むのう」
「娘にはもう会ったみたいだな」
「うむ、先ほどの元気な子供じゃな、愛い奴じゃ」
「にしても、その細腕でそれを持てるのか・・」
「これは其方が?」
「いや、刃の根本を見てみてくれ」
言われて刃を見る、銘が刻んであるようだ。
「ハーマ?」
「先代の名前だ、俺の師匠の作品だよ」
剣を見ながらジャンは言った。
「俺の師匠は多くの武具を打ち、世に残したが、最後にこいつを打ってすぐに死んだ、最高傑作だと言っていたよ。だがその技術を俺に教える前に死んだから、俺にはこいつの詳細が分からない、とんでもなく硬くて重いってことだけだ」
「それで悩んでおったのか?」
「いや、それについてはもういいんだ、いつまでも師匠の技術に固執してても仕方ないからな。剣を戻しておいてくれるか?俺じゃ仕舞えない」
ディビエイルがヒョイと持ち上げ元の場所に戻した
「・・・姉さんなら話してみても良いかもしれないな」
そう言うと、別の棚から何か石のようなものを持ってきた。
「こいつのことなんだ」
「これは、鉱石・・ですか?」
ウォッツが不思議そうにそれを見た。紫色の原石の欠片で一見するとアメジストのようだ。
「これはちょっと前にここを訪れた商人から渡されたものだ、ある人物がこれを使って武器を作って欲しいと」
「これを使って・・」
「急ぎじゃなくて良いからとも言われて引き受けた、俺も最初は金を払って宝石を使って武器を作れとは、変な金持ちもいるもんだと思ったんだ」
「確かにアメジストはそこまで希少なものではないですが、武器に加工するとなると高価になると思います」
「だが、加工し始めて気付いた、これはアメジストなんかじゃない」
「え?」
「ハンマーで思い切り叩いても欠けもしない、どれだけ火に焚べても溶けやしないんだよ」
「じゃろうのう、これは宝石などではない」
「・・・!知ってるのか!?」
「これはジングリッド集石、一種の呪鉱石じゃ」
「呪鉱石・・?」
「石にはランクがあっての、下から末石、中石、上石、貴石、王石、皇石、天石、神石となる。集石はそれらから外れたものじゃ、このジングリッドはこれ自体が呪いを持つ訳ではなく、呪いを吹き込む為の素材と言った感じじゃの」
「これが・・・じゃあもしかして・・」
「うむ、其方にこれで武器を作らせて、呪いの武器として使うつもりだったのであろうよ」
「なるほどな・・俺は危うく呪いの片棒を担がされる羽目になってたって訳か、教えてくれてありがとうな」
「気にせんで良い」
「しかし、こいつはもう使えないな」
「良いのか?確かに呪いはあるが素材としては優秀じゃぞ?」
「いや危ないだろ、それにここではこいつに歯がたたないしな」
「呪いを消せば良い」
「そんなこと出来るのか?」
「うむ、呪いも一つの状態異常じゃからの、上から覆いかぶさっているようなものじゃ」
そう言うとディビエイルはジングリッドの上に手を翳した。
「これはすでに呪いが付与されておるのう」
そして何かを掴み、手を上に上げた。すると石からバチバチと音がし、紫色のモヤが引き剥がされ手の上に乗っていた。
「これが呪いじゃ、このようにはっきりした形を持っておらん。これはどうやら触れた物が徐々に弱体化し最後には死ぬ呪いのようじゃ、典型的じゃのう」
と言いながらガッツリディビエイルの手に乗っているが。
「あ、あんたは大丈夫なのか・・?」
心配されているが、呪いはディビエイルの手の上で小さくなっていき、やがて消えた。
「問題ない」
「そ、そうか・・」
「次は加工じゃ、この石は生半可な火力ではびくともせんからの、とりあえず竈門に火をかけてくれるか?」
言われた通り、ジャンは竈門に火を熾した。昔ながらの吹子式のシンプルなものだ。
「基本的に火が燃えるには酸素が必要じゃ、火力を上げるには酸素供給を増やせば良い、このように」
ディビエイルが人差し指を前に突き出し、下から上になぞるように上げていく、それに連動するように火がどんどん大きくなっていき、色も変わり出した。
赤かったものが黄色になり白くなっていき、青くなり、近くに居れないレベルになってきた。
「ま、待ってくれ!竈門の石が溶け始めたぞ!!」
「む、いかんな。竈門の耐熱温度を上げておこうぞ」
火の温度は更に上がり、青色を超え銀色になった。ここまで来ると火に慣れているジャンも近寄れない。ディビエイルは平然としているが。
「これくらいじゃな、ここにこれを入れる」
ディビエイルはジングリッドを掴み無造作に手で竈門の中に置いた。
しばらく置いておくと、石が明るくなっていき、紫色に光り出した。
「これで形が変えられるじゃろう」
そう言うとそのまま火の中から手で掴みだし火を消した。そのままそれを素手で捏ねだした。
粘土細工のようにコネコネしていき、やがて長細いものが出来上がった。
「後は焼き入れじゃの、湯は・・これか」
近くに置いてあった焼き入れ用の湯の桶に突っ込んだ。ジュゴワっと一気に水蒸気が広がり湯がボコボコと泡だった。
「ちょっと温度が高いが、まぁ適当じゃし、大丈夫じゃろう」
そう言ってディビエイルが作ったのは短めの杖だった、焼き入れから取り出すと美しい紫色を放っている。
「このように加工するのじゃ、わかったかのう」
それをコトリと机に置きながら言った。
なんのことはない、竈門に火を熾し、火力をあげ、素材を熱して鍛錬し整形してから焼き入れする。工程は単純だ。
火の温度の高さや、素手で整形していた事に目を瞑れば、だが・・・
「どうなってんだ・・手品でも見てんのか・・?」
ジャンは自分の感覚を疑った、しかし目の前には実際にジャンでは何も出来なかった石が加工され杖に形を変えた状態で置かれている、信じるしかなかった。
「剣と戦っても負けはせんぞ、剣の方が砕けるじゃろう」
「ちょっと触らせてくれ」
そう言って杖を触る、まだ少し熱いが触れないことはない。
ジャンは杖を指でコツコツ叩いたり、振ったりしていた。
「すごい密度だ、こりゃちょっとやそっとじゃ壊れないぞ」
「これはお試しじゃ、後は自分で好きに加工するが良い」
「いや、最初に言ったが俺にはこいつをどうする事も出来なかった、この杖はもうあんたの作品だ、持っていってくれ」
「良いのか?」
「あの馬鹿げた火力も真似できなさそうだしな、それに呪いが付与された素材を持ち込まれた事も気に入らねぇ」
「それなら、ここに来る前にルミエさんの検査でわかりそうですが」
「守衛の奴らもただの宝石だと思って見逃したんだろう、やられたな」
「後で村長さんにも報告しておきますね」
「頼むよ、ともかくこれはあんたに渡しておくよ」
「わかった」
ディビエイルはジャンから杖を受け取った。
「では、これはここにきた記念にムースにやるとしよう」
そのまま作業場を出てムースの所へ向かった。
「ムースよ」
「なぁにーお姉ちゃん?あ、さっきそっちの作業場からなんだか熱い風が来て、そのあとすぐにモヤモヤ〜ってなってたんだけど大丈夫だったの?」
「問題ない、これをお前にやろう」
そう言って杖を渡した。
「わっ!何これー!キレー!」
「普通のものより小さいが、杖じゃ。ここにきた記念にの、まぁお守り代わりにでも持っておるが良い」
「わかったー!お姉ちゃん、ありがとうー!」
そう言って抱きついてきた。ディビエイルはその頭を優しく撫でた。
その後ムースはジャンのところにいき、お父さんこれ見てー、すごいだろう、という会話をしていた。
ムースとの会話が終わるとジャンが話しかけてきた。
「すまん、すっかり有耶無耶になってしまったが、何か俺に用があったんじゃないのか?」
「そうでした!用という程ではないのですが、この村を支える仕事をされているジャンさんをディビエイルさんに紹介しようと思ってきたんですよ」
「そういう事だったのか、支えるなんて大袈裟だが、お陰で娘共々食いっぱぐれにはあってないよ」
「其方の家系はずっと鍛冶師なのか?」
「そうだな・・確か俺の爺さんが別の街で鍛冶を学んで、この村で俺の父親に引き継ぎ、俺がそれを継いだ、俺の家系だと俺で3代目だ」
「ふむ、やはりこの村はそういうものが多いのかもしれないのう」
大きな国の規則や税金に縛られず、純粋に人間の技術を突き詰めていくことを目指す、そういったものがこの村には集まりやすい傾向にあるのかもしれない。
「そうだ、悩みを解決してくれたお礼、て訳じゃないが、何か困ってる事はないか?あんな物を見せられた姉さんの前で言えたもんじゃないが・・俺に出来る範囲で何でも作るぞ」
「儂は特に困っとらんが」
「だろうな・・、そっちの姉さんはどうだ?」
フォロアにも聞いていた。
「私も特には」
「折角の人間との交流の機会じゃ、何かやってもらったらどうじゃ?」
「そうですね・・では」
そう言ってフォロアはスカートの下からハサミを取り出した。
「こちらの方があまり調子が良くなくて」
「ハサミだな、見せてくれるか?」
フォロアはジャンにハサミを手渡した。
ジャンはハサミをじっくり観察し、閉じたり開いたりしていた。
やがて口を開いた。
「ほとんど目には見えないが、刃こぼれと歪みがある、さっきスカートの中から出してたが、ずっと身に付けてるのか?」
「そうですね、大体は」
「恐らくそれでだろう、若干錆が進み始めてる、人間の体温を生身で浴びて酸化してるんだ。普段何か袋に入れてないし、手入れもあまり出来ていないのだろう」
「すごいのう、そこまでわかるのか」
「刃物ってのはデリケートだ、持ち主の性格と生活が刃に現れるんだ」
「そうなんですね」
「よければこいつを預かっても良いか?最高の状態にして返すと約束する」
「わかりました、いくらになりますか?」
「言ったろ、お礼だって、お代は結構だ」
「ありがとうございます」
「そういや姉さんたち旅の途中って言ってたが、まだ村に滞在するのか?」
「そうじゃのう、まだはっきりいつ出発するかは決まっておらん」
「よし、じゃあこれから作業するから、また明日来てもらえるか?」
「承知した」
鍛冶工房を後にする、後ろでムースが、お姉ちゃんたちまたねー♩と手を振っていた。
それに手を振り返しながら歩いていく。
「さて、この後はどうするのじゃ?」
「そうですね、サプル達が宿を取ってくれているはずなので一旦戻って合流しましょうか」
「わかった」
ディビエイル達はそのまま宿を目指し歩いて行った。
その頃、村の中と外を結ぶ秘密の地下通路で、十数人の黒づくめの人間が話し合っていた。
「村の中の様子はどうだ?」
「相変わらずです、丁度今、外から勇者達について来た女性の冒険者が2人いるみたいですが、特に武器などは持っていなかったようです」
「脅威ではない、か。なら問題は勇者達か、まさかあの森林から帰ってくるとはな」
「どうやら村にしばらく滞在するようです、どこかで油断するでしょう」
「よし、では3日後決行する、各自そのつもりで準備しておけ」
全員が頷いた。
「必ず鍛冶師の娘を手に入れるぞ」




