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流し雛(びな)は月の下で  作者: 転生新語


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3/3

エピローグ

 あのときの祭(まつ)りは、すぐに大雨(おおあめ)で中止(ちゅうし)になって。彼女(かのじょ)の姉(あね)は水(みず)の事故(じこ)で亡(な)くなったということで処理(しょり)されたようだ。田舎(いなか)の警察(けいさつ)というのは、やる気(き)もなくて、いい加減(かげん)なものなのだろう。


「警察(けいさつ)も無能(むのう)だったんでしょうけど。みんな、事故(じこ)と思(おも)い込(こ)みたかったんですよ、きっと。だって小(ちい)さな田舎(いなか)のなかに、殺人犯(さつじんはん)が潜(ひそ)んでいるなんて思(おも)いたくないじゃないですか。それはそうと、私の両親(りょうしん)なんか酷(ひど)かったんですよ? 『お前(まえ)が代(か)わりに死(し)ねば良(よ)かった』とか言(い)いだして。両親(りょうしん)は、私が姉(あね)を殺(ころ)したんじゃないかって疑(うたが)ってたんですね」


 引(ひ)き続(つづ)き、私たちは東京(とうきょう)の縁日(えんにち)を楽(たの)しんでいる。私は、彼女(かのじょ)と双子(ふたご)の姉(あね)が不仲(ふなか)だったという話(はなし)を聞(き)いて、その理由(りゆう)がわかった気(き)がした。きっと彼女(かのじょ)の姉(あね)は善人(ぜんにん)だったのだろう。


 正反対(せいはんたい)の性格(せいかく)である、双子(ふたご)の姉(あね)が私に殺(ころ)されて。彼女(かのじょ)のほうが生(い)き残(のこ)って、私に付(つ)き纏(まと)うようになった。悪(あく)の素養(そよう)が、私との出会(であ)いによって開花(かいか)したと。そういうことではないか。


「あの祭(まつ)りから、しばらく経(た)った後(あと)、道端(みちばた)で貴女(あなた)が私に話(はな)しかけてきたよね。『私、貴女(あなた)の秘密(ひみつ)を知(し)っています』って。狭(せま)い田舎(いなか)だから、私のことを探(さが)すのは簡単(かんたん)だったんでしょうけど。いい度胸(どきょう)じゃない。当時(とうじ)、十才(じゅっさい)でしょ。私に殺(ころ)されるとは思(おも)わなかったの?」


「心配(しんぱい)してませんでしたよ、全然(ぜんぜん)。警察(けいさつ)に話(はな)す気(き)はないって説明(せつめい)すれば、わかってもらえると信(しん)じてました。貴女(あなた)は一匹(いっぴき)狼(おおかみ)で、友(とも)だちもいないというのは、見(み)ていて理解(りかい)できましたし。私も、そうでしたからね。お互(たが)いに、わかり合(あ)えるって確信(かくしん)できたんです」


 そのとおりだった。私たちは互(たが)いに、それぞれの美(び)を認(みと)め合(あ)ったのだ。善人(ぜんにん)にはない、魂(たましい)の奥底(おくそこ)にある、ぎらぎらとした輝(かがや)きが私たちを結(むす)び付(つ)けたのだろう。周囲(しゅうい)から疑(うたが)われてはいけないので、上京(じょうきょう)するまでは、ネットで文通(ぶんつう)のような関係(かんけい)をひそかに私たちは続(つづ)けていた。


「女性(じょせい)に連続(れんぞく)殺人犯(さつじんはん)は少(すく)ないって、よく言(い)われるけど。そうなんだろうね、きっと。私のほうは憑(つ)きものが落(お)ちたって気(き)がする。貴女(あなた)はどう?」


 人(ひと)を一人(ひとり)、殺(ころ)したことで満足(まんぞく)できたのか、以降(いこう)の私は特(とく)に悪事(あくじ)なども働(はたら)いてない。私を理解(りかい)している、彼女(かのじょ)の存在(そんざい)も大(おお)きかったのだろう。いい刺激(しげき)になって、退屈(たいくつ)だった村(むら)での生活(せいかつ)も普通(ふつう)に過(す)ごすことができるようになった。友人(ゆうじん)というのは大切(たいせつ)なものである。


「精神的(せいしんてき)にですか? ええ、今(いま)は安定(あんてい)してますよ。貴女(あなた)が東京(とうきょう)の大学(だいがく)に行(い)って、故郷(ふるさと)に私だけ残(のこ)されてた時期(じき)は酷(ひど)かったですけどね。内側(うちがわ)からの衝動(しょうどう)っていうんですか、そういうのが抑(おさ)えられなくなって。だから独(ひと)りで処(・)理(・)しちゃいました」


 田舎(いなか)の警察(けいさつ)は、変(か)わらず無能(むのう)でしたよ。にっこりと、彼女(かのじょ)はそう言(い)った。


「付(つ)き合(あ)いを考(かんが)えようかな。私まで逮捕(たいほ)される前(まえ)に始末(しまつ)するべきかも」


「こちらこそですよ、いつだって貴女(あなた)なんか片(かた)づけられますから。……それはそれで寂(さび)しいですけどね」


 軽口(かるくち)を叩(たた)き合(あ)って、私たちは互(たが)いを必要(ひつよう)としていると実感(じっかん)する。私も彼女(かのじょ)も桐(きり)下駄(げた)を履(は)いていて、もし縁日(えんにち)の会場(かいじょう)に、刃物(はもの)を持(も)った襲撃者(しゅうげきしゃ)が来(く)れば逃(に)げられないだろう。かつて狼(おおかみ)だった私たちは、今(いま)や無力(むりょく)な羊(ひつじ)に過(す)ぎなくて、その状態(じょうたい)がとても心地(ここち)いいのだ。


「月(つき)が綺麗(きれい)ね。こんな夜(よる)は、貴女(あなた)を殺(ころ)して流(なが)したいな」


 殺(や)られませんって、と彼女(かのじょ)が返(かえ)す。私が殺(ころ)した、少女(しょうじょ)の片割(かたわ)れは成(せい)熟(じゅく)した姿(すがた)で隣(となり)を歩(ある)いていく。浴衣(ゆかた)姿(すがた)で川(かわ)へ流(なが)す、彼女(かのじょ)の遺体(いたい)が月明(つきあ)かりの下(もと)に照(て)らされる様(さま)を、私は脳裏(のうり)に思(おも)い浮(う)かべて笑(わら)った。

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