エピローグ
あのときの祭りは、すぐに大雨で中止になって。彼女の姉は水の事故で亡くなったということで処理されたようだ。田舎の警察というのは、やる気もなくて、いい加減なものなのだろう。
「警察も無能だったんでしょうけど。みんな、事故と思い込みたかったんですよ、きっと。だって小さな田舎のなかに、殺人犯が潜んでいるなんて思いたくないじゃないですか。それはそうと、私の両親なんか酷かったんですよ? 『お前が代わりに死ねば良かった』とか言いだして。両親は、私が姉を殺したんじゃないかって疑ってたんですね」
引き続き、私たちは東京の縁日を楽しんでいる。私は、彼女と双子の姉が不仲だったという話を聞いて、その理由がわかった気がした。きっと彼女の姉は善人だったのだろう。
正反対の性格である、双子の姉が私に殺されて。彼女のほうが生き残って、私に付き纏うようになった。悪の素養が、私との出会いによって開花したと。そういうことではないか。
「あの祭りから、しばらく経った後、道端で貴女が私に話しかけてきたよね。『私、貴女の秘密を知っています』って。狭い田舎だから、私のことを探すのは簡単だったんでしょうけど。いい度胸じゃない。当時、十才でしょ。私に殺されるとは思わなかったの?」
「心配してませんでしたよ、全然。警察に話す気はないって説明すれば、わかってもらえると信じてました。貴女は一匹狼で、友だちもいないというのは、見ていて理解できましたし。私も、そうでしたからね。お互いに、わかり合えるって確信できたんです」
そのとおりだった。私たちは互いに、それぞれの美を認め合ったのだ。善人にはない、魂の奥底にある、ぎらぎらとした輝きが私たちを結び付けたのだろう。周囲から疑われてはいけないので、上京するまでは、ネットで文通のような関係をひそかに私たちは続けていた。
「女性に連続殺人犯は少ないって、よく言われるけど。そうなんだろうね、きっと。私のほうは憑きものが落ちたって気がする。貴女はどう?」
人を一人、殺したことで満足できたのか、以降の私は特に悪事なども働いてない。私を理解している、彼女の存在も大きかったのだろう。いい刺激になって、退屈だった村での生活も普通に過ごすことができるようになった。友人というのは大切なものである。
「精神的にですか? ええ、今は安定してますよ。貴女が東京の大学に行って、故郷に私だけ残されてた時期は酷かったですけどね。内側からの衝動っていうんですか、そういうのが抑えられなくなって。だから独りで処理しちゃいました」
田舎の警察は、変わらず無能でしたよ。にっこりと、彼女はそう言った。
「付き合いを考えようかな。私まで逮捕される前に始末するべきかも」
「こちらこそですよ、いつだって貴女なんか片づけられますから。……それはそれで寂しいですけどね」
軽口を叩き合って、私たちは互いを必要としていると実感する。私も彼女も桐下駄を履いていて、もし縁日の会場に、刃物を持った襲撃者が来れば逃げられないだろう。かつて狼だった私たちは、今や無力な羊に過ぎなくて、その状態がとても心地いいのだ。
「月が綺麗ね。こんな夜は、貴女を殺して流したいな」
殺られませんって、と彼女が返す。私が殺した、少女の片割れは成熟した姿で隣を歩いていく。浴衣姿で川へ流す、彼女の遺体が月明かりの下に照らされる様を、私は脳裏に思い浮かべて笑った。




